中国民事訴訟法改正案 (第2回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国民事訴訟法改正案 (第2回)

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中国民事訴訟法改正案 (第2回)

~日本企業が把握しておくべきポイント~

河野特許事務所 2012年3月14日 執筆者:弁理士 河野 英仁

 

5. 法律監督の強化

 中国において検察機関は民事訴訟に対し法律監督を実施する。法律監督を検察機関が行うことによって裁判権行使の保証、法律の正確な運用、司法の公正及び社会公共利益の維持を確保している。さらなる法律監督の強化を図るべく、以下の改正案が提案されている。

 

(1)監督方式の追加

 従来民事訴訟法においては抗訴(検察院が行う控訴)という監督方式を規定しているにすぎなかった。抗訴の他に実務上は再審検察提案という制度が運用されている。

 

 再審検察提案とは人民検察院が民事、行政上告を処理する過程において,同級民法院がすでに効力を発生させた民事、行政判决あるいは裁定に確かに誤りがあることを発見した場合に,人民法院の協議同意を経て,人民法院に《再審検察提案》を提出し,これによって人民法院が再審手続を開始する一種の監督方式をいう。

 

 再審検察提案は抗訴監督方式と比較して簡便であるため,処理資源を節約でき,当事者の訴訟負担を軽減でき,また検察・人民法院双方の矛盾緩和と誤審是正の目的を達成できることから,注目されている手続である。2007年全国検察機構が提出した再審検察提案は5992件,同時期に提出された抗訴は11817件,約1:2の比である。

 

 今回の改正案では民事訴訟法上に再審検察提案制度を明記し積極的な運用を図らんとするものである。具体的には人民検察院は同級の人民法院がすでに法律效力を発生させた判决、裁定及び調解書に対し,誤りを発見した場合,同級の人民法院に対し再審検察提案を提出することができる。

 

 これにより、抗訴及び再審検察提案という2つの監督方式が併存することになった。特許訴訟の分野においても抗訴は無縁ではない。特許無効審決取消訴訟事件においては特許の創造性の有無が争点となったところ、北京市高級人民法院の判決に対し人民検察院による抗訴[1]が行われ、判決が覆された例もある。

 

第14条 人民検察院は検察提案、抗訴方式をもって民事訴訟に対する法律監督を実行する権利を有する。

 

第206条 最高人民検察院は各級人民法院がすでに法律效力を発生させた判決、裁定に対し,上級人民検察院は下級人民法院がすでに法律效力を発生させた判決、裁定に対し,本法第198条(再審理由)に規定する一に該当することを発見した場合,あるいは、調解書が社会公共利益を害することを発見した場合,抗訴を提出しなければならない。

 地方各級の人民検察院は同級人民法院がすでに発生させた法律效力を有する判決、裁定に対し,本法第198条(再審理由)に規定する一に該当することを発見した場合,あるいは、調解書が社会公共利益を害することを発見した場合,同級の人民法院へ再審検察提案を提出することができ,また上級の人民検察院に具申して、同級人民法院に抗訴を提出することもできる。

 

(2)監督範囲の拡大

 従来、判決後の執行及び人民法院の調解に対して、検察監督を実行することができるか否か民事訴訟法には明確に規定されていなかった。

 しかしながら、執行に際し当事者同士が共謀し,或いは、調解協議を通じて社会公共利益に損害を与えることも想定される。

 そこで、人民検察院が執行に対し法律監督を実行することができ、また、人民検察院が、調解書が損害社会公共利益を害することを発見した場合に,再審検察提案または抗訴を提出しなければならないとする規定が提案された。

 対応条文は上述した第14条及び第206条である。

 

(3)監督手段の強化

 人民検察院による法律監督をより強化すべく、当事者が人民検察院へ申請する際の条件と、人民検察院による訴訟状況の調査権限を明確化する規定が提案された。

 

第207条 以下のいずれかに該当する場合,当事者は人民検察院に再審検察提案或いは抗訴を申請することができる:

(一)人民法院が再審の申請を却下した場合;

(二)人民法院が期間を過ぎても再審申請に対し裁定をなさない場合;

(三)再審判決、裁定に明らかに誤りがある場合。

人民検察院を経て再審検察提案あるいは抗訴を提出し,人民法院が再審を行った場合,当事者は再度人民検察院に再審検察提案或いは抗訴を申請してはならない。

 

第208条 人民検察院は再審検察提案の提出或いは抗訴の必要により,人民法院の訴訟ファイルを調べることができ,かつ、当事者或いは訴外当事者が関連する状況を、調査し事実を確かめることができる。

 

6.裁判監督手続の整備

 裁判監督手続は誤審案件の是正,司法の公正維持,当事者の合法権益保護に対し,重要な作用を有する。実務上存在する問題に対し,以下の改正案が提案された。

 

(1)再審審級規定の明確化

 民事訴訟法は当事者が判决、裁定に誤りがあると判断した場合,一段階上級の人民法院に再審を申請できる旨規定している。

 今回の改正案では、公民間の訴訟に関しては同級の法院に再審を申請できるとされている。その他、現行民事訴訟法では管轄の誤りに対しても再審を申請する事ができるが(民事訴訟法179条第7号)、改正案では同号が削除されている。

 

第197条 当事者はすでに法律效力を発生した判決、裁定に対し,誤りがあると判断した場合,一段階上級の人民法院に対し再審を申請することができる;公民間で発生した案件は,原審人民法院に対しても再審を申請することができる。当事者が再審を申請した場合でも,判決、裁定の執行は停止しない。

 

第198条当事者の申請が以下の一に適合する場合,人民法院は再審を行わなければならない:

第1号 新たな証拠があり、原判決、裁定を覆すのに足りる証拠

第2号 原判決、裁定の事実認定に主たる証拠が不足している場合

第3号 原判決、裁定において認定した事実の主要証拠が偽造された場合

第4号 原判決、裁定において認定した事実の主要証拠が質証[2]を経ていない場合

第5号 審理案件に対し必要な証拠について、当事者が客観的原因により自身で収集できない場合に、書面により人民法院に調査収集を申請したが、人民法院が調査収集していない場合

第6号 原判決、裁定について法律適用に確かに誤りがある場合

第7号 審判組織の組成が非合法である、あるいは、法によれば回避すべき裁判員が回避しなかった場合

第8号 訴訟行為能力の無い者が法定代理人を経ることなく訴訟を代行し、或いは、訴訟に参加すべき当事者が、本人或いは訴訟代理人の責めに帰すことができない理由により訴訟に参加していない場合

第9号 法律の規定に違反し、当事者の弁論の権利を剥奪した場合

第10号 呼び出し状による召喚を経ることなく欠席判決をなした場合

第11号 原判決、裁定に遺漏があり、或いは、訴訟請求範囲を超えている場合

第12号 原判決、裁定を作り出す拠り所となる法律文書が撤回または変更された場合

第13号 裁判員が案件審理中に汚職で賄賂を受け取り、私情にとらわれて不正行為を働き、法を曲げて裁判行為を行った場合

 

(2)再審検察提案の申請あるいは抗訴手続の明確化

 実務上当事者は人民法院に再審を申請するだけでなく,さらに人民検察院に抗訴を申請する事が多い。司法資源節約の観点及び法律監督の実効力強化を目的として,当事者が再審検察提案を申請あるいは抗訴を申請する条件を以下のとおり明確化する提案がなされた。

 

第207条 以下のいずれかに該当する場合,当事者は人民検察院に再審検察提案或いは抗訴を申請することができる:

(一)人民法院が再審の申請を却下した場合;

(二)人民法院が期間を過ぎても再審申請に対し裁定をなさない場合;

(三)再審判決、裁定に明らかに誤りがある場合。

人民検察院を経て再審検察提案あるいは抗訴を提出し,人民法院が再審を行った場合,当事者は再度人民検察院に再審検察提案或いは抗訴を申請してはならない。

 

第208条 人民検察院は再審検察提案の提出或いは抗訴の必要により,人民法院の訴訟ファイルを調べることができ,かつ、当事者或いは訴外当事者が関連する状況を、調査し事実を確かめることができる。

 

 

7.執行手続の完全化

 中国においては勝訴しても執行が困難という、所謂「執行難」問題がある。執行難問題に対しては2007年法改正時に対策が強化されたが、さらに適切に執行を行わせるべく、以下の改正が提案されている。

 

(1)執行措置の強化

 被執行人の隠匿、財産の移転を防止すべく以下の改正案が提案された。

 

第237条 執行員は申請執行書あるいは引き渡し執行書を受け取った場合,被執行人に対し執行通知を送らなければならず,かつ直ちに強制執行措置をとることができる。

 

(2)執行逃避に対する制裁

 被執行人は執行を免れようと、他の訴訟を提起する場合がある。このような逃避行為を防止すべく以下の案が提案されている。

 

第111条 当事者間で共謀して、訴訟、調解等の方式を通じて債務を逃避し、他人の財産の横領を企てた場合,人民法院はその請求を却下しなければならず,かつ情状の程度に応じて罰金、拘留しなければならず;犯罪を構成する場合,法に基づき刑事責任を追求する。

 

第112条 被執行人が他人と共謀して,訴訟、仲裁等の方式を通じて法律文書にて確定した義務の履行を逃避する場合,人民法院は情状の程度に応じて罰金、拘留しなければならず;犯罪を構成する場合,法に基づき刑事責任を追及する。

 

(3)非執行に対する罰則の強化

 判決及び裁定の不履行に対しては従来個人に対しては1万元以下の罰金が科されていた。法改正案では罰則を強化すべく個人に対しては10万元以下まで引き上げられた。

 また単位[3]に対する罰金金額は従来の1万元以上30万元以下から5万元以上100万元以下までの引き上げを行い、罰則の強化を図った。

 

第114条 個人の罰金金額については,10万元以下とする。単位の罰金金額については,5万元以上100万元以下とする。

以上



[1] [2007]高行抗終字第135号

[2] 質証は当事者が提出した証拠の客観的真実性、関連性、及び合法性について事実確認及び対質(証拠調べの一つ)を行うものであり、裁判官の主導のもと開廷後に行われる(司法解釈[2001]第33号第47条)。

[3] 単位とは会社、事業体、国家機関及び社会団体等の法人及び非法人を含み、刑法で犯罪主体となる社会組織をいう。

 

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