中国民事訴訟法改正案 (第1回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国民事訴訟法改正案 (第1回)

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中国民事訴訟法改正案 (第1回)

~日本企業が把握しておくべきポイント~

河野特許事務所 2012年3月12日 執筆者:弁理士 河野 英仁

 

1.概要

 全国人民代表大会常務委員会は2011年10月24日中国民事訴訟法(以下、民事訴訟法)の改正案を公表した。民事訴訟法は2008年4月に改正法が施行されたばかりであるが、急増する中国民事訴訟の様々な問題を解消すべく法改正案が提案された。

 

 改正内容は、主に調解[1]、訴訟権利の保障、挙証制度、法律監督の強化、裁判監督手続及び執行等多岐にわたる。意見募集は11月30日をもって締め切られ、更なる審議を経て改正法が作成される見込みである。

 

 中国における知的財産権訴訟は第1審だけで年間4万件を超え、特許訴訟も5-6千件に達している。中国でビジネスを行う日本企業にとって中国での特許訴訟問題はもはや対岸の火事ではない。本稿では日本企業が中国特許訴訟の観点から把握しておくべき改正案のポイントについて概説する。

 

2. 調解に関する改正

(1)調解の優先

 当事者紛争解決の一手段として人民法院における調解がある。調解は、手続が簡便であり、また双方当事者が納得した上で行われるため、履行率が高いという長所がある。そのため本改正案では、当事者が人民法院に民事訴訟を起訴した場合、優先して調解を行うことができる規定が新設された。

 

121条 当事者は人民法院に民事紛争を起訴する場合,調解に適している場合、まず調解を行う。

 

(2)人民調解法との調整

 人民調解法とは、調解制度を完全なものとすべく、調解の活動を規定し、民間の紛争を適時に解決することを目的とする法律をいう(人民調解法第1条)。人民調解法は調解の合意に対する司法確認制度を規定しており,当該司法確認を経た調解合意は強制執行效力を有する。

 民事訴訟法と人民調解法に規定された調解合意の司法確認制度との関係を明確化すべく、新たに第6章“調解合意案件の確認”規定を新設した。これは、当事者が調解合意を司法確認することを申請する手続及び法律効果を明確に規定するものである。

 

第6節 調解合意案件の確認

192条 調解合意を司法確認することの申請は、双方当事者が人民法院調解法等の法律に基づき、調解合意の効力発生日から30日以内に、共同で調解組織所在地の基層人民法院に提出する。

 

第193条 人民法院は申請を受理した後,審査を経て,法律の規定に適合する場合,調解合意は有效と裁定し,一方当事者が履行を拒絶或いは未だ全部履行しない場合,相手方当事者は人民法院に執行を申請することができる;法律規定に適合しない場合,申請を却下する裁定を行い,当事者は調解方式を通じて原調解合意を変更でき、或いは、新たな調解合意を達成することができ,また人民法院に訴訟を提起することができる。

 

3.当事者の訴訟権利の保障

(1)起訴及び受理手続

 当事者の起訴権利を保障すべく,人民法院受理案件の手続を規範化し,明確にする改正案が提示された。

 

第122条 人民法院は当事者に法律規定に基づき享受する起訴権利を保障しなければならない。本法第118条(訴えの受理条件)に適合する起訴に対し,必ず受理しなければならない。起訴条件に適合する場合,七日以内に立案しなければならず,かつ当事者に通知し;起訴条件に適合しない場合,七日以内に裁定書を発行しなければならず,受理しない;原告は裁定に対し不服の場合,上訴することができる。

 

(2)開廷前準備手続の完備

 開廷前の準備手続を完備する改正案が提案されている。訴訟実務及び国外の法制度を参考とし、審理を促進すべく諸事情に応じて開廷前準備手続における複数の処理方法が以下のとおり規定された。

 

第132条 人民法院は受理した案件に対し、状況に応じて以下のとおり処理する:

(一) 当事者間で争いがないものに対し,督促手続を適用できる場合,督促手続[2]に転ずる。

(二)当事者間の争いが大きくない場合、調解等の方式を採用しすぐに紛争を解決する。

(三)案件の性質に基づき、簡易手続或いは普通手続の適用を確定する。

(四)開廷する必要がある場合、当事者に証拠交換[3]を要求し、争議焦点を明確にする。

 

(3)保全制度の明確化

 保全制度とは、侵害行為により直ちに侵害行為を停止しなければ、回復しがたい損害を蒙る場合に、人民法院に対し、提訴前の侵害行為停止を求める制度をいう。保全制度は侵害行為の発生を未然に防止し、損害の拡大を防止せんとするものである。

 著作権法、専利法[4]、商標法、海事訴訟特別手続法等には既に保全制度に関する規定が設けられている。本改正案では、上述した法律との適合及び財産保全の観点から以下の規定が設けられた。

 

第99条  人民法院は当事者一方の行為或いはその他の原因により,判決にて執行が困難或いは当事者に損害をもたらす可能性ある案件に対し,相手方当事者の申請に基づき,その財産に対し保全を行うよう裁定することができ、その一定の行為をなすよう、或いはその一定の行為を禁止するよう命じることができる;当事者が申請しない場合,人民法院はまた必要に応じて保全措置をとるよう裁定することができる。人民法院は保全措施をとり,申請人に相応の担保を提供するよう命じることができ,申請人が担保を提供しない場合,申請を却下する裁定をなす。人民法院が申請を受け取った後,状況が緊急の場合,48時間以内に裁定をなさねばならない;保全措置をとる裁定をなす場合,直ちに執行を開始しなければならない。

 

(4)裁判文書の公開制度

 裁判文書の公開は、審理の質向上、法律解釈等に関し重要な作用を有する。そのため以下の規定が提案されている。

 

第151条 判決書は判決結果及び当該判決をなした理由を記載しなければならない。判決書の内容は以下を含む:

(一)事件のあらまし、訴訟請求、争議の事実及び理由;

(二)判決で認定した事実及び適用法律とその理由;

(三)判決結果及び訴訟費用の負担;

(四)上訴期間及び上訴法院。

判決書は裁判官、書記官により署名され,人民法院の印章が付される。

第153条 裁定書は裁定結果及び当該裁定をなした理由を記載しなければならない。裁定は次に掲げる事項について適用される。(中略)

第155条 公衆は法律效力が発生した判決書、裁定書を閲覧することができる。ただし、国家秘密、商業秘密及び個人のプライバシーに関する内容は除外する。

 

4.当事者挙証制度の完備

 当事者は自ら提出した訴訟上の請求において依拠する事実、または、相手方の訴訟上の請求への反駁において依拠する事実について証明する事が可能な証拠を提供する責任を負う(司法解釈[2001]第33号第2条第1項)。すなわち、原則として権利を主張する側自身に挙証責任がある。証拠は人民法院が認定した事実であり、かつ裁判をおこなう基礎となる。当事者挙証制度を完備し民事紛争を適切に解決すべく、以下の改正案が提案されている。

 

(1)証拠受領手続の明確化

 当事者が提出した証拠材料を受け取る手続を明確化する規定が新設された。

 

第66条 人民法院は当事者が提出した証拠材料を受け取り,受取書を発行しなければならず,証拠名称、頁数、部数及び受取時間を記載し,かつ処理担当者によるサインまたは捺印を行う。

 

(2)証拠の積極的な提出

 挙証制度の原則を徹底し、当事者に積極的に証拠を提供させるべく以下の規定が新設された。

 

第65条 当事者は自身がなした主張に対し、適時に証拠を提供しなければならない。適時に証拠を提供しない場合,人民法院はその理由を説明するよう命じなければならない。理由が成立しない場合,人民法院は状況に応じて訓戒、罰金、訴訟の遅延によりもたらされた損失の賠償を命じ、当該証拠を採用しない。

 

(3) 司法鑑定手続の明確化

 司法鑑定とは、訴訟の過程において、専門性問題を明らかにすべく、専門的知識を有する者または特定の司法鑑定機構がなす意見または結論いう。司法鑑定は技術的範囲の属否の判断等においてしばしば活用されている。なお、特許訴訟において司法鑑定は当事者の申請に基づき手続が行われることが一般的であり、人民法院が職権で申請を行うことはほとんどない。本改正案では司法鑑定手続をより明確化すべく以下の規定が新設された。

 

第76条 当事者は事実の専門性問題を明らかにすることについて、人民法院に対し鑑定を申請することができる。当事者が鑑定を申請した場合,双方当事者による協議により資格を有する鑑定人を決定する;協議が成立しない場合,人民法院が指定する。当事者鑑定を申請していない場合,人民法院は専門性問題に対し、鑑定が必要であると判断した場合,資格を有する鑑定人に委託し鑑定を行わなければならない。

 

第77条 鑑定人は鑑定を進めるのに必要な案件資料を調べる権利を有し,必要であれば当事者、証人に問うことができる。鑑定人は書面による鑑定意見を提出しなければならず,鑑定書にはサインまたは印を付さねばならない。

 

第78条 当事者は鑑定意見に対し異議がある場合、または、人民法院が鑑定人は出廷する必要があると判断した場合,鑑定人は出庭して証言しなければならない。人民法院の通知を経ても,鑑定人が出庭による証言を拒んだ場合,鑑定意見は認定事実の根拠とはみなしてはならないならない。

 



[1] 中国では、訴訟審理中に行う調停を調解という(民事訴訟法第9条)。

[2]督促手続とは、人民法院が債権者の申請に基づき,支払い命令の方式をもって,債務者に法定期間内に債権者に対し、金銭及び有価証券の給付を履行する義務があることを催促することをいい,債務者が法定期間内に義務を履行しないまたは書面による異議を提出しない場合に,債権者が支払い命令に基づき人民法院に対し強制執行を申請することができる手続をいう。

[3]証拠交換とは、開廷前に公平の観点から当事者双方に証拠を提出させ、争点を明確化する手続をいう。

[4]専利法第66条第1項

 特許権者又は利害関係者は、他人が特許権侵害行為を実施しているか、又は実施しようとしており、それを直ちに差止めないと、自分の合法的権益が回復し難い損害を蒙ることを証明できる証拠を持っているときは、提訴前に、人民法院に関連行為の停止命令措置を講じるよう申立てることができる。

 

(第2回へ続く)

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