- 羽柴 駿
- 番町法律事務所
- 東京都
- 弁護士
対象:民事家事・生活トラブル
- 榎本 純子
- (行政書士)
Tのほかに、私は旅館の帳場にいた経営者の妻Nからも話を聞くことができました。それによると、事件当日は風呂修理業者が旅館の前で土をこねていたこと、午後0時ころにHが路上にいて2階にいたTと話していたことなどは事実であり、また当日Nは夫と2人で帳場を預かり、午後2時前には掃除・洗濯などしながら帳場にいたけれどもHが外に出たのを見たのは午後0時ころの一度だけであるということでした。このようなNの話は大筋でTの話と合っているように思えました。もしTの話が本当だとすると、Hにはアリバイがあることになります。
このような調査をした後に、私は再びHのもとを訪れ、話を聞きました。私は、Hの話の中で高校野球の試合経過が出てきたのに注目しました。もしHが午後2時ころに犯行を犯したのなら、少なくともその前後20−30分は試合のテレビ中継を見てはいないはずですし、その直後に交番に連れていかれ逮捕されたので、後で試合経過を知る機会もなかったはずだと考えたからです。
この試合経過の裏づけをとるために、私は弁護士会の図書室に行き、試合の翌日の新聞を見てみました。試合経過は確かにHの言うとおりのものでした。そして試合時間を見ると、「午前11時51分開始、午後1時55分終了」とありました。これを見ていたHが犯行を犯せるはずはない。そう思い、私は裁判所に証拠として提出するために記事をコピーしました。
(次回へ続く)