名誉毀損とプライバシー侵害に対する対策 - 民事事件 - 専門家プロファイル

今林 浩一郎
今林 浩一郎
今林国際法務行政書士事務所 代表者
東京都
行政書士
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名誉毀損とプライバシー侵害に対する対策

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2010-07-03 19:45

名誉権もプライバシー権も憲法上は憲法第13条の幸福追求権から派生する人格権に根拠があります。そして、名誉毀損もプライバシー権侵害も民事上の不法行為による損害賠償請求の原因になります。一方、刑法上は名誉毀損罪(刑法230条)のみが規定されています。もっとも、プライバシー権侵害が同時に名誉毀損罪の成立要件を充たせば名誉毀損罪も成立します。名誉毀損とプライバシー権侵害の成立は択一的な関係にはありません。


まず、名誉毀損罪は、具体的事実を不特定又は多数人(公然性の要件・判例は「たとえ3~4名の前で話してもそこから更に不特定多数人に伝播する蓋然性があれば要件を充たす」とする)の面前で摘示又は伝播し、人の社会的評価を低下させることにより成立します。もっとも、具体的事実を摘示せず、抽象的言辞(例えば、「バカ野郎」とか「マヌケ」など)のみを用いた場合には名誉毀損罪(刑法230条)は成立せず侮辱罪(刑法231条)のみが成立します。

 

ところで、名誉毀損罪には公共の利害に関する場合の特例(刑法230条の2)の規定があり、同条1項は「(事実の摘示)が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない」と規定します。同時に、判例は「本条一項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実だと誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らして相当の理由があるときは、故意がなく、名誉毀損罪は成立しない」(最大判昭44・6・25刑集二三-七-九七五)と判示します。ですから、たとえ名誉毀損罪の要件を充たしても、これらの例外規定の要件を充たす場合には処罰されません。民事上もこの基準に準じて理解されます。


次に、プライバシー権は、最初に米国の判例法上認められ、発展してきた権利であり、現在では日本においても憲法上の権利として認められています。日本において認められたプライバシー権と米国のプライバシー権は全く同じものではありませんが、同質的な権利と解されるので、米国の当該生成過程に注目するのは有益です。1960年、米国の不法行為学者プロッサーは、米国の判例法上のプライバシー権を4類型に分類し、その第3類型にPUBLIC DISCLOSURE OF PRIVACY FACTS(他人に知られたくない私事を公開すること)という類型を置いています。

 

同時に、東京地判昭39年9月28日(下民集一五-九-二三一七)は、プライバシー権を「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」と意義付け、それを公表することが違法となる要件として、(1)私生活上の事実又は事実らしく受け取られるおそれのある事柄であること、(2)一般人の感受性を基準として当該私人の立場に立った場合公開を欲しない事柄であること、(3)一般の人々にいまだ知られていない事柄であること、等の基準を示しました。また、現在では、判例上、プライバシー権に「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」という消極的側面のみではなく、自己決定権の1つとして、自己情報コントロール権(どの程度自己に関する情報を開示するかを自分で決める権利)という積極的側面も認めるようになってきています(東京地判昭59年10月30日、東京高判昭63年3月24日)。さらに、最近では、本来は秘匿性の低い名前、住所、電話番号などの特定の個人を識別できる個人情報も、みだりに開示を欲しない情報として、これをプライバシー権の一端として保護する判例も現れています(早稲田大学江沢民講演会名簿提出事件・最二小平15年9月12日、東京地判平13年4月11日、東京高判平14年1月16日)。

 

ところで、プライバシー権侵害の民事上の不法行為の成立要件を考慮するに際し、名誉毀損罪における公共の利害に関する場合のような特例が認められるかが問題になります。アメリカでは、公人(公職に就く者等)は、社会から注視されており社会の関心が高いがゆえに、プライバシー権を制限されるという法理があります(公的人物の法理・公共の関心事の法理)。しかしながら、日本では、この法理は判例上独自の法理として機能していません。この点、最高裁は、プライバシー権侵害の違法性に関しては、公表されない法的利益と表現の自由を比較衡量して判断するという見解を示しています(最三小判平6・2・8民集48巻2号149頁・ノンフィクション「逆転」事件)。

 

最後に、名誉毀損及びプライバシー権侵害を受けた場合の対策ですが、刑法230条は名誉毀損罪を規定しますから、被害者は司法警察員又は検察官に告訴できます(刑事訴訟法230条)。同時に、民事上不法行為による慰謝料請求の原因にもなります。プライバシー権侵害のみの場合は、告訴の対象にはなりませんが、民事上不法行為による慰謝料請求の原因にはなります。さらに、加害者による名誉毀損又はプライバシー権侵害による侵害行為を止めさせるために仮処分停止命令を使うことができます(民事保全法23条2項、24条・仮の地位を定める仮処分命令)。

 

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