中国における特許性(第12回) - 特許 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国における特許性(第12回)

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中国におけるコンピュータ・ソフトウェア及びビジネス方法関連発明の特許性
 〜審決及び判例に基づく特許性の分析〜(第12回) 
河野特許事務所 2010年6月14日 河野 英仁、聶 寧楽


(3)人民法院の判断
 人民法院は,審査指南第2部分第9章第二節の技術3条件の原則を述べた上で,781出願について以下のとおり判断した。
 「本願明細書における解決課題は,運送処理過程により運送物資の数量を最大化し,また物資を積載・運輸するコストを最小化することにある。従って本願が解決しようとする課題は管理上の問題であり,かつその特許請求の範囲に記載された解決案は公知のハードウェア構造において構成した現有する運送システムの基礎上のものであり,管理物質の運送数量及びコストに対する特定アルゴリズムに係るコンピュータプログラムを用いて実行されるものである。従って,専利法における技術問題ではなく,このことから奏される効果もまた技術性を有さず,保護対象に属さない。」
 すなわち本願発明の解決課題は技術的な課題ではなく,効果も数量最大化及びコスト低減という非技術的効果であることから,法上の発明に該当しないと判断されたのである。

(4)考察
 技術三要素に基づく判断は中国独特のものであり,他国の判断基準と比較すれば非常に厳しい要件を課しているといえる。
 本件について出願人は米国,欧州及び日本に特許出願している。米国では同様の請求項について拒絶理由を受けることなく特許14)が成立している。米国連邦巡回控訴裁判所が判示した機械-変換テスト15)を用いて特許性について分析すると,請求項1に係る方法発明は物資運送システム及び流量計というハードウェアに実装されており,かつ,当該ハードウェアの使用は権利範囲に意味のある制限を加えているといえ,米国特許法第101条16)の要件を具備するといえる。
 欧州においても同様に拒絶理由を受けることなく特許が成立している17)。発明の成立性を規定する欧州特許付与に関する条約第52 条18)に基づく拒絶理由は通知されていない。
 日本においては審査において拒絶査定,審判においても拒絶査定維持の審決がなされたが,その拒絶は日本国特許法第36 条第6 項第1 号及び同項第2 号の記載不備,並びに,同法第29 条第2項の進歩性を理由とするものである19)。日本国審査官及び審判官は日本国特許法第29 条第1 項柱書を理由とする拒絶理由は通知していない。
 同一請求項に対する各国の判断を比較すれば,中国における技術三要素判断が如何に特異であるか理解できる。方法発明にはハードウェアを用いたソフトウェア処理による金融取引の活性化を課題とするアイデア,自動車分野における安全性の向上を課題とするアイデア,映像配信における著作権保護機能を向上させることを課題とするアイデア等,必ずしも技術的な課題に直結しない有用なアイデアが数多く存在する。このような方法発明はBM関連発明でなくとも全て技術的課題が存在しないことを理由に門前払いされてしまう。
 2009年10 月改正専利法以前の専利法第1 条は法目的として以下のとおり規定していた。
 「第1 条 発明創造の特許権を保護し,…科学技術の進歩と革新を促進し,社会主義現代化建設の需要に適応するため,特にこの法律を制定する。」
 専利法の立法趣旨である「科学技術の進歩を促進する」に鑑みれば,技術三要素を具備する発明のみを保護すれば良く,それ以外の課題を有する発明は排除するという考えも理解できよう。しかしながら,改正専利法第1 条は,これを改め,
 「第1 条 特許権者の合法的権利を保護し,…
科学技術の進歩と経済社会の発展を促進する要請に応えるためにこの法律を制定する。」と規定した。
 すなわち,科学技術の進歩のみならず経済社会の発展を促進することが法目的の一つとして追加とされた。このような改正経緯及び各国制度との調和を図る観点からすれば,CS・BM関連発明をより幅広く保護する方向へ審査指南を改訂することが強く望まれる。
 

 

 

 

 

(第13回に続く)  

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