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早わかり中国特許
~中国特許の基礎と中国特許最新情報~
第15回 中国特許出願前の注意事項 (第2回)
河野特許事務所 2012年9月18日 執筆者:弁理士 河野 英仁
(月刊ザ・ローヤーズ 2012年7月号掲載)
3.職務発明の取り扱い
(1)職務発明の帰属
中国現地法人の技術者が発明を完成させた場合、上述した秘密保持審査の問題に加えて職務発明の問題が生じる。中国では職務発明に関し専利法第6条に以下のとおり規定している。
専利法第6条
所属機関又は組織の任務を遂行し又は主として所属機関又は組織の物的技術的条件を利用して完成させた発明創造は職務発明とする。職務発明の特許出願する権利はその機関又は組織に帰属し、出願が許可された後は、その機関又は組織が特許権者となる。
非職務発明創造を特許出願する権利は発明者又は創作者に帰属し、出願が許可された後は、発明者又は創作者が特許権者となる。
所属機関又は組織の物的技術的条件を利用して完成させた発明創造について、機関又は組織と発明者又は創作者との間に契約があり、特許出願する権利及び特許権の帰属について約定されているときは、その約定に従う。
すなわち、職務発明に関する取り扱いは企業側と発明者との間の契約が優先され、契約がない場合でも職務発明に関する出願をする権利(日本の特許を受ける権利に相当)及び特許権は企業側に属することとなる。なお、中国契約法第326条及び第327条[1]にも同様の規定がなされている。
(i)職務発明に属するもの
専利法第6条にいう所属機関又は組織の任務執行中に完成した職務発明とは、以下のものをいう(細則第12条)。
(a)本来の職務の中でなした発明創造。
(b)所属機関又は組織から与えられた本来の職務以外の任務を遂行する中でなした発明創造。
(c)定年退職、元の所属機関から転職した後又は労働や人事関係が終了後1 年以内になしたもので、元の所属機関又は組織において担当していた本来の職務又は元の所属機関又は組織から与えられた任務と関係のある発明創造。
また専利法第6条にいう所属機関又は組織には、一時的に勤務する機関又は組織も含まれ、所属機関又は組織の物的技術的条件とは、所属機関又は組織の資金、設備、部品、原材料、又は対外的に公開していない技術資料などをいう。
(2)職務発明に対する報酬
専利法第16条は職務発明の報酬に関し以下のとおり規定している。
専利法第16条
特許権を付与された機関又は組織は、職務発明の発明者又は創作者に対して報奨を与えなければならない。発明創造の特許を実施した後、その普及応用の範囲及び取得した経済的利益に基づき、発明者又は創作者に対して合理的な報酬を与えなければならない。
特許権を付与された機関又は組織は、発明者又は創作者と、専利法第16条に規定の奨励と対価の支払い方式および金額を約束し、または上記機関又は組織が適法に作った規定・制度において規定することができる(細則第76条)。
(i)報奨金
ここで、職務発明に関する報酬規定が存在しない場合、細則第77条に規定が適用され、特許権公告日から3月以内に以下の報奨金を支払わなければならない。
(a)発明特許の報奨金:3000 元以上
(b)実用新型特許の報奨金:1000元以上
(c)外観設計特許の報奨金は1000元以上
(ii)自社での実施技術に係る特許
さらに、発明者又は考案者の提案がその所属機関又は組織に採用されて完成した発明創造については、特許権が付与された機関又は組織は優遇を与えた報奨金を支給しなければならない。
自社での実施技術ついての報奨金について取り決めがない場合も細則第78条の規定に基づき以下の額を対価として支払わなければならない。
(a)発明創造の特許を実施した後、毎年当該発明又は実用新案の実施により得られた利益の2%以上
(b)当該意匠の実施により得られた利益の0.2%以上
なお、毎年発明者に支払う代わりに上記比率を考慮して一括して報奨金を支払っても良い。
(iii)他社へ実施許諾した特許
他社へ実施許諾した特許について取り決めがない場合も細則第78条の規定に基づき以下の額を対価として支払わなければならない。
特許権が付与された機関又は組織が他の機関又は組織又は個人にその特許の実施を許諾した場合、受領した実施料の10%以上
以上のとおり中国現地法人の従業者から発明が生じる場合、どのような技術が職務発明に属するか、どのような額を報償として付与するか明確となるよう、従業者との間で契約しておくことが重要となる。契約がない場合、上述した専利法及び実施催促に基づく規定が適用されてしまう。
4.日本本社との関係
中国子会社(現地法人)の従業員がなした発明を原始的に日本本社に帰属させるためには、開発委託契約を結ぶと共に、委託発明を日本本社に原始的に帰属させることを明確にしておくことが必要である。専利法第8条は以下のとおり規定している。
専利法第8条
2つ以上の機関又は組織又は2人以上の個人が共同で完成させた発明創造、又は一つの機関又は組織又は個人が他の機関又は組織又は個人の委託を受けて完成させた発明創造については、別段の協議がある場合を除き、特許出願する権利は完成又は共同で完成させた機関又は組織又は個人に帰属する。出願が許可された後は、出願した機関又は組織又は個人が特許権者となる。
このように専利法第8条は、委託発明に関し協議がなされていない場合、特許を出願する権利が中国子会社に帰属することとなる旨規定している。逆に言えば、委託発明を日本本社に属するよう協議しておけば、日本本社が現地で生まれた発明を原始的に取得することが可能となる。
特許出願後に特許出願権及び特許権を中国子会社から日本へ譲渡することも可能であるが、技術輸出入管理条例の規定に基づく手続及び知識産権局への登録手続き等が以下に示す専利法第10条により要求されるため、出願前に特許を出願する権利を日本本社に帰属させておいた方が良い。
専利法第10条
特許出願権及び特許権は譲渡することができる。
中国の機関又は組織又は個人が特許出願権又は特許権を外国人、外国企業又は外国のほかの組織に譲渡する場合、関係法律、行政法規の規定に基づいて手続きを行わなければならない。
特許出願権又は特許権を譲渡する場合、当事者は書面による契約を締結し、国務院特許行政部門に登録しなければならない。国務院特許行政部門はこれを公告する。特許出願権又は特許権の譲渡は登録の日より効力を生じる。
[1] 中国契約法第326条 職務技術成果の使用権、譲渡権が法人又はその他の組織に属する場合、法人又はその他の組織は当該技術成果について技術契約を締結することができる。
法人またはその他の組織は当該職務技術成果の使用権及び譲渡権より得た収益に基づき、当該技術成果を完成させた個人に、一定比率の報奨金を与えなければならない。
法人またはその他の組織が契約を締結し、職務技術成果を譲渡する場合、職務技術の完成人は同等条件で優先権を有する。
職務技術成果とは、法人またはその他の組織の任務を執行し完成した技術結果、または法人又はその他の組織の物質技術条件を利用し完成した技術成果をいう。
第 327 条 非職務技術成果の使用権、譲渡権は技術成果を完成した個人に属する。技術成果を完成した個人は当該非職務技術成果について技術契約を締結することができる。
(第3回へ続く)
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