- 敷浪 一哉
- 有限会社シキナミカズヤ建築研究所
- 建築家
対象:住宅設計・構造
この家の設計がスタートしたのは3年も前。
途中1年ほど計画がストップしたり、構造が確定した後に法改正の影響でその手法が使えなくなってしまったり、予算の調整に苦労したりと、順調とはいかないプロジェクトだったと思います。
ただ、この3年間、この家の設計を通じて家づくりに対する考え方は大きく成長できたんじゃないかと思います。
それは、僕の設計は人の動作を操作するのではなく、人の感情を操作することが目的だったということ。
「この場所ではこれをやってほしい」ではなく「この場所はこういう気持ちになってほしい」ということ。
ちょっとしたニュアンスの違いに見えるかもしれないでしょうけど、僕の中では全然違ってるんです。
例えば、景色のいい場所でその景色を楽しむという場合。
動作だけで考えると、ただ景色が見える空間を生み出せばいいということになります。
だけど、景色の感じ方はガラス越しにみるのと、窓が無い状態で見るのとでは全然違うわけなんです。
目だけじゃなくて、音や匂いや風が肌に触れる感触とか、そういう部分が感情を左右するわけなんです。
景色に対してそういう部分を気にしながら設計できたのが、今設計中のフッツの家 です。
海に対して大きなガラス張りにすればもっと広い視野になったんですが、それでは海を感じることはできないと思ったわけなんです。
ちょっと話がそれてしまいましたが、とにもかくにもまだ経験も浅い僕に快く託してくださった建主さんにただひたすら感謝の気持ちです。
引渡日と引越し日が重なっているため建主さんも忙しそうでしたから、感慨に浸ることは控えめに早めに引き上げてきてしまいました。本当は名残惜しいこの家に僕もずーっといたい気持ちだったんですけどね。
引渡が完了して帰ろうと思ったら、建主さんが握手を求めてきてくれました。
うれしかったなぁ。これぞ家づくりだ!と思いました。
これからどんな暮らしが待っているんでしょう。「緊張感のある空間だから家具を置くのがもったいない」と建主さんがおっしゃってましたが、いやいや大丈夫ですよ。
生活臭を与えると、緊張感はやさしさに変わるんですよ。この家は。
さてさて、僕もひとつプレッシャーから解放されました。
次にこの家に遊びに行くときが楽しみです。
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シキナミカズヤ建築研究所