ジェットコースターの時代を生き抜く その2 - 住宅設計・構造設計 - 専門家プロファイル

安井 正
クラフトサイエンス一級建築士事務所 
建築家
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ジェットコースターの時代を生き抜く その2

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ジェットコースターの時代を生き抜く術。まずは、あんまり深刻にならないことだ。それには、人間の意識をあんまり過信しすぎないこと。そして、いまこの世に自分が生まれ、心臓が動いて、血が巡って、生きているという事実。それを信用してよいのだということ。いまの自分のまわりの家族や友人や仕事の関係者のなかにいること、そこで起きている出来事を信用していいのだということ。

「宇宙船地球号操縦マニュアル」で知られるバックミンスター・フラー(1895−1983)は32歳のころ事業に失敗、貧困の中、劣悪な住環境のなか幼子を亡くしてしまう。失意のどん底に突き落とされたフラーは自殺をはかる。しかし、フラーはそこで深い啓示を受けたかのように踏みとどまる。フラーの生涯をかけた取り組みが、そこから始まる。フラーはそのとき深く認識したという。われわれは宇宙によってデザインされている。宇宙はこの上なく精妙にデザインされている。真に意味のあることに取り組んでいれば、宇宙が食べさせてくれるさ・・・と。

私が建築学科の学生のとき、バックミンスター・フラーの研究を卒業論文のテーマにした。科学とデザインの関係に興味があったからだ。そのとき梶川泰司さん。研究室のフラーゼミを専攻する仲間たちと、当時、神奈川県の国府にあったシナジェティックス研究所へ行き、フラーについて様々なことを教えていただいた。梶川さんはフラーの生前、直接フラー研究所でフラーの晩年の幾何学研究の助手としての仕事を経て、日本を拠点にフラーの本の翻訳とシナジェティックスの発展的研究に従事されていた。

そこで、私たちはフラーの著書「コスモグラフィー」の下訳のお手伝いをさせていただいた。担当箇所を決めて、それぞれが訳文を持ち寄って、読みあわせをし、理解を深める。そんな作業を何回か重ねた。

フラーの巨大な思想に、梶川さんのところに出入りしたおかげで、ほんの少し触れることができた。その全貌を理解するには到底及ばなかったが、私なりに感じていたことは、フラーの思想のなかにある「個人の尊厳」のようなものだ。それは、私たちは誰もが意味のある存在として宇宙の相補性の網目のなかで生きている。その相補性は私たちの意識を超えたものなので、私たちは完全には理解できないし、意識化できない。だから私たちは失敗もする。でも相補性のなかではその失敗にも意味がある。次の展開のきっかけになったり、思わぬところで誰かの役に立っていたりする。本当の意味での失敗はありえないのだ。その意識を超えたところでの存在価値を信じていてよいのだ、ということ。

これだけ書くと、なんだか神秘主義のように聞こえてしまうかもしれない。確かにフラーの思想には神秘主義的なところもなくはない。アメリカのトランセンデンタリズム(超絶主義)の大家だった叔母さんの影響もフラーは受けているとみる説もある。

そこには、仏教的な考え方の「縁」であるとか「他力」ということと共通性があるのだと思う。神秘主義だから悪いと決め付けることもないだろう。

しかし、フラーはロジカルシンキング、クリティカルシンキングの元祖のようなところがあるし、フラーは科学的な思考を徹頭徹尾つらぬいた人でもある。だからこそフラーは単純に神秘家とも、客観的で冷徹な科学者とも違った、全体性をもった思想として、いまも学ぶに値するのだと思う。