米国特許判例:均等侵害と故意侵害(第4回) - 企業法務全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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米国特許判例:均等侵害と故意侵害(第4回)

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米国特許判例紹介:均等侵害と故意侵害(第4回) 
〜心臓用カテーテルの均等判断〜

       Jan K. Voda, M.D.,
         Plaintiff-Cross Appellant,
         v.
         Cordis Corp.,
      Defendant-Appellant.

河野特許事務所 執筆者 弁理士 河野英仁 2008年11月4日


4.CAFCの判断
非本質的テストとFWRテスト
 CAFCは非本質的テスト及びFWRテストのいずれにおいても、被告のXBカテーテルの曲線部はクレームの直線部と均等であると判断した。

 米国における均等の判断は、均等物との相違が非本質的か否かにより判断する非本質性テストと、均等物が実質的に同一の機能(Function)を果たし、同一の方法(Way)で、同一の効果(Result)をもたらす場合に均等と判断するFWRテストと、の2つが存在する。裁判所はこれら2つのテストを状況に応じて使い分け均等か否かを判断する。

(1)非本質的テスト
 原告側の証人は、再設計されたXBカテーテルの曲線部と、クレームに係る直線部との間の形状の相違は非本質的であり、心臓を専門とする医者であっても、使用の際、これら2つを区別することが困難であると証言した。以上のことからCAFCは非本質的テストに基づいて、被告のXBカテーテルは、均等論上侵害に該当すると判断した。

(2)FWRテスト
 被告は文言侵害に該当する直線形状のカテーテルを曲線形状に変えたが、この再設計された曲線部は、原告の直線部と同一の方法(Way)で機能(Function)する。この曲線部は使用に際し、所定長が心臓心門の反対側で大動脈壁に係合するからである。すなわち、図1に示すクレーム1に係る発明と同一の方法で同一の機能を有する。

 また、XBカテーテルの曲線部が大動脈内壁に接する長さと、クレーム1に係る発明の直線部が大動脈内壁に接する長さ(約1.5cm〜2.5cm)は、実質的に同一であり、心臓手術を専門とする医者でさえ識別することが困難であった。

 さらに、XBカテーテルはその先端が左主心臓動脈の心門正面に位置することから、クレーム1に係る発明と同一の効果(Result)をも奏する。以上のとおり、XBカテーテルは実質的に方法、機能及び効果がクレーム1と同一であることから、CAFCは均等論上侵害に該当すると判断した。

地裁の判断はSeagate事件に照らし妥当か否か
 CAFCは、地裁が故意侵害であるとした判断は、Seagate事件の要件に照らせば、結論が覆る可能性があることから、地裁の判決を取り消し、再度Seagate事件に従い審理するよう命じた。

 本事件においては地裁の判決後に、Seagate判決がなされた。CAFCは、地裁の判断が、Seagate事件の適用要件に照らし、結論が覆る可能性がある場合、故意侵害に関し事件を差し戻す必要があると最初に述べた。

 Seagate事件においては、被告の行為が、
「客観的に見て無謀(reckless)であったか否か」
を特許権者が、立証すべしと判示された。具体的には、
「特許権者は実施行為が有効特許の侵害を構成する蓋然性が客観的に高いにもかかわらず、侵害者が実施したことを示す明確かつ確信のある証拠を示さなければならない。」
と判示した。

 さらに、Seagate事件は、故意侵害の責任を逃れるために、弁護士の鑑定を得なければならないという積極的な義務はないことを明確にしている。

 本事件において、被告は当初原告特許をコピーしたカテーテルを製造及び販売したが、特許成立前に直線部を曲線部に設計変更していた。この設計変更は上述のとおり結局均等論上侵害と判断されるほど微細なものであったが、被告はさらに非侵害とする弁護士による複数の鑑定書も取得していた。以上の事実及びSeagate事件における故意侵害の要件に照らせば、被告の行為が故意であったか否かの結論は変更される可能性が高いことから、CAFCは地裁に再度審理を行うよう事件を差し戻した。


5.結論
 CAFCは、均等論上侵害に該当すると判断した地裁の判決を支持した。その一方で、CAFCは故意侵害と判断した地裁の判断を無効とし、Seagate事件の判示事項に従い、再度故意か否かを判断するよう命じた。(第5回につづく)