インド特許法の基礎(第14回)(1)~特許発明の実施報告制度~ - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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インド特許法の基礎(第14回)(1)~特許発明の実施報告制度~

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インド特許法の基礎(第14回)(1)

~特許発明の実施報告制度~

 

2014年7月18日

執筆者 河野特許事務所 

弁理士 安田 恵

  

1.はじめに

 インドには,特許発明の商業的実施状況を定期的に報告することを特許権者又は実施権者に義務づける独自の制度が存在する(第146条)。排他的権利を有する特許権者に対してインドにおける特許発明の適正な実施を促すための制度である。長官は,特許権者又は実施権者から提供された特許発明の実施状況に関する情報を公開することができる(第146条(3))。実施状況の報告を怠ると罰金の対象となり,実施状況の虚偽報告を行った者には罰金刑又は禁固刑が科される(第122条)。

 

2.排他的権利と特許発明の実施

 特許を付与された特許権者は(第43条),特許発明の実施に関して排他的権利を有する。特許の主題が製品である場合,特許権者は,権原無き第三者がインドにおいて当該製品を製造し,使用し,販売申出をし,販売し又はこれらの目的で輸入する行為を排除することができる(第48条(a))。特許の主題が方法である場合,特許権者は,権原無き第三者が当該方法を使用する行為,インドにおいて同方法により直接得られた製品を使用し,販売の申出をし,販売し又はこれらの目的で当該製品を輸入する行為を排除することができる(第48条(b))。

 

 一方,特許権者には特許発明の適正な実施が求められている。特許は発明を奨励し,インドにおける経済的・技術的発展に寄与するためのものであり,特許権者及び実施権者が第三者による特許発明の実施を排除し,自身も実施しないような状況を許せば,インド経済の発展をむしろ阻害する結果になるためである。インド特許法によれば,特許権を行使するに当たっては,「特許は,発明を奨励するため,及び当該発明がインドにおいて商業規模で,かつ,不当な遅延なしに適切に実行可能な極限まで実施されることを保証するために,付与されるものであること」(第83条(a)),「付与された特許は,公衆の衛生及び栄養物摂取の保護を阻害せず,かつ,特にインドの社会・経済的及び技術的発展にとり極めて重要な分野における公共の利益を増進する手段としての役割を果たすべきであること」(第83条(d))等の一般原則を参酌しなければならないとされている。

 

 インド特許法は,特許法第83条に掲げられた特許発明の適正な実施を担保するために,強制ライセンス制度(第84条~94条)と共に,特許発明の実施を促す実施報告制度を設けている(第146条)。特許法146条には,①特許権者又は実施権者に対して特許発明の商業的実施の程度を記述した報告書を要求する長官の権限を規定した権限規定(第146条(1))と,②当該報告書の定期的な提出を特許権者又は実施権者に義務づける義務規定(第146条(2))とが定められている。

 

3.義務規定に基づく実施報告の要件 (第142条(2))

(1)報告の主体

 特許権者及び実施権者が特許発明の実施報告書を長官に提出しなければならない(第146条(2))。実施権者については,排他的実施権者のみならず,非排他的実施権者も当該義務を負う。

 

(2)報告の客体

 登録されている全ての特許発明が実施報告義務の対象である(第146条(2))。特許付与前の出願中の発明,失効した特許は実施報告義務の対象外である。特許発明が実施されている場合は勿論のこと,実施されていない特許も実施報告(不実施の報告)の対象である。実施報告の対象となる期間は各暦年(1月1日~12月31日)であり,特許権者等は当該期間における特許発明の実施の有無及び程度を報告しなければならない(規則131(2))。

 

(3)報告の時期

 特許発明の実施報告は,報告対象の期間である暦年の末日から3ヶ月以内に提出しなければならない(規則131(2))。つまり,下図に示すように1月1日~12月31日の期間における実施状況を,12月31日~3月31日までに報告しなければならない。

 

 

図1:実施報告書の提出期限

 

 

(4)手続

 特許権者又は実施権者は,様式27に従って特許発明の商業的実施の程度を記載し,長官に提出しなければならない(第146条(2),規則131(1))。報告書は,特許権者若しくは実施権者,又はこれらの代理人が適法に認証しなければならない(規則131(1))。

 

 報告書に記載すべき事項は次の通りである。

(ⅰ)特許発明の実施の有無:実施 又は 不実施

 (a)実施されていない場合:実施されていない理由,特許発明の実施に向けての措置

 (b)実施されている場合:

  インド国内で実施された特許製品の数量及び価格

  インドへ輸入された特許製品の数量及び価格,並びに国名

(ⅱ)当該暦年に付与されたライセンス又はサブライセンス

(ⅲ)適正価格で公衆の需要を一部/適当に/十分に満たしていることの陳述

 

4.長官の権限に基づく実施報告 (第142条(1))

 長官は,特許発明の商業的実施の程度についての情報を,特許権者又は実施権者に対して要求する権限を有している(第142条(1))。長官は,特許発明の実施状況に関する情報を,書面による告知により,特許の存続期間中いつでも要求することができる。

長官の要求を受けた特許権者又は実施権者は,当該告知の日から2ヶ月以内(長官が許可した場合,付加された期間内)に,特許発明の実施報告書を長官に提出しなければならない。なお,特許法第142条(1)は長官の権限を規定しており,特許権者の義務を規定した第142条(2)とは別の条項である。特許意匠商標総局(CGPDT)より,実施報告書の提出を促す公示[1]が度々なされているが,これは特許法第146条(1)に基づく告知では無く,特許権者は第146条(2)の義務規定に従って3月31日までに特許発明の実施報告書を提出することが求められている。

 

5.実施報告の効果

(1)実施報告書の公開

 長官は実施報告の内容を公開することができる(第146条(3),規則131(3))。特許発明の実施報告に関する情報の公開は義務規定では無いため,これまで一般に公開されていなかった。しかし,昨年の2013年6月24日から実施報告書の内容が特許意匠商標総局(CGPDT)のウェブサイトに公開されるようになった。実施報告書は検索サイト[2]でその内容を確認することができる。この検索サイトでは,特許番号,出願番号,特許権者の名称等の検索ワードを入力し,提出先の特許庁を選択することによって,実施報告書を検索することができる。

 

(2)実施報告書の提出を怠った場合

 実施報告書の提出を拒絶した者は,1,000,000ルピー[3]以下の罰金に処される(第122条(1))。罰金規定は厳格に適用されるものでは無く,提出義務を怠った特許権者に対して実際に罰金が科された事例は聞かれない。しかしながら,罰金の対象として条文に明記されており,実施報告書の提出を促す公示においても第122条の規定に触れられている。実際に罰金刑に処された場合の損害は大きく,不提出のリスクは大きいと考えられる。特許権者は実施報告書を提出すべきである。

 なお実施報告書の不提出は無効理由では無い(第64条)。

 

(3)虚偽の実施報告を行った場合

 虚偽の実施状況を報告すると,その者は6ヶ月以下の禁固若しくは罰金に処され,又は併科される(第122条(2))。

 

 

2回へ続く



特許に関するお問い合わせは河野特許事務所まで



[1] 例えばhttp://ipindia.nic.in/iponew/publicNotice_i_28February2014.pdf

[2] http://ipindiaservices.gov.in/workingofpatents/

[3] 約1,700,000円である(2014年6月20日現在:1インドルピー=約1.7円)。

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