早わかり中国特許:第35回 中国特許民事訴訟の基礎 - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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早わかり中国特許:第35回 中国特許民事訴訟の基礎

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早わかり中国特許

~中国特許の基礎と中国特許最新情報~

2014年5月20日

執筆者 河野特許事務所

弁理士 河野英仁

(月刊ザ・ローヤーズ 2014年4月号掲載)

 第35回 中国特許民事訴訟の基礎

 

1.概要

 第34回に引き続き中国における特許民事訴訟について解説する。

 

2.強制執行

(1)執行の申立て

 人民法院による勝訴判決を得たとしても被告側が製造・販売を停止しない場合、または、損害賠償金を支払わない場合、強制執行の申立てを行うことができる。

 強制執行は民事訴訟法に規定されている。強制執行に関する規定はより実効力あるものとすべく、2008年及び2012年における民事訴訟法改正[1]により大幅に改正された。

 改正後の民事訴訟法第236条は以下のとおり規定している。

 

第236条

 法的効力を生じた民事判決、民事裁定を当事者は必ず履行しなければならない。当事者の一方が履行を拒否した場合には、相手方当事者は、人民法院に執行を申立てることができ、裁判官は、執行員に移送して、執行させることができる。

 調解書及びその他人民法院が執行すべき法律文書を当事者は必ず履行しなければならない。当事者の一方が履行を拒否した場合には、相手方当事者は、人民法院に執行を申立てることができる。

 

 このように、判決及び調解に対し被告側が従わない場合、判決等の執行を人民法院へ申立てることができる。ただし、申立期間は履行期間の最終日から2と期間が定められている点に注意すべきである(民事訴訟法第239条)。法改正前は原則として1年であったところ、十分な期間を付与すべく2年まで延長された。

 

 執行申立てに期間制限があること、また、被告の財産隠蔽・財産状況の悪化等のリスクも次第に大きくなることから、判決に従わない場合速やかに執行の申立てを行うことが好ましい。

 

(2)執行のプロセス

 法的効力を生じた民事判決については第一審の人民法院、及び、第一審の人民法院と同級の被告財産所在地の人民法院が執行を行う。具体的な執行事務は執行員が行い、執行員は執行申立書を受け取った場合、被執行人に対して執行通知を発し、指定期間内に履行するよう命ずる(民事訴訟法第240条)。

 

 2012年改正前は、執行通知後一定期間経過後に強制執行がなされていたが、より判決による執行力を強化すべく、執行通知後、執行員は直ちに強制執行措置をとることができるよう改正された(中国民事訴訟法第240条)。

 

改正前

改正後

第216条(執行通知)

執行員は、執行申立書を受け取り、又は執行書の移送、交付を受けた場合には、被執行人に対して執行通知を発し、指定期間内に履行するよう命じなければならない。期間を徒過しても、なお履行しない場合には、強制執行をする。

被執行人が法律文書により確定された義務を履行せず、かつ財産を隠匿し、又は移転するおそれがある場合は、執行員は直ちに強制執行措置を講じることができる。

第240条(執行通知)

 執行員は、執行申立書を受け取り、又は執行書の移送、交付を受けた場合には、被執行人に対して執行通知を発しなければならず、また、直ちに強制執行措置をとることができる。

 

 また被執行人の財務状況を明らかにさせ、執行を円滑化させるべく、法改正により、被執行人は執行通知を受け取った場合、現在の財産状況及び1年前の財産状況を報告しなければならない。この報告命令を拒絶した場合、または、虚偽の報告を行った場合は、被執行人は罰金または拘留に処せられる(民事訴訟法第241条)。

 

 さらに、履行しない場合、人民法院は被執行人の出国制限、企業信用調査システムへの記録、メディアへ不履行であったことの公表をおこなうことができるようになった(民事訴訟法第255条)。

 

(3)執行措置

 強制執行の場合、銀行預金の凍結・振り替え、収入の差し押さえ、財産の差し押さえ・競売、または、家屋強制明け渡し・土地の強制退去が命じられる(民事訴訟法第242条~246条)。

 また、被執行人が判決等に記載の指定期間内に損害賠償金を支払わない場合、履行遅延期間の債務利息の倍額を支払わなければならない。この債務利息は、中国人民銀行の同時期の貸付基準利率に基づき計算される。具体的には法律文書で確定した金銭債務×同時期の貸付基準利率×2×遅延履行期間が債務利息となる(司法解釈[2009]第6号)。

同様に、差止めに応じない場合も、履行遅延金を支払わなければならない(民事訴訟法第253条)。

 

(4)執行中における和解

 執行中において当事者は和解を行うことができる。当事者間で合意に達した場合、当該合意に基づき和解が成立する。ただし、被執行人が当該合意に従わない場合、当事者の申立てにより、人民法院は、元の状態へ執行を回復させることができる(民事訴訟法第230条)。

 

(5)執行費用

 執行に際しては別途弁護士費用が発生するほか、執行申請費を人民法院に納付する必要がある。実行申請費は以下に示す、人民法院新訴訟費用速算表[2]に基づき算出される。大雑把に言えば、執行を求める損害賠償金額の1%+αを支払う必要がある。なお、損害賠償金の執行を求めず、差止めの執行だけを求める場合は、50500支払えばよい。

 

執行を求める損害賠償額

執行申請費

1万元以下

50元

1万~50万

損害賠償金額×1.5%-100元

50万~500万

損害賠償金額×1%+2400元

500万~1000万

損害賠償金額×0.5%+27400元

1000万元以上

損害賠償金額×0.1%+67400元

表 人民法院新訴訟費用速算表

 

(6)執行情報検索センターの設立

 2010年11月13日北京市高級人民法院は、執行難の問題を解消すべく、同法院内に執行情報検索センターを設立した。人民法院は、執行情報検索センターを通じて被執行人の身分、工商登記、企業コード番号、出入国状況、不動産、車両、土地権益、および、人民元決算口座等の各種情報を検索することができる。しかもオンラインにより被執行人の不動産に対して凍結手続をも行うことができる。

 検索センターには各政府機関から最新の情報が収集されており、人民法院は同センターを通じて被執行人の情報を迅速に収集することができる。また、各協力執行部門は人民法院から不履行の法律文書情報を取得し、被執行人に対し各種制限措置をとることができる。

 


[1] 改正民事訴訟法は2007年10月28日に全国人民代表大会を通過し、2008年4月1日より施行されている。

[2] 人民法院新訴訟費用速算表は2007年4月1日より執行されている。

  

 

続きは、月刊ザ・ローヤーズ2014年4月号をご覧ください。




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