短期売買利益返還請求事件(金融商品取引法164条1項) - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
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短期売買利益返還請求事件(金融商品取引法164条1項)

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相続

短期売買利益返還請求事件(金融商品取引法164条1項)

最高裁判所大法廷判決平成14年2月13日

民集56巻2号331頁、『金融商品取引法判例百選』55事件

【判決要旨】

 証券取引法164条1項は、上場会社等の役員又は主要株主が同項所定の有価証券等の短期売買取引をして利益を得た場合には、当該取引においてその者が秘密を不当に利用したか否か、その取引によって一般投資家の利益が現実に損なわれたか否かを問うことなく、当該上場会社等はその利益を提供すべきことを当該役員又は主要株主に対して請求することができるものとした規定である。

ただし、例外的に、164条8項に規定する内閣府令で定める適用除外される場合に当たるとき、または、類型的にみて取引の態様自体から役員・主要株主がその職務・地位により取得した秘密を不当に利用することが認められないときを除かれる。

【参照条文】 証券取引法164条1項(現・金融商品取引法)

 金融商品取引法164条1項は、「上場会社等の役員又は主要株主がその職務又は地位により取得した秘密を不当に利用することを防止するため、その者が当該上場会社等の特定有価証券等について、自己の計算においてそれに係る買付け等をした後6月以内に売付け等をし、又は売付け等をした後6月以内に買付け等をして利益を得た場合においては、当該上場会社等は、その利益を上場会社等に提供すべきことを請求することができる。」と定めている。

この「上場会社等」とは、株式等が証券取引所に上場され、又は店頭売買有価証券である会社をいう。

「主要株主」とは、自己又は他人の名義をもって発行済株式の総数の10%以上の株式を有している株主をいい、「特定有価証券等」とは、当該上場会社等の株券、新株予約権証券、社債券等をいうものである(金融商品取引法163条1項、2条1項4号、5号の2、6号)。

内部情報の利用、取引の相手方の損害発生の有無を問わないのは、内部情報の利用(インサイダー取引)を未然に防ぐ目的にある。

そして、役員・主要株主が売買した場合には、財務局長等に報告する義務がある(金融商品取引法163条1項)。財務局長は、会社に送付し(163条4項)、公衆縦覧に供する(同条7項)。

短期売買益返還の制度の実例は、会社が、経営陣ではない主要株主に関して提訴した例があるとされる。経営陣ではない主要株主としては、敵対的企業買収側(グリーンメーラー)、元・経営陣などが考えられる。このような企業支配権を巡る対抗策として会社側が用いるのは適切ではないとする見解も一部にはある。

 また、金融商品取引法164条2項は、会社が役員・主要株主に対する提訴を怠る可能性を考慮して、株主代表訴訟事件類似の制度を設けたが、実際には、ほとんど活用されていない。短期売買益を得たかどうか及びその額に関して、会社は知り得るが、株主は通常知り得る立場にないから、または、短期売買益は会社に返還されるので株主には提訴のインセンティブに乏しいからであろう。