住宅の仕事にかかわること - 住宅設計・構造設計 - 専門家プロファイル

増井 真也
建築部門代表
建築家
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住宅の仕事にかかわること

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日々の出来事
10時、朝霞で家を建てたいというAさん、住宅のご相談。何でも都内で飲食店を営んでいるということで、いろいろなお話を聞いているうちに4時間もたってしまった。中国や台湾に精通しているということで、これまで聞いたこともなかったお話を聞くことができた。

住宅の仕事というのは、施主とじかに話をすることができるというのが一番面白いところだと思う。ゼネコンにいたころには、誰のために建物を作っているのかがわからないことのほうが多かった。企業の設備投資などの現場はわかりやすいのであるが、公共事業の場合などは明らかに税金の無駄遣いにしか映らないような現場もあった。ある現場では、大阪市の同和地区への助成金打ち切りのために、助成金と同等のお金をかけた施設を作らなければいけないという理由で温泉施設に100億円もの税金を投入していた。

この現場の管理をしていた設計者は、イタリアまでタイルのサンプルを見学に行っていた。その渡航費用も税金だろう。そして現場にはイタリア人のタイル職人が連れられてきた。これはもはや笑い話である。不景気で日本人の職人さんにまともに仕事がない時代になぜ税金を使ってわざわざイタリアから職人さんを呼ばなければいけないのか。あの大阪市にこのようなお金があったとはと疑うが、住宅ではこのようなことはありえない。

住宅は自分が暮らすために作る施設であって、なんらほかに目的はない。もちろん収益を生むこともない。自分と家族が精神的に豊かに、まさに「暮らす」こと、それだけが目的である。住宅には豊かに暮らすために必要最低限のものがあればよい。もちろん、お金を使おうと思えばいくらでも使うことはできる。床材ひとつとってみても、坪5000円程度の合板フロアリングから坪12000円程度の杉板までさまざまだ。また同じ杉の無垢材でも節のないものになれば坪当たり30000円程度になるし、それがヒノキや松になればさらに高価になる。通常の住宅が35坪程度であるので、その床面積をかけてみると、床だけでもすぐに何十万円も高くなってしまうのだ。

であるならば、「どの床材を使えば自分にとって大変心地がよいか」、選択の基準はこれに尽きるのではないだろうか。住宅というもの、このぎりぎりの選択をする場面が最も楽しいところだと思う。この部分の作業を楽しみながらじっくり行い設計者と施主との間で大切なもののみきわめをするからこそ、誰もが大体満足できる形に標準化された建売とは違った、ローコストでよい住宅ができるのだろう。

夜、趣味の小屋を建てたいというKさん打ち合わせ。この方の小屋の場合はまさにぎりぎりの選択の中でしかできないくらいのローコストである。20坪の面積に対して、工事費の予算は350万円程度。普通にやればできるわけがない。幸い住宅ではないので、小屋として必要最低限のものを作ればよいのであるが、それにしてもぎりぎりである。でも考えてほしい。クラウンを買うお金で、ガーデニングを楽しむための道具を収納し、疲れたら紅茶を沸かすことのできる小さなキッチンがあり、鳩を飼うことができる、そんな小屋を購入できたらどれだけ生活が豊かになることだろう。クラウンは乗っている間に古くなり、やがては鉄の塊と化す。でもこの小屋は、趣味の一環として作られ続けていくことだろう。こういう人の生活に根付いた感覚の中に身をおくことができることこそ、住宅にかかわる魅力であるのだ。