届出のない再生債権と民事再生法181条1項1号に基づく再生計画の定めによる権利変更 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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届出のない再生債権と民事再生法181条1項1号に基づく再生計画の定めによる権利変更

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相続

届出のない再生債権と民事再生法181条1項1号に基づく再生計画の定めによる権利変更

 最判平成23・3・1クレディア不当利得返還請求事件

判例タイムズ1347号98頁

 1 本件は,Aの相続財産法人であるXが,貸金業者である株式会社クレディアを再生債務者とする民事再生手続における再生計画(本件再生計画)の認可決定が確定した後に,クレディアの権利義務を会社分割により承継したYに対し,Aとクレディアとの間の継続的な金銭消費貸借取引において発生した過払金に係る不当利得返還請求権が本件再生計画の定めにより変更されたとして,その変更後の債権(本件債権)の元本30万円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成21年5月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

 2 本件再生計画は,大まかにいうと,①確定した再生債権(再生手続開始決定の前日までの利息,損害金を含む。以下同じ。)の60%につき免除を受け,40%を再生計画認可決定確定後3か月以内に一括弁済する,②ただし,再生債権の額が30万円以下である場合は全額弁済し,再生債権の額が30万円を超える場合は40%相当額と30万円の多い方の額を弁済するというものであるが,再生債務者が貸金業者であり,再生債権の届出をしていない過払金返還請求権を有する再生債権者が多数存在することが見込まれたことから,その取扱いについて,特に定めを置いており,「再生手続開始に至った事情及び事業再生の基本方針」の項で,「〔当該債権者には『責めに帰することができない事由』が存在するものと考えるべきであり,民事再生法181条1項1号の趣旨を尊重して,〕請求があれば再生債権額の確定を行った上で,債権届出を行った債権と同じ条件にて弁済を行うべきと判断し,本再生計画案においてはそのような取扱いをしている。」としている。

一方,本件再生計画の「再生債権に対する権利の変更及び弁済方法」中の「一般的基準」の項では,届出のない再生債権である過払金返還請求権については,「当該債権者により請求がされ,再生債権が確定(債権額の確定を含む)した時(調停,訴訟,仲裁等の手続きがなされている場合には,それらの手続によって債権が確定する。),上記の内容に従って権利の変更を受け」,「その時から3か月以内に,上記の額を一括弁済する。」としている。

 Aとクレディアとの間の取引に係る過払金返還請求権については,再生債権の届出がされていないが,Xが過払金元本23万6614円,再生手続開始決定の前日までの利息7万6538円の合計31万3152円の債権(本件再生債権)を有する再生債権者であることは,当事者間に争いがない。

 Yは,本件債権については,本件再生計画で定められた弁済期が到来しておらず,Xがその支払を請求することはできないと主張して争っている。

 3 第1審は,Xの請求を全部認容する判決をした(なお,第1審では,第1回口頭弁論期日にYが出頭せずに弁論が終結されており,同期日において陳述したものとみなされたYの答弁書には,本件再生計画には期限の猶予の定めがあることに言及があるものの,その定めの内容が正確に記載されていなかった。)。

 これに対し,Yが控訴し,本件再生計画における期限の猶予の定めにつき主張を補充したところ,原審は,本件再生計画では,届出のない再生債権である過払金返還請求権については,再生債権が確定した時から3か月以内に権利変更後の額を弁済するものとされていることを認定しつつ,本件再生計画によれば,本件再生債権は,訴訟等の手続がされている場合には,判決の確定等によってはじめて確定するのであって,その確定を前提とする本件再生計画の定めによる権利の変更はいまだ生じていないから,弁済期の未到来をいうYの主張は失当であるとし,また,Xは過払金元本を超える部分に対する遅延損害金を請求することはできないとして,Xの請求を30万円及びうち23万6614円に対する平成21年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で認容すベきものとした。

 これに対し,Yのみが上告受理申立てをした。

 4 本判決は,①本件再生計画における基本方針の定めにつき,届出のない再生債権である過払金返還請求権について,一律に民事再生法181条1項1号所定の再生債権として扱う趣旨であると解し,そうすると,同項の規定するとおり,上記過払金返還請求権は,本件再生計画の認可決定が確定することにより,本件再生計画による権利の変更の一般的基準に従い変更されるとした上,②本件再生計画における権利の変更の一般的基準の定めにつき,再生債権者は,訴訟等において過払金返還請求権を有していたこと及びその額が確定されることを条件に,上記のとおり変更されたところに従って,その支払を受けられるという趣旨であると解して,本件債権の弁済期は,本件訴訟の口頭弁論終結時にはいまだ到来しておらず,XはYに対し,本判決が確定した時,すなわち本判決言渡しの日から3か月後の日限り,本件債権(本件再生計画の定めによる変更後の債権)の支払を求めることができるにとどまるとした。そして,本判決は,Xの請求は,弁済期未到来と判断されるときは,将来の給付を求める趣旨を含むものであると解するのが合理的であるとして,Yに対し,本件債権の元本30万円をその弁済期が到来した時に支払うことを命ずる変更判決をした。ただし,遅延損害金については,原審が本件再生債権(過払金)の元本額である23万6614円に対する部分の限度で認容していたことから,不利益変更禁止の要請により,それと同額の23万6614円に対する本件債権の弁済期の翌日以降の支払を命ずるにとどめた。

 5(1) 民事再生法は,再生計画認可の決定が確定したときは,原則として,すべての再生債権について,再生債務者の免責(再生債権者の失権)の効力が生じ(民事再生法176条,178条),例外として,免責の対象外とされる権利について,再生計画による権利の変更の効力が生ずるものとしている(民事再生法179条1項,181条1項)。このうち,民事再生法181条1項1号は,再生計画認可の決定が確定したときは,再生債権者がその責めに帰することができない事由により届出をすることができなかった再生債権は,再生計画による権利の変更の一般的基準に従い,変更されると規定している。これらの規定にいう「権利の変更」とは,再生手続内に限られたものではなく,権利自体の実体的な変更を意味すると解されている(伊藤眞『破産法・民事再生法〔第2版〕』812頁)。

 (2) ところが,本件再生計画は,届出のない過払金返還請求権について,一律に同号所定の再生債権として扱うものとする旨を定めつつ,その権利の変更の一般的基準の定めにおいて,「(訴訟等の手続によって)再生債権が確定した時,権利の変更を受ける」という,一見すると同号の規定と抵触するような表現を用いている。控訴審は,この部分の定めをいわば字面どおりに解釈して,上記のような判断をしたものと解される。

 しかし,本件再生計画は,届出のない再生債権である過払金返還請求権を一律に民事再生法181条1項1号所定の再生債権として扱うことを定めているのであるから,それによる権利の変更の効力は,同項の規定により,本件再生計画の認可決定が確定した時点で発生するのであり,本件再生計画の定めを全体としてみれば,上記のとおりの「権利の変更の一般的基準の定め」は,同項の規定に抵触する定めをする趣旨ではなく,届出のない再生債権については,その再生債権の存否及び額に争いがあれば,訴訟等により再生債権の存否及び額を確定することが権利行使の条件となることをいわんとしたものであると解するのが合理的である(現に,本件では,当事者であるX,Yのいずれも,この点については本判決と同様の理解に立ち,本件再生計画による権利の変更は本件再生計画の認可決定が確定した時点で既に生じていることを前提とした主張をしている。)。

 本判決は,このような理解の下に,上記のとおりの判示をしたものと思われる。

 (3) なお,本件は,貸金業者に対する過払金返還請求が多発する情勢の中で貸金業者が倒産し,潜在的な再生債権者が多数存在すること自体は明らかであるものの,具体的な再生債権者及びその再生債権の額を直ちに特定することが困難であるという特殊な状況の下で再生計画が定められた事案である。その事情の下では,貸金業者である再生債務者が届出をしていない再生債権である過払金返還請求権を一律に民事再生法181条1項1号所定の再生債権として扱うものとしたことに問題があるとは考えられないことから,本判決は,本件再生計画の定めの適法性につき,特に言及をしていないものと解される。

なお、再生計画において,民事再生法181条1項1号の要件を充足するとは考え難い債権を同号所定の再生債権として扱う旨が定められた場合の適法性については,本判決は何ら判示していない(本件再生計画につき,この点からの問題提起をするものとして,山本和彦「過払金返還請求権の再生手続における取扱い――クレディア再生事件を手がかりとして」NBL892号12頁参照)。

 6 本件は,上記のとおりの特殊な状況の下で,権利の変更の一般的基準の定めに誤解を招く表現が用いられていたことから,その意義が問題となった事案であるが,クレディアの再生手続は,民事再生手続の中で本格的に未届け過払金返還請求権の取扱いが問題となった初めての事例であり,また,再生計画の定めによる変更後の権利の行使に関する先例も乏しいことからすると,実務上参考となる。