中国特許判例紹介(30) 中国における職務発明報酬の算出基準 (第2回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
河野特許事務所 弁理士
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中国特許判例紹介(30) 中国における職務発明報酬の算出基準 (第2回)

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中国における職務発明報酬の算出基準

~意図的に特許を放棄した場合の算出基準~

中国特許判例紹介(30)(第2回)

2013年11月26日

執筆者 河野特許事務所 弁理士 河野 英仁

 

重慶長江塗装機械場

                   上訴人(一審被告)

v.

石孝氷等

                           被上訴人(一審原告)

 

(3)訴訟の経緯

 発明者陳前の職務発明である柱式回転ノズル実用新型特許は、被告にとって良好な経済的効果と利益をもたらした。しかしながら、被告は法律規定に従い陳前に職務発明報酬を支払わなかった。陳前は、工場に対し絶望し,精神崩壊を招き自殺した。原告は、重慶市第一中級人民法院へ提訴し、被告に特許発明報酬費40万元(約640万円)を一括して払うよう求めた。

  専利法実施細則第78条には、当事者間に取り決めがない場合、毎年実用新型特許を実施することにより得られる利潤の2%を下回らない報酬、または、当該比率を参照した一括性の報酬を、発明者に付与しなければならないと規定されている。

  中級人民法院は、監査及び評価報告結果と、陳前が生前に被告になした貢献要素等を総合的に考慮して、利潤の6%比率の報酬を一括で発明者に支払うのが合理的であると判断した。中級人民法院は、被告に対し一括性特許実施報酬251566.24元(約402万円)を、原告に支払うよう命ずる判決をなした[1]

  

 

3.高級人民法院での争点

争点1: 特許を実施しているにも変わらず特許を放棄した場合の取り扱い

 本事件では発明者との間で職務発明報酬について紛争が生じたため、原告は特許製品を実施しているにもかかわらず2003年に特許権を意図的に放棄した。すなわち、2004年~2009年の職務発明報酬の支払を免れるために特許権を放棄した。このような場合に、当該特許権の放棄が、違法か否かが問題となった。

 

争点2: 当事者間で取り決めがない場合の利率をどのように決定すべきか

 本事件では発明者の開発した製品は多大な成功を収めた。当事者間で職務発明対価について明確な規定が無く、また特許権を放棄したため、発明者は十分な報酬を得ることができなかった。第1審で認定した利潤の6%の額が妥当か否か問題となった。

 

 

4.高級人民法院の判断

争点1:発明者の利益を損なうかもしれないが、特許権の放棄は違法ではない

 特許権が存在していれば、2004年~2009年の特許報酬を本来発明者に支払う必要があった。しかしながら発明者の柱式回転ノズルに係る特許権は、2003年8月既に放棄され、第三者が自由に使用できる状態となった。

  法律の規定に基づけば,特許権有效期限内であれば特許を実施した報酬を支払えば良く,特許権が失効した以後は,被告が依然として当該技術に基づき製品を生産していようがいまいが、発明者はもはや報酬を獲得する権利を享有しない。

  原告は、被告の特許権放棄は主観上悪意があるといえ,その放棄行為は無効とすべきであると主張した。しかしながら高級人民法院は当該主張を退けた。特許権は一種の対世的効力を有する民事権利であり,権利者は法律の禁止定に違反していななければ,自己の意思に基づき自由に利を処分することができる

  職務発明について特許権者が権利を放棄すれば、発明者の利益を損なうかもしれないが、両者の権利は必ずしも対等ではなく、発明者の権利が実現するか否かは、特許権者の特許権に対する処分方式において決定するものであり、強い従属性を有する。以上のことから、高級人民法院は特許権の放棄は適法であると判断した。

 

争点2:特許権の放棄、発明者を適切に保護する観点から10%とする

(1)1999~2001年の報酬

 2001年7月1日以前の実施細則第72条では、実用新型特許の実施報酬について税後の利潤0.5%-2%と規定している。一審判決は、1999年,2000年,2001年の比率を6%としており、法律の依据がない。

  また、税後の利潤に基づき算出する必要があるところ、一審判決では各年度の純利益に基づき計算していることから、高級人民法院は、1999年~2001年の報酬については税後利潤の2%を基準に特許報酬の計算を行った。

 

(2)2002-2003年の報酬

 2002年~2003年の特許報酬に関し、一審法院は各種事情を考慮して6%としたが、高級人民法院は10%と引き上げる判決をなした。高級人民法院は以下の要素を考慮した。

 (i)2002、2003年被告と発明者との間で職務発明に関する契約は存在しなかった。

 (ii)1993年に施行された旧《専利法実施細則》は、実用新型特許実施報酬規定を、実施特許実施の税後利潤の0.5%-2%としており,2001年7月1日に施行された新《専利法実施細則》では、比率を、2%以上と改正した。なお、現行の2010年施行実施細則でも同様に2%以上と規定されている(実施細則第78条[2])。

  さらに、実施重慶市人民政府が2001年に制定した《重慶市が実施する西部大開発についての若干の政策措置》は、職務成果を実施した税後純利潤中から、10%を下回らないとすることができる旨規定している。上述の立法の変化と、奨励政策の制定は,国家が特許発明者に対する保護を厚く、鼓舞することを反映しており、科学技術人員の積極性を十分に引き出すことにより,発明創造を促進している。

 (iii)発明者陳前がなした柱式回転ノズルの設計及び試作業務は突出した貢献であり,該特許製品は、また被告に良好な経済及び社会公益をもたらした

 (iv)被告は、特許期間満了前に特許権を放棄し,事前が本来受け取るべき報酬を取得できないようにしてしまった

 

 高級人民法院は、以上の理由から、2002、2003年の比率を10%とした。

  また被告は、特許技術が特許製品中に占める比率を考慮すべきと主張した。しかしながら、特許請求項と、被告が生産した特許製品とは完全に対応しており、また請求項に記載されていない六角鋼連結ナットもまた、明細書及び図面に記載されている。高級人民法院は、特許製品が完全に発明者がなした特許を利用していることから、特許製品中に占める比率を考慮すべきではないと判断した。

  

5.結論

 高級人民法院は、1999、2000、2001年は毎年2%の報酬,2002、2003年は每年10%の報酬とし、被告が既に支払った3,419.70元(約5万4千円)及び1,675.64元(約2万6千円)を差し引き,特許実施報酬を74941.37元(約120万円)とする判決をなした。

 


[1]重慶市第一中级人民法院2003年判決 (2003)渝一中民初字第443号

[2] 実施細則第78条(2010年施行) 

 第78条

 特許権を付与された機関又は組織が、特許法第16 条に規定の奨励の支払い方式および金額について、発明者又は創作者と約束しておらず、かつ上記機関又は組織が適法に作った規定・制度において規定しなかった場合、特許権の存続期間内に、発明創造の特許を実施した後、毎年当該発明又は実用新案の実施により得られた利益の2%以上、又は当該意匠の実施により得られた利益の0.2%以上を、対価として発明者又は考案者に与えなければならない。又は上述の比率を参考にして、発明者又は考案者に対価を一括して与えることができる。


(第3回へ続く)

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