労働審判の手続、その1 - 民事事件 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
弁護士

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労働審判の手続、その1

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労働審判手続の概要

 

労働者と使用者の間の労働事件の解決には従来は長期間を要する事件類型とされ、労働審判手続は、それを解決するための司法改革の一環として創設された。

労働審判は、審判官(裁判官)1人と労使それぞれの専門家(審判員)各1人の合計3人で行われる手続である。労使双方の専門家の司法参加という特徴がある。

労働審判手続は、原則として、3回以内の期日(労働審判法15条2項)で行われる簡易・迅速な手続である。

実務の運用としては、申立てから終結まで事件の約7割は約70日間で終了している。

証拠となる書類は書面で提出するが、審問は口頭で行われる(口頭主義)。

 

・労働審判の申立て

申立ては、労働者、使用者の双方から行うことができる。

当事者の代理人は弁護士でなければならないが、東京地方裁判所の場合、当事者双方に代理人がついているのは事件の約7割である。

申立てに際しては、申立書、証拠を、一括して提出する。

 

・申立書の記載事項

申立書の必要的記載事項は以下のとおりである(労働審判法5条2項、労働審判規則(以下、規則と略す。)9条)。

申立ての趣旨

申立ての理由

予想される争点

争点に関連する重要な事実

争点ごとの証拠

当事者間においてされた交渉の経緯(行政のあっせんその他の手続を含む)

 

・労働審判の手続の流れ

第1回期日は、申立ての40日以内に指定される。

相手方へ申立書等が郵送されてくるのは、申立てから約1週間後である。

相手方が答弁書、証拠を提出する期限は、おおむね第1回期日の約1週間前である(規則14条2項)。

 

・労働審判事件の内容

労働者が解雇や雇止めの無効を主張して、地位確認や賃金の支払いを求める解雇事案が事件の約半数を占める。

未払いの賃金、退職金、解雇予告手当、残業代等の支払いのみを求める事案もある。

セクハラ・パワハラによる慰謝料などの損害賠償請求を求める事案もある。

賃金の支払いを求める労働審判事件では、賃金仮払いの仮処分と異なり、保全の必要性(民事保全法23条2項)を主張立証することが必要ではないため、労働者にとっての負担が減る。

・労働審判になじまない事件

「紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でない」場合には、労働審判委員会は労働審判事件を終了させることができる(労働審判法24条)。24条終了による終結は、事件の数%を占める。24条終了の場合には、地方裁判所に通常民事訴訟の提起があったとみなされる(労働審判法24条)。

24条終了となる事件の具体例として、

当事者が多数

会社と労働組合に深刻な対立がある場合

時間外労働の実態が鋭く争われている事件

会社の経理関係が長期間にわたり不明朗な事件

などである。

もっとも、このような事件では、申立て側の代理人としては、最初から、労働審判ではなく、通常訴訟を選択するケースも多いであろう。

 

 

・第1回期日

第1回期日には、労働者本人、使用者の事情をよく知る担当者の同行が求められる。

・主張証拠の一括提出

当事者は、第2回期日までに、主張書面、証拠を一括して提出しなければならない(一括提出主義。規則9条1項~3項、16条1項2項)。

相手方は、申立書の送付を受けてから約1か月程度の準備期間しかないが、第1回期日までに、労働審判委員会は、事実上の心証を形成するので、迅速な対応が必要である。

 

・答弁書

答弁書の必要的記載事項は以下のとおりである(規則16条1項、18条)。

申立ての趣旨に対する答弁

申立書記載の事実に対する認否

答弁を理由づける具体的事実

予想される争点

争点に関連する重要な事実

争点ごとの証拠

当事者間の交渉経緯

 

・第1回期日の進行

第1回期日では、事前に労働審判委員会が主張証拠を読んだ上で事前に(第1回期日の30分前に)評議室で評議を行う。

審問室において、当事者双方同席の上で争点整理、審尋を行う。質問は審判官が主に行うが、審判員も適宜質問を行う。この際、気を付けなければならないのは、使用者側の審判員はおおむね大企業から推薦を受けた者であり、労務管理のしっかりできていない中小企業に対してやや厳しい態度を取る傾向にある。

当事者本人や双方の代理人も、相手方に対して質問できるが、厳密な意味での証人尋問ではないし、その後の調停のことも考えて、過度に敵対的にならないように留意すべきである。

・調停

第1回期日において、引き続いて、調停を行うが、当事者双方同席の場合もあれば、片方ずつ交互に審問室に入室する方式も取られる。

調停においては、事件の見通し、仮に審判、審判後の異議手続(通常訴訟)の見通し、それらに要する時間・費用・労力のメリット・デメリットなどが説明される。労働審判委員会の具体的な調停案が提示もされる。

調停を含めて第1回期日の時間の予定はおおむね2時間程度である。調停において当事者の説得に時間を要する事案の場合には、2時間を超過する場合も多い。

なお、通常の訴訟や調停と異なり、労働審判においては、審問と調停が分離されず、一体とされている点が特徴である。

・使用者の代表取締役の同席について

使用者側について、裁判官から、決定権のある代表取締役の同席を求められることが多いが、使用者側の代理人としては、会社に熟慮してもらうために、あえて代表取締役には同席させないのが定石である。今後の労務管理や会社としての意思決定の適正を図るためである。もっとも、小規模な会社の場合には、依頼者に対する説得という意味で、最終定な調停成立の場には同席してもらうこともある。

 

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