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河野 英仁
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中国商標判例紹介:OEM商品に付された商標の使用

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中国商標判例紹介:OEM商品に付された商標の使用

~輸出用OEM商品への商標の使用は商標法上の使用に該当しない~

河野特許事務所 2013年6月6日 執筆者:弁理士 河野 英仁

 

株式会社良品計画

                                 再審請求人(一審原告、二審上訴人)

v.

中華人民共和国国家工商行政管理総局商標評審委員会

                                 再審被請求人(一審被告、二審被上訴人)

 

 

1.概要

 日本で販売する商品に関しては、中国及び東南アジア諸国等人件費の安い国で製造を行い、製造後の商品を日本に輸入し販売することが多い。

 

 中国で製造されるOEM商品には、日本市場向けの商標(例えば日本語)が付され、また、当該日本市場向けの商標が付されたOEM商品は日本に輸出されるだけであり、中国市場に流通しない事が多い。本事件では、OEM商品に日本語商標が付され,当該商品が中国大陸域外の日本に輸出されていたところ、当該商標の使用が商標法上の使用に該当するか否かが問題となった。

 

 最高人民法院は、商標の基本機能は商標の識別性、すなわち異なる商品またはサービスの出所を区別するものであり、商標は商品の流通の一環でこそ当該機能を発揮するものであるから、中国市場に流通しないOEM商品への商標の使用は中国商標法第31条における使用に該当しないと判断した[1]。

 

 

2.背景

(1)登録商標の内容

 株式会社良品計画(以下、原告)は1999年11月17日、商標局に“無印良品”の商標登録出願を行い、登録を受けた。指定商品及び役務は第16,20,21,35,41類である。

 

 一方南華公司は、2000年4月6日第24類商品(タオル等)に関し商標局に商標登録出願を行った。出願した商標は「无印良品」である。なお、「无」は「無」の中国語表記である。2001年4月28日商標局による審査を経て、南華公司の「无印良品」商標は公告された。登録番号は第1561046号である。なお、当該商標は、2004年8月2日は商標局での移転手続を経て本訴訟参加人である綿田公司に譲渡された。

 

(2)原告の商標の使用

 原告は2000年4月6日以前から、“無印良品”商標を海外及び香港地区で第24類のタオル等の商品上に使用していた。また、原告は、中国大陸域内の製造業者に第24類タオル等の商品の加工生産を委託し、“無印良品”商標が付された商品を中国大陸外へ輸出していた。

 

(3)異議申し立て

 原告は、第1561046号商標の取り消しを求めて異議申し立てを行った。しかしながら、2004年1月7日商標局は原告の異議申し立てを認めず、被異議商標を登録した。同年1月20日原告はこれを不服として商標評審委員会に復審申請を行ったが、評審委員会も、2009年3月9日原告の主張を認めず登録を維持する裁定をなした[2]。

 

 原告はこれを不服として北京市第一中級人民法院に提訴した。

 

3.最高人民法院での争点

争点 輸出用のOEM商品への商標の使用が中国商標法第31条における使用に該当するか否か。

 中国商標法第31条では、「他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で登録してはならない。」と規定している。

 本件において原告は中国大陸内ではなく、日本及び香港等中国大陸外で“無印良品”の商標を使用しており、また中国大陸内では製造業者に当該商標が付された商品の製造を委託し、海外へ輸出しているにすぎなかった。このような輸出用OEM商品への商標の使用が、中国商標法第31条にいう先に使用している一定の影響力のある商標といえるか否かが争点となった。

 

 

4.最高人民法院の判断

結論:輸出用のOEM商品への商標の使用は中国商標法第31条における使用に該当しない。

 北京市第一中級人民法院、北京市高級人民法院及び最高人民法院は共に、原告の商標の使用は中国商標法第31条における使用に該当しないと判断した。

 

 中国商標法第31条は、他人の先取りを防止するための規定であるが、同規定中の「使用」は、中国大陸域内での実際の使用が必要であり、かつ、「影響力」は、中国大陸域内の一定範囲で関連公衆に知られている事が前提となる。従って、原告が中国大陸域外である日本及び香港等外国において「無印良品」の商標を使用していたとしても、商標法第31条の「使用」には該当しない。

 

 また、輸出用OEM商品への商標の使用について、最高人民法院は、商標の基本機能は商標の識別性、すなわち異なる商品或いはサービスの出所を区別するものであることを明確にした上で、標は商品流通の一環においてこそ、当該機能を発揮することができると述べた。最高人民法院は、原告は、中国大陸域内の製造業者に第24商品の加工生産を委託し、輸出を行っているにすぎず、また商標の宣伝及び報道等は共に中国大境外で行われているにすぎないことから、中国大陸域内で無印良品”商標の第24類における機能を発揮できず、中国商標法第31条における商標の使用に該当しないと判断した。

 

 

5.結論

 最高人民法院は、評審委員会、北京市第一中級人民法院及び北京市高級人民法院の判決に誤りが無いことから、原告の再審請求を却下した。

 

 

6.コメント

 他の類では登録されているものの、第24類タオル等について、原告日本企業の商標が登録されていないことから、第三者がその隙を突いて先登録したものであり、中国では散見されるケースである。将来的に使用する可能性がある商品及び役務については隙無く出願し登録しておく事が重要となる。

 

 また本事件において最高人民法院は、輸出用OEM商品への使用は、中国市場の流通過程において商標の機能である識別力を発揮し得ないから、中国商標法第31条における使用には該当しないと判断した。同様の判断は2009年上海市高級人民法院が下した判決にも見られる[3]。当該事件において、被告はOEM商品に、原告の商標権に抵触する商標を付して中国から米国へ輸出していたものの、上海市高級人民法院は、当該OEM商品は全て米国へ輸出され、中国市場において一般公衆に対し出所の混同を生じ得ないから、商標権の侵害は成立しないと判断した。

 

 日本企業が注意すべき点は以下のとおりである。

第1:輸出用のOEM商品へ付す商標も出願し登録しておく。

 先願主義を採用する中国では、登録は早い者勝ちであり、いったん権利を第三者に取られてしまうと、その登録を取り消すのは極めて困難である。現在は輸出向けであるが、将来的に中国市場での販売の可能性が少しでもあるのであれば、速やかに権利化しておいた方が良い。

 

第2:不使用での取り消しに注意する。

 最高人民法院の判決により、輸出用OEM商品への商標の使用は、中国商標法上の使用ではないと判示された。そうすると、当該商標をOEM商品に付していたとしても、使用に該当しないから、3年経過後には不使用による取り消しの対象となる(中国商標法第44条第3号)。このような商標の不使用による取り消しを防止するためには、OEM商品への商標も,何らかの形で中国市場向けに使用しなければならない。不使用による取り消しを防止するためには、例えば当該OEM商品への商標を中国市場向けのWebページに掲載するか、または広告等に掲載し、その証拠を不使用対策のために社内にて保管しておくことが考えられる。

 

以上



[1] 最高人民法院2012年判決 最高人民法院(2012)行提字第2号

[2] 第04991号

[3] 上海市高級人民法院2009年11月2日判決 (2009)沪高民三(知)終字第65号

 

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