対象:遺産相続
柿沼 太一
弁護士
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「生前贈与」の考え方
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はじめまして。
神戸の弁護士の柿沼と申します。
1 おばさまからお父さんへの贈与について
「これは生前贈与に該当するから父の相続分から差し引く」という長兄の意見については2つの問題があります。
(1) そもそも本当に生前贈与があったのか,そしてそれを長兄が証明できるのか
(2) 仮に本当に生前贈与があったとして,それが相続分から差し引かれる「特別受益」になるのか
という2つです。
(1) そもそも本当に生前贈与があったのか,そしてそれを長兄が証明できるのか
書いてらっしゃる事情を前提とする限り,600万円というものの中には,お父様が借りたお金,甥姪に対するお祝い金等いろいろなお金が含まれているようです。「借りた」お金であれば贈与ではありませんし,甥姪に対するお祝い金も当然,お父様に対する贈与ではありません。
このような状況からすると,長兄において生前贈与を証明することは非常に難しいのではないかと思います。
仮にその証明が出来なかった場合,最終的には生前贈与は無かったものとして扱われることになります。
(2) 仮に本当に生前贈与があったとして,それが相続分から差し引かれる「特別受益」になるのか
仮に長兄が何らかの証拠を持っていて,贈与が証明できたとしても,それが全部「特別受益」に該当するわけではありません。
法律上,「特別受益」に該当するのは「婚姻もしくは養子縁組のため」の贈与か「生計の資本として」の贈与に限られています。
今回の場合,「婚姻もしくは養子縁組のため」の贈与にはあたりませんから,「生計の資本として」の贈与にあたるかどうかが問題にになります。
この「生計の資本」としての贈与は,典型的な例としては,子どもが別世帯を持つために住宅やその他の財産の分与を受けた場合などがあるとされており,生計の基礎として役立つような贈与が含まれるとされています。
したがって,そもそもお祝い金程度のものは含まれない,という考え方も成り立つでしょうし,なんらかの義務の履行を期待しての贈与(おっしゃっているような「自分の将来を鑑み私の弟を頼りにすることを念頭に置いた叔母の父へのお金の受け渡し」)であれば,特別受益に該当しない,ということも考えられると思います。
補足
2 おばさまとお父さんとで造ったお墓のこれからの保存費用(賃貸しているお墓の敷地代、清掃代等)について
確認なのですが,お墓そのものの建立費用の問題ではなく,これからの費用負担をどうするか,ということでよろしいですよね。
そもそも,どなたの名義で賃借等されているのでしょうか。おばさま名義で賃借をしているのであれば,それは相続対象の義務ということになりますので,相続人全員で負担する,言い換えれば遺産からお金を出す,ということになります。
お父さん名義で賃借しているのであれば,遺産から拠出して貰うのはなかなか難しいかもしれません。
3 まとめ
以上いずれの問題についても,当事者間で協議をするだけではなかなか解決が難しいかもしれません。家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てて,お墓の費用の問題も含めて調停の手続内で話しをする方が,結局のところ早く解決する可能性が高いと思います。
評価・お礼
kei2305 さん
2010/11/23 17:19
いただいた回答に対して評価が大変遅くなり申し訳ございませんでした。
先生に回答いただきました内容を改めて読み直すと、私や伯父も含めて相続というのは視点を変えれば色々な解釈が出来るものだと改めて思いました。
今後数カ月は続くであろう相続問題への対処は我が家の窓口となっている私がどのくらい伯父達を説得出来るかにかかっているように思い大変気が重くなります。
しかし最終的には家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てることによって法に則って解決していくことが親戚であっても最善の方法になるだろうと納得し少しだけ気が楽になりました。ありがとうございました。
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