騎馬オペラというタイトルが付いたこの舞台を初めて観たのははるか昔、
15年以上も前のことになります。
友人の勧めで、パリ近郊のZingaro(ジンガロ)の本拠地で観ることが出来ました。
この舞台はヨーロッパでは人気が高く、本拠地でのチケットの入手はたいへん難しい。
あのシラク元仏大統領も大絶賛していました。
Zingaro(ジンガロ)という名を聞くたびにあの寒いパリの夜を思い出します。
馬小屋のようなバラックの中で、舞台が始まるまでの30分くらいを過ごしました。
定刻をかなりすぎてもまだ始まらず、じりじりとしているのは日本人の私くらい、
フランス人はわいわいとしながらウォッカのような強い酒を飲んで待っていました。
そして開場。
円形の客席の中央には土を敷き詰めた舞台が用意されています。
そしてその真上からのピンスポットが、舞台の中央、直径1.5メートルくらいの範囲だけを
強く照らしていました。
客席がほぼ満席になったころ、舞台の端からアヒルが15匹くらい出てきました。
そのアヒルはそのまま舞台中を縦横無尽になんの規則性も持たず、
ぱたぱたとおよそ20分くらいの間走り回っていました。
パリに来てアヒルを見るとは思いもしなかったなどとはじめは思っていたけれど、
このアヒル達のほとんどカオスの世界に吸い込まれるように、
いつしか思考回路は鈍くなり、我を忘れていきました。
その後はらくだや馬など、動物が次々に現れ、戯れ、又離れ、見つめあい、笑いあう。
人間と動物との競演が続きます。まさに大スペクタクル。
素晴らしく訓練された動物達には、人間くらいの感情が隠されているかのよう。
そしてその間中、女性の高い声と低い声の掛け合いのような、オペラのような生の歌声が続いているのです。
舞台の魔物に取り付かれ、いつしか私は完全に我を忘れました。
言葉さえ失ってしまい、とうとうパリのホテルに戻ってくるまで
話すことが出来なかったのを覚えています。
私の中の魂だけが浮遊している感じ。
それ以前にも、それ以降にも、これに類する舞台を見たことはありません。
そして、このときより他に、これ程我を忘れた状態になってしまったことはありません。
それほど凄い衝撃を受けた、それがZingaro(ジンガロ)でした。
テーマは人の喜怒哀楽を表現しているのでは、と友人が話していたのを覚えています。
らくだと対話をしながら笑い始めた女性の、その笑いが狂喜に変わり、
だんだんと止むのと同時に、らくだの長い首も土の舞台に横たわる、
これが一番印象的なシーンです。
そのZingaro(ジンガロ)がまた日本にやってきます。
私は早速1枚のチケットを購入し、いまからはやる気持ちでまたあの舞台を見ることが出来るのを心待ちにしています。
今回は「生」がテーマとか、果たして今度はどんな感動を味わわせてくれるのか、本当に楽しみです。
Zingaro BATTUTA
1/24(土)〜3/26(木)木場公園 特設会場
http://www.zingaro.jp/