磯部 茂(コピーライター)- コラム「時代とコピー普遍性について」 - 専門家プロファイル

磯部 茂
ひとの心に、化学反応を!

磯部 茂

イソベ シゲル
( 神奈川県 / コピーライター )
有限会社ペア・ファクトリー 代表取締役
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時代とコピー普遍性について

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マーケティング 2018-08-18 18:51


かつて日本が繁栄を極めた1980年代、

「おいしい生活」というコピーが巷に溢れた。


「おいしい生活」?

いまきくとピンとこないが、

その時代にライブで知った身としては、

当然ピンときた。


ロジックで語るには面倒なコピーだ。

おいしい、という何の変哲もない言葉に、

生活というやはり何の変哲もない言葉をつなげると、

とても新鮮なコピーに仕上がった。


このコピーが、当時の空気を的確に表していた。

都会も地方も皆元気で、更なる繁栄を信じ、

仕事に精を出していた時代。

「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という、

アメリカの社会学者が書いた本も、

世界でバカ売れした。


日本に、そんな時代があったのだ。


で、このコピーの広告主は、西武セゾングループ。

バブルと共に頂点に達した企業である。

コピーライターは、やはりあの糸井重里さんだった。


いま「おいしい生活」というコピーを、

大々的に発信したとしても失敗するだろう。

「おいしい生活」という語感から想像する生活は、

ちょっと怪しい気配すら漂う。

何かを誤魔化す、ちょろまかす…

そうした行為の上に成り立つ生活とでも言おうか。

しかし、当時のこのコピーの響きは、

希望に満ちたよりよい明日への提案として、

皆に受け入れられたのだ。

あなたの素敵な生活はすぐそこにあります、

とでも言わんばかりに。


商品の向こうにあるライフスタイルを提案する―

そうした企業が現れた点で、

この広告は最先端に位置していた。


経済的背景、語感からくる意味合い、市場の成熟度など、

いまと全く違う日本が、そこにあった。

それが「おいしい生活」だったのだ。


同じ80年代の同時期に、

とても美しいコピーがヒットした。

サントリーが発信したウィスキーの広告で、


「恋は遠い日の花火ではない」


このコピーは、当時の中年のおじさんの心を、

わしづかみにした。

世はバブルである。

おじさんたちは、右肩上がりの成績を更に伸ばすべく

奮闘していたのだが、

やはり、ふと気がつくともの寂しかったのだろうか。


忘れかけていた恋というキーワードが蘇る。

もうひと花咲かせようと…

それは不倫なのかも知れないし、

遠い昔好きだった人に、

もう一回アタックしてみようか、などと。


しかし、例えばいまどこかの広告主が、

恋は遠い日の花火ではない、と謳ったとしても、

いまひとつ響かない。

受け手に伝わらない。

いわゆる不発である。


なんせ、コピーが美し過ぎるし。

時代は移り変わっているのだ。


では、このコピーを少しいじって

「戦争は遠い日の花火ではない」とか

「テロは…」とすると、

いきなり迫真めいてくる。

いまという時代にフィットしてしまうから、

皮肉な事ではある。


更に時代を遡ると、もっと分かり易い事例がある。

「隣のクルマが小さく見えます」

というコピーが流行ったのが、

バブル期よりずっと以前の70年代初頭。

広告主はトヨタ、クルマはカローラだった。


最大のライバルである日産サニーに対抗すべく、

できたのがこのコピーだった。

日本に、いや世界のどこにもエコなんていう発想もなく、

でかいクルマ=裕福という図式が世界のスタンダードだった。


とても分かり易い例。


もうひとつ。

この時代に流行ったコピーに、

「いつかはクラウン」というのがある。

当時のクラウンは、いわば成功者の証しであったし、

いま思えば、幼稚で下らない自己実現法とも思うが、

この程度で、皆が満足できる時代でもあったのだ。


このように、過去のコピーを検証すると、

それは、時代とともに変化する、

いわばナマモノであることが分かる。


ヒットしたコピーというのは、

そうした時代を的確に捉えている。

相反するように、時代とズレたコピーはまずヒットしない。


しかし、例外的に時代を問わず普遍的であり、

いまでも魅力的に響くコピーがある。


「時代なんてぱっと変わる」(サントリーのウイスキー)


「少し愛して長く愛して」(サントリーのウイスキー)


「君が好きだと言うかわりに、シャッターを押した」(キャノン)


「恋を何年、休んでますか。」(伊勢丹)



これらのコピーは、広告という概念を離れ、

時代に左右されない力をもっている。

使い方次第では、いまでも人の心をすっと射貫く。


死ぬまで言葉と格闘した詩人の寺山修司に言わせると、

こうしていつまでも古びないコピー(言葉)には、

時代を超越した「実存」が眠っている、

という解説が成り立つらしいのだが。




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