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河野 英仁
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中国商標改正法の最新情報

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中国商標改正法の最新情報

河野特許事務所 2012年11月14日 執筆者:弁理士 河野 英仁

 

1.概要

 現在中国では第三次改正商標法の最終的な準備が進められている。2012年9月4日国務院は最新の改正動向を発表した。

 中国商標法は過去2回の法改正を経ているが、経済発展の需要に適していないという問題があった。そこで、以下の3点を中心に法改正を行う予定である。

 第1に、商標登録出願の一層の簡便化、

 第2に、悪意の商標登録の先取り、「傍(ぼう)ブランド[1]」等の不正競争行為の抑制、

 第3に、商標権侵害行為に対する処罰の強化である。

 以下詳細を説明する。

 

2.商標登録出願の一層の簡便化

(1)登録対象となる商標要素の増加

 急速な経済発展により新たなタイプの商標が出現している。伝統的な平面文字、図形商標に加えて、立体商標、色商標,さらには音、匂い、動的商標まで出現してきた。第二次商標法改正時には立体商標の内容が追加されたが、第三次商標法改正においては,音、単一色等を保護対象とし法律保護を与える予定である(改正中国商標法第8条)。

 

(2)“一商標多区分制”出願方式の採用。

 現行商標法は以下のとおり規定している。

第20条 商標登録出願人は異なる区分の商品について同一の商標を出願する場合には、商品区分表に従い出願をしなければならない。

 

 第三次改正商標法では、日本と同様に、複数区分の商品について一出願を認め、一登録を認める予定である(改正中国商標法22条)。

 

(3)審査意見書制度の新設である。

 現在、商標登録出願人が提出した書類、資料中に、些細な瑕疵があったとしても、意見書提出の機会は与えられず、拒絶査定されていた。この場合、出願人は、再度出願を行わざるを得ないという問題があった。そこで、第三次改正商標法では、専利法と同じく、審査意見書の提出を認め、出願人に出願文書、資料の瑕疵に対する修正を認め、上述した弊害を排除することを予定している(改正中国商標法第32条)。

 また、現行商標法では審査の結果に不服がある場合、評審委員会へ復審請求する必要があるが、改正後は、復審請求前に審査意見書を審査官に提出し、審査内容について反論することができる。

 

(4)商標登録異議申立制度に関する改正

 現行商標法の異議申し立てに関する規定は,以下のとおり。

第30条 初歩審定された商標について、その公告の日から3ヵ月以内に、何人も異議を申し立てることができる。期間を満了しても異議申立がなかった場合、登録を許可し商標登録証を交付し公告する。

 

 現在の異議申し立て制度は何人も、さらには、様々な法定理由により異議申し立てを行うことができる。しかしながら、異議申し立てが濫用されているという問題があった。そこで、改正後の商標法では、「先の権利者または利害関係人」のみに申立人の主体を制限すると共に、一定の規定のみに申し立て理由を限定することとした(改正中国商標法第36条)。

 

3. 悪意の商標登録の先取り、「傍ブランド」等の不正競争行為の抑制

 商標は企業活動において中核をなすものであるところ、悪意による他社商標の先取り、“傍ブランド”等の不正競争行為により、公正な競争市場環境に悪影響を及ぼし始めている。第三次法改正では、完全な法制を通じてこれらの行為を抑制することを目的としている。

 

(1)悪意による商標登録出願

 悪意による商標登録出願は、誠実信用の原則に反するものをいい、強奪或いは不正に他人の商標の名誉を利用し、他人の先に存在する権利を害し,或いは公共資源を損なう事を目的とする商標登録出願である。

 

 悪意による出願は氾濫しており,商標権者及び消費者の合法権益を侵害するのみならず,商標標識資源の浪費をも招いている。現実に日本のブランドが中国で第三者により登録され、中国でビジネスを行う際の障害になっている。

 

 そこで第三次商標法改正においては、この問題を解消すべく、誠実信用の原則に基づき,特別な悪意出願に対する規制条項を新設し、悪意の先取得、使用商標の先取りを禁止する予定である(改正中国商標法第34条)。

 

(2)馳名(ちめい)商標の明確化

 馳名商標制度は容易く行われる偽ブランドの侵害行為に対する保護制度であり、馳名商標と認定されるためには“案件毎の認定と、受動保護”の原則が採用される。すなわち、個別具体的な司法紛争または行政紛争過程において認定された場合に限り、馳名商標として保護を受けることができるのが原則である。

 

 しかしながら、近年では特定の地方及び企業において、故意に宣伝を通じて馳名商標に特定の含意を与え,これを“著名商標”、“大ブランド”、“優秀品質商品”と同等のものとして使用している。

 

 第三次商標法改正においては、“案件毎の認定と、受動保護”の原則をより一層明確化し、広告宣伝中に“馳名商標”等の文字を使用することを禁止する予定である(改正中国商標法第14条)。

 

4. 商標権侵害行為に対する処罰の強化

 過去の法改正においても商標専用権の保護強化を目的としていたが、今回も同様により一層の処罰力の強化を目的とした改正が行われる。具体的には以下の4方面から商標の侵害行為に対する処罰力を強化し,商標の専用権の保護を強化する。

 

(1)法律責任を負うべき侵害行為の種類の増加

 許可を得ることなく他人の商標を、企業の屋号または商品名称に使用すること、及び、他人の商標権侵害行為を援助することを、商標権の侵害行為の一つとする(改正中国商標法第62条、第61条(6))

 

(2)法定侵害賠償額の引き上げ

 損害賠償額の認定が困難な場合、現行法では50万元を上限とする法定賠償額が認められる。商標権者の保護強化を図るべく、専利法と同じく上限を100万元まで引き上げる(改正中国商標法第67条)。

 

(3)繰り返し行われる侵害故意に対する処罰の強化。

 2回以上商標権侵害行為を行った場合,極力重く処罰する(改正中国商標法第64条)。悪質な再犯行為を防止するためである。

 

(4)侵害された者の挙証責任の軽減

 第三次法改正商標法では明文の規定を設け、人民法院または工商行政管理部門が、必要に応じて侵害者に帳簿及び資料等の提出を命じることができるようにする予定である。これは第四次専利法改正案でも提案されている内容である。現行法では損害額の立証が極めて困難であることから、侵害者に帳簿及び各種資料の提出を命じることができるようにするものである。

                                                                            以上

 



[1] “傍ブランド”とは、著名な登録商標を、自身のブランドとして使用し、消費者に混同を生じさせ、登録商標のブランド力を利用して利益を得る行為をいう。

 

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