米国改正特許法逐条解説 第3回 (第3回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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米国改正特許法逐条解説 第3回 (第3回)

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米国改正特許法逐条解説 (第3回)

~第3回 2011年改正法の要点~

 河野特許事務所 2012年3月21日 執筆者:弁理士 河野 英仁

 

4. 先使用権(Defense to infringement based on prior commercial use)(AIAセクション5)

(1)概要

 改正前は、ビジネス方法特許に対してのみ先使用権が認められていた(改正前特許法273条)。先使用権の範囲をビジネス方法特許以外にも拡大すべく、273条の規定が大幅に改正された。ただし、大学及び技術移転機構には先使用権を主張することができないので注意が必要である。また日本と異なり、有効出願日(または公表日)より1年前からの商業的使用が必要とされる点に注意する必要がある。

 

(2)定義

 先使用権とは、クレーム発明を侵害すると主張された被疑侵害者が、米国特許法第282(b)(特許無効の抗弁)の規定に基づき、方法、機械、製品、または製造に用いる組成物または商業的方法からなる主題に関し有する抗弁権をいう(273条(a))。

 

(3)主体的要件

 善意の被疑侵害者であることが必要である(273条(a))。

 また、抗弁は、

  273条(a)に規定する商業的使用を処理した者、または、商業的使用の処理を命令した者によってのみ、または、

  管理が当該者によりコントロールされる団体、または、管理が当該者の共通管理下にある団体によってのみ主張することができる(273条(e)(1)(a))。

 

(4)地域的要件

 米国で、国内商業使用に関連して、商業的に主題を使用した場合にのみ先使用権が発生する(273条(a)(1))。従って米国外での使用に基づく先使用権は認められない。

 

(5)時期的要件(273条(a)(2))

 商業的使用が以下のいずれか早いときから少なくとも1年前に始まっていること—

  (A)発明の有効出願日

  (B)クレーム発明が米国特許法第102条(b)(新規性喪失の例外)に基づく先行技術の例外規定を満たす方法で公衆に開示された日

 すなわち、参考図4に示すように、有効出願日または発明者による公開日より1年前に商業的使用が始まっていない限り先使用は認められない。

 参考図4

 

(6)証拠のレベル

 先使用に基づく抗弁を主張する被疑侵害者は、明確かつ説得力ある証拠( clear and convincing evidence )をもって当該抗弁を確立する責務を負う(273条(b))。すなわち、先使用権が認められるためには高い証拠力が要求される。

 

(7)先使用の例外

(i)安全性確保のための行政審査

 商業的マーケティングまたは使用が市販前の行政審査期間(米国特許法第156条(g)(行政審査)により特定される期間を含む主題の安全及び有効性が確立される期間)に制約される主題は、当該行政審査期間の間(a)(1)の目的のために商業的に使用したと見なされる(273条(c)(1))。すなわち、医薬品等の安全性確保のため行政審査が必要とされるところ、当該行政審査期間は商業的使用と見なす旨規定したものである。

(ii)非営利の実験的使用

 公衆受益者とする大学または病院等の非営利研究所または他の非営利団体による主題の使用は、(a)(1)にいう目的での商業的使用と見なされる(273条(c)(2))。先使用権が成立するためには商業的使用であることが必要とされるが、非営利の大学、研究所における使用も商業的使用の範疇に含めたものである。

 

(8)先使用権と消尽論

 消尽とは、特許製品をユーザが購入した場合、特許権はexhaustし、当該ユーザの購入製品の販売行為等に対しては特許権行使できないこという。

 有用な最終成果の販売または他の処置が,当該有用な成果に関する特許に対して、先使用権を有する者によって行われる場合、当該販売その他の処置が特許所有者によって行われた場合に当該特許に対する特許所有者の権利が消尽するのと同程度、特許所有者の権利を消尽させる(273条(d))。

 すなわち、先使用権者が製品を販売した場合、その時点で特許権は消尽する。

 

(9)先使用権の移転制限

 特許所有者への移転の場合を除き,先使用権は、当該抗弁に関連している企業全体又はその事業部門の他の理由による善意の譲渡又は移転に係る付帯的及び付随的部分として行う場合を除いては,他人に許諾又は譲渡又は移転をすることができない(273条(e)(B))。このように、譲渡は事業譲渡の一環として行う場合にのみ認められ、先使用権の移転は制限されている。

 

(10)先使用権の場所の制限

 先使用権は、サブパラグラフ(B)に規定した譲渡または移転の一部としてある者により取得された場合、クレーム発明の有効出願日または当該企業の譲渡若しくは移転の日の内の遅い方の日より前に,抗弁が存在していなければクレーム発明を侵害することになる主題が使用されていた場所における使用についてのみ主張することができる(273条(e)(C))。

 例えば参考図5に示すように、移転により先使用権を取得したものが、有効出願日前に西海岸でのみ被疑侵害品を製造販売していたとする。この場合、先使用権は西海岸でのみ認められ、有効出願日以降に東海岸で販売を開始したとしても、先使用権は認められない。

参考図5

 

(11)冒認の場合の取り扱い

 抗弁の基礎とする主題が特許権者,又は特許権者の利害関係人を由来とするものであるときは,先使用権を主張することができない。すなわち特許権者の発明を冒認していた場合、先使用権を主張することができない(273条(e)(C)(2))。

 

(12)包括的契約でないこと

 先使用権は,該当特許の全てのクレームに基づく包括的許諾ではなく,本章の要件に合致する商業的使用が発生したとことが確立された主題のみを対象とする(273条(e)(3))。すなわち、先使用権の対象となるクレームのみが対象となり、同特許内の他のクレームについては対象とならないということである。

 

(13)使用量と改良発明

 先使用権は,主張される主題についての使用量の変化,及び、クレームされている主題における改良であって,その特許に関して明示してクレームされている追加の主題を侵害しないものも対象とする。つまり、使用量については制限がなく、1月当たり100台の生産量から、500台の生産量に変更することができる。また、改良についても、当該改良が他のクレームの侵害に該当しない限り認められる(273条(e)(3))。

 

(14)大学例外

 先使用権は、ビジネス方法特許以外の対象にまで拡大されたが、大学及び技術移転機構が有するクレーム発明に対しては先使用権を主張することができない(273条(e)(5))。おそらく、大学側から先使用権に反対するロビー活動が功を奏したものと思われる。

 

(15)先使用権と無効理由

 先使用権が成立するということは、特許が無効理由を有する可能性が高い。ただし、先使用権が主張・立証されたことのみをもって、特許が第102 条(新規性)又は第103 条(非自明性)に基づいて無効であるとはみなされない(273条(g))。あくまで、訴訟にて無効の抗弁を主張するか、PGR、IPR、EPRを申し立て、その上で特許を無効としなければならない。

 

(16)施行時期

 即日(2011年9月16日)施行された。ただし施行日以降に成立した特許のみが抗弁の対象となる(AIAセクション5(c))。すなわち、施行日前に成立した特許に対しては先使用権を主張することができない。

 

(第4回へ続く)

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