米国特許判例紹介:先行技術の提出と不正行為(第4回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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米国特許判例紹介:先行技術の提出と不正行為(第4回)

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米国特許判例紹介:先行技術の提出と不正行為(第4回)

~IDS提出基準の大幅見直しへ~

     Therasense, Inc., et al.,

               Plaintiffs Appellants,

           v.

  Becton, Dickinson and Company, et al.,

               Defendants- Appellees.

河野特許事務所 2011年9月5日 執筆者:弁理士  河野 英仁

(2)不正行為論への発展

 以上述べた3つの最高裁事件における「汚れた手」論を基礎として、現在の不正行為論が発展した。不正行為論は、「汚れた手」論を基礎とすることから、PTOおよび裁判所の双方を欺こうと意図された甚だしい不正行為に加えて、PTOに対する情報の非開示を含むより広い不正行為を含む形で進化してきた。

 

 そして不正行為は単に特許訴訟を却下するに留まらず、特許全体の権利行使不能という強い制裁をもたらすこととなった。この広い範囲及び強い制裁の観点から、不正行為が成立するためには、欺く意図と重要性の双方が要件として課されるようになった。

 

 過去裁判所はこの意図と重要性に関し、スライド制を採用していた。すなわち、意図の立証基準が低くとも、重要性が高い場合、意図及び重要性の双方の要件を満たすと判断していた。その逆も同様で意図が強く推認される場合、重要性が低くとも不正行為を認定していた。

 

(3)スライド制の廃止

 大法廷は意図及び重要性の基準の低下、スライド制の採用が、不正行為の乱発を招き、特許制度を崩壊していると認定し、スライド制を廃止すると共に、2つの基準を高めることとした。

 

 不正行為の成立要件を低減させてきたことに起因する問題点を列挙する。

・PTOに対する開示を奨励することは、予期できない結果をもたらし、訴訟においては不正行為が重要な抗弁となっている。

・不正行為について金銭的負担が増大する。

・不正行為は、特許の有効性を低減させ、特許権者を悪者とみなすことになる。

・不正行為論は、特許権者の非道徳行為に焦点を当てるため、特許弁護士のやる気をそぎ、また本来の主要争点である特許有効性及び侵害論についての議論を損なうことになる。

・不正行為論争は、そもそも複雑・高コスト体質の特許訴訟をさらに複雑化させ、長期化・高コスト化を招来することになる。

・不正行為による救済は特許法における爆弾である。すなわち非自明性等の特許無効と異なり、特許全体のクレームが権利行使できなくなるのである。こうなれば再発行特許(米国特許法第251条[1])によっても救済されない。

・不正行為が発覚した場合、他のファミリー特許にまで拡散する。

・不正行為の判断は、企業の特許ポートフォリオの実質的部分を危険にさらす。

・不正行為はまた反トラストおよび不正競争による問題を引き起こすかもしれない。

・米国特許法第285条に規定する弁護士費用の発生を招く可能性がある。

・不正行為の負担がありふれた訴訟戦略になっているということに疑いはない。ある研究では、80%の特許訴訟において不正行為の主張がなされている。

・ほぼ全ての大型特許事件における不正行為の習慣は、完全な疫病になっている。評判の良い弁護士は、自身のクライアントの利益を適切に代理すべく強制的に他の評判の良い弁護士に対し最も薄弱な理由で、責めざるを得ない

・特許権利化を担当する弁護士は、不正行為を恐れる余り、取るに足らない資料を大量にPTOに提出し、審査官を先行技術の洪水に埋めている。

・どの先行技術が、関係があるのか何の説明もなく、800もの先行技術が審査官に提出されていた。

・大量の開示は逆に、重要な先行技術の発見を困難とする。

・大量の開示により、審査リソースに負担を与え、結果として審査遅延をもたらしている。

・現在の制度は裁判所及びPTOの資源を酷使し、複雑性・コストを増加させ、PTOの審査を遅延させることとなっている。

 

 以上のことから、大法廷は公衆の利益に鑑み、意図及び重要性の判断基準を引き上げることとした。

 

 また、意図及び重要性は別個の要件であり、重要性から意図があったと推測してはならず、また意図から重要性を推測してもならないと述べた。すなわち、意図及び重要性に関し、スライド制を廃止し、両者を別個独立して判断しなければならないと判示した。


[1]第251 条 瑕疵がある特許の再発行

詐欺的意図のない錯誤があったために,明細書若しくは図面の瑕疵を理由として,又は特許権者が特許においてクレームする権利を有していたものより多く又は少なくクレームしていることを理由として,特許がその全部若しくは一部において効力を生じない若しくは無効とみなされた場合においては,特許商標庁長官は,当該特許が放棄され,法律によって要求される手数料が納付されたときは,原特許に開示されている発明について,かつ,補正された新たな出願に従い,原特許存続期間の残存部分を対象として特許を再発行しなければならない。再発行を求める出願に新規事項を導入することはできない。

(第5回へ続く)

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