- 羽柴 駿
- 番町法律事務所
- 東京都
- 弁護士
対象:民事家事・生活トラブル
- 榎本 純子
- (行政書士)
この控訴審での証拠調べが終わった段階で、検察官は思いがけない主張を提出してきました。それは、黄色信号を見たときにブレーキをかけても交差点の手前で停止できない場合であっても、全赤の時間内に通過を完了できないときはやはりブレーキをかけて停止する義務があり、その結果交差点の中まで入ってしまった場合にはその後前進・後退などの措置をとるべきである、そして仮に一審の事実認定に誤りがあったとしても、F運転手のダンプが全赤の時間内に交差点を通過できない位置にあったときに信号が黄色に変わったものであるので、ブレーキをかけて停止する義務があった、したがってそれをしなかったF運転手にはいずれにせよ過失はある、というものでした。このような主張を検察官が提出したということは、検察官も一審の事実認定が間違っていたことを認めざるを得なくなったことを示すものと私は考え、前途に光が見えた思いがしました。
そうして迎えた控訴審の判決の日。東京高等裁判所の担当部裁判官三名が入廷し、緊張した雰囲気の中で裁判長が判決を読み上げました。
「主文。原判決を破棄する。」
私はこの言葉を聴いて、一瞬「勝った」と思いました。ところが、続いて裁判長はこのように読み上げました。
「被告人を禁錮1年4月に処する。この裁判確定の日から4年間、右刑の執行を猶予する。」
結果は一審と同じく有罪、ただし執行猶予付きというものでした。これはどういうことでしょう。
(次回へ続く)