告訴・告発の不受理は違法か? - 書類作成・申請 - 専門家プロファイル

今林 浩一郎
今林国際法務行政書士事務所 代表者
東京都
行政書士

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告訴・告発の不受理は違法か?

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   警察署や地方検察庁に告訴状・告発状を受理されなかったという話はよく耳にします。警察署や地方検察庁に告訴状・告発状を受理させるのは骨の折れる仕事であるというのは、一般人のみならず弁護士さえもが常識的に実感しています。ところで、日弁連が2005年秋に弁護士に対して実施した告訴不受理問題に関するアンケートによれば、「質問1:これまでの弁護士業務のなかで、警察に告訴をなかなか受理してもらえず、警察の対応に問題を感じた体験がありますか。」に対する回答は、「ある」70.1%(225件)、「ない」24.9%(80件)、「無回答」5%(16件)でした。また、「質問2:A平成12年以降、告訴をした件数は、何件ですか。(647件)B 同年以降、告訴を拒まれた件数は、何件ですか。(299件・46.2%)C 同年以降、最終的に不受理だった件数は、何件ですか。(202件・31.2%)。そこで、警察又は検察庁による告訴・告発の不受理は法律的に許されるのかという疑問が生じます。

   刑事訴訟法は、告訴に関し、「犯罪により害を被った者は、告訴をすることができる」(同法230条)、また、告発に関し、「何人でも、犯罪があると思料するときは、告発することができる」(同法239条1項)と規定します。したがって、犯罪被害者は告訴することができ、(それ以外の)犯罪があると思料する者は誰でも告発することができると解されます。したがって、告訴・告発の受理は、告訴・告発を受理する権限を有する捜査官の自由裁量に任されていると解することはできません。このことは刑事訴訟法が検察官は告訴・告発された事件に関して起訴・不起訴処分をしたときにはその旨の通知を告訴人・告発人に通知すべきこと(同法260条)、検察官は告訴・告発された事件に関して不起訴処分をしたときには告訴人・告発人の請求に応じてその理由を速やかに告知すべきこと(同法261条)及び告訴人・告発人は検察審査会に検察官の不起訴処分の当否の審査を請求できること等告訴人・告発人の権利を慎重に保護していることとも一致します。この点に関し、通説・判例は、記載事実が不明確なもの、記載事実が特定されないもの、記載内容から犯罪が成立しないことが明白なもの、事件に公訴時効が成立しているもの等でない限り、検察官・司法警察員が告訴・告発を受理する義務を負うと解します(東京高裁昭和56年5月20日判決・判例タイムズ464号103P同旨)。

   次に、刑事訴訟法241条1項は「告訴又は告発は、書面又は口頭で検察官又は司法警察員にこれをしなければならない」と告訴・告発の受理機関に関して規定しています。ここで、司法警察員とは、「司法警察活動に関する特別権限を付与された司法警察職員」と定義されます。警察官は、原則的に、巡査階級の者は司法巡査、巡査部長以上の階級の者は司法警察員とされていますが、捜査上必要に応じて巡査長たる巡査を司法警察員に指定することができます。したがって、告訴・告発は、原則的に司法巡査に対して行うことはできず、司法警察員か検察官にする必要があります。ここで注意を要するのは、検察事務官(通常は副検事も含む)は告訴・告発の受理権限がありませんし、司法警察員としての職務を行う労働基準監督官も告訴・告発の受理権限があるという点です。なお、告訴・告発は、警察署長や都道府県警察本部に行っても有効ですし、高等検察庁や最高検察庁の検察官に対して行っても有効です。ただし、実際に捜査するのは事件を担当する刑事や地検の捜査担当検察官です。さらに、刑事訴訟法では、口頭による告訴・告発も可能であると規定されていますが、実際には口頭による告訴・告発は実務では受理されず、書面で告訴状・告発状を提出することが慣例化しています。窓口で口頭の告訴・告発を受理すべきだと担当刑事と争っても時間の無駄なので、この場合には担当刑事の指示に従い、書面で告訴状・告発状を作成し、修正の要求にも迅速に応じる方が賢明です。

   ところで、警察署や地方検察庁に告訴状・告発状を迅速に受理させる方法ですが、まず、告訴状に告訴事実を簡潔明確に記載し、被告訴人の特定、事件の発生日時・場所、事件の経緯等捜査に役立つ事実及びそれらを証明する証拠を整えることは不可欠です。事件によってはこれらを全部整えられない場合もありますが、記載事実も証拠も不十分な場合には、捜査官はどうしても告訴・告発の受理を渋ります。また、警察署や地方検察庁からの呼出があれば可能な限り迅速に応じることも必要です。もっとも、たとえ事件が形式的には犯罪構成要件に該当し、事実も証拠も整っていても、犯情が軽く事件として取り上げるに値しない場合には告訴として受理されない可能性もあります。そこで、もう一度自分が告訴しようとしている事件が刑事事件に値するかどうかをよく検討してみる必要があります。

   最後に、警察署の担当刑事がどうしても告訴状・告発状を受理しない場合には、署長、都道府県警察本部(又は警視庁)、又は地方検察庁に直接に告訴状・告発状を郵送する方法もあります。あるいは、都道府県警察本部(又は警視庁)の監察室又は都道府県公安委員会に当該事情を説明して、当該刑事に告訴・告発の受理を促す方法もあります。同様に、告訴・告発事件の捜査が遅延している場合には、都道府県警察本部(又は警視庁)の監察室又は都道府県公安委員会に当該事情を説明して、当該刑事に捜査の迅速化を促す方法もあります。通常、告訴・告発は、現場の一刑事の判断だけで受理・捜査されるものではなく、告訴・告発の受理・捜査の過程で警察署長及び都道府県警察本部の指揮の下に行われます。そして、一度告訴・告発が受理されると司法警察員は速やかに関係書類及び証拠品を検察官に送らなければならず、検察官の関与なしに事件を警察段階で止め、立件を見送ることはできません(刑事訴訟法242条)。こうして司法警察員に捜査義務の生じることが、司法警察員が告訴・告発の受理を渋る別の理由だとも考えられています。

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