住宅断熱基礎講座/建築家が高気密高断熱が苦手なワケ - 住宅設計・構造設計 - 専門家プロファイル

野平 史彦
株式会社野平都市建築研究所 代表取締役
千葉県
建築家

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対象:住宅設計・構造

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住宅断熱基礎講座/建築家が高気密高断熱が苦手なワケ

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住宅断熱基礎講座 05.高気密・高断熱の課題
05-1:建築家が高気密高断熱が苦手なワケ
 
 未だに誤解が多いとは言え、住宅メーカーの売り文句にも欠かせなくなってきた感のある高気密・高断熱住宅ですが、その基本は一緒でもその仕様は様々です。住宅メーカーは各々、在来軸組工法であるとかツー・バイ・フォー工法、パネル工法といった独自の構造形式を採用しているように、高気密・高断熱の仕様についてもその構造形式にあったものを独自に研究開発しています。中にはとても高気密・高断熱とは呼べない代物もありますが、以前よりは確かに気密性、断熱性といった基本性能は向上していると言っていいでしょう。

 住宅展示場をくまなく廻って、散々研究した挙げ句にどうしても住宅メーカーでは自分の納得のいく家が建たないと結論を出したお客さんが設計事務所の門(門はないかもしれません)を叩くことになり、(そのお陰で私達は何とか生計を立てているのですが、)この時のお客さんの口からも「高気密・高断熱」という条件が提示されることが多くなってきました。

 しかし、関東以西の住宅の設計を手掛ける設計事務所ではこの「高気密・高断熱」についてどのような認識を持っているのでしょうか?

 結論から先に言えば、ほとんどの設計者が「高気密・高断熱」の実際の構法を知らないのです。しかし、お客さんにそう言われたら、知りません、できませんとは言えないのでハイハイと聞いて、グラスウールを今までの倍の厚味にして窓ガラスをペアにして、床暖房などを入れてみて、ほら、今までの家よりずっと暖かいでしょう?などと言ってお茶を濁している場合が殆どなのです。

 住宅の設計者、それも著明な建築家になるほどデザイン指向が強く、住宅の基本的な性能云々には無頓着という人が多いのです。仕舞には「暑い、寒いと文句を言うなら、他所に頼んで下さい。」という始末。

 また、設計者の中ですらまだまだ「高気密・高断熱」を誤解している人が少なくありません。設計者自身そのような家で生活したことがないのですから、その快適さを想像するよりは否定的な面にばかりに目が行ってしまうのも無理からぬことです。

 ある設計事務所のホームページにこのような記述がありました。
「高気密・高断熱住宅では24時間機械的な換気をせねばならず、換気設備の寿命が7年程度だとすると、換気設備が壊れたことも知らずに住んでいることの危険性を考えると、今までの家のほうがずっといいことは明らかです。皆さん、おかしな流行にだまされないようにして下さい。」
 高気密・高断熱の本質的な意味を知らないと、こういうおかしな論理に翻弄されてしまいます。プロでさえこうなのですから一般の方の理解を得るのがいかに難しいかがよく分かります。高気密・高断熱の第一の課題として上げるなら、設計事務所の高気密・高断熱に対する理解をいかにして取り付けるか、ということかもしれません。

 勿論、しっかり勉強して実践している設計事務所がない訳ではありませんが、高気密・高断熱工法が得意ではないというのは、それなりの理由があるのです。

 その大きな理由のひとつには、高気密・高断熱工法の殆どが住宅メーカーや断熱材等のメーカーが開発したのもで、その仕様を公開していないためです。

 メーカーの多くは工務店とフランチャイズ契約を結び、工務店は自分の採用した構法で施主に営業攻勢をかけるので、設計事務所は茅の外という訳です。

 私も何度かメーカー物の仕様を自分の設計している物件に使ってみようとメーカーに問い合わせたことがありますが、決してその詳しい仕様を教えてはくれませんでした。
 勿論、設計事務所がこれらの工法を使えない、ということではありません。これらの工法を使うにはその工法にフランチャイズしている工務店を使わなければならない、ということです。しかし、使える工務店が限定されるということは、他の工務店と金額的な競争をさせられないので、設計事務所としてはなかなか採用し難いものがあるのです。

 そんな閉鎖的なメーカーの体質にメスを入れたのが内断熱の基本とも言える新在来木造構法を開発した鎌田紀彦室蘭工業大学助教授を中心とした研究グループで、この工法は20年以上も前にマニュアル化されて公開されたもので、さらにオープンなパネル工法としてPFP工法を開発し、その普及に努めています。

 また、メーカー物では「アキレス外張り工法」が唯一オープン販売されており、設計者も施工者も自由に使用できるようになっています。

 これらの仕様を勉強すれば高気密・高断熱構法の基本は学べるのであり、数あるメーカーの仕様もこの基本を外していない訳ですから設計者も無頓着にならずに積極的に高気密・高断熱に挑戦していって欲しいものです。それが自らの設計活動の可能性を広げることにもなるのですから。


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