痴漢事件に最高裁が無罪判決 (2) - 刑事事件・犯罪全般 - 専門家プロファイル

羽柴 駿
番町法律事務所 
東京都
弁護士

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対象:刑事事件・犯罪

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閲覧数順 2016年12月07日更新

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痴漢事件に最高裁が無罪判決 (2)

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連載「新・刑事法廷」

現場での対応はどうあるべきか



 それでは、毎日のように起きるラッシュ時の痴漢行為に対し、現場の関係者はどのように対処すべきなのでしょうか。

 現在の警察の一般的扱いでは、被害者がある男性を痴漢犯人であるとして駅員や駅前交番につきだした場合、男性が否認していると、まず間違いなく逮捕されてしまいます。もちろん罪を認めていても逮捕される場合が多いのですが、痴漢行為の程度によっては警察官が、被害者に対し「本人も謝っているから許してやったらどうか」と説得することもあります。

 このように、罪を認めると寛大に、認めないと厳しくという事件処理の方法は、ひとり痴漢事件だけではなく広く一般の犯罪に対する警察の共通した対応方針ですが、こと身柄拘束、つまり逮捕するかどうかの分かれ目とされることに対しては、私は賛成できません。それは事実上、自白を強要することに他ならないからです。

 したがって、男性の住所氏名、勤務先などが明確であり、家族が身柄を引受けるなど、今後の捜査にあたって出頭が確保できる見込みがある場合は、たとえ男性が否認していても、原則として逮捕する必要はないと考えるべきでしょう。逆に、男性に同種前科がある場合や被害者に対する脅迫行為などの嫌がらせが予想されるような場合は、逮捕の必要があるでしょうし、何でも全て逮捕しないのが良いというものでもありません。

 誤解のないようにしてもらいたいのですが、私は痴漢を見逃せとか許してやれといっているのではありません。身柄を逮捕しなくても捜査はできるのです。在宅捜査や在宅起訴といって、交通事故による業務上過失致傷(現在は、自動車運転過失致傷)のように一定の軽い犯罪では実際に行われていることです。

 逮捕せず、しかし捜査は続け、被害者の言い分だけでなく被疑者(男性)の言い分も十分に聞き、目撃者や物証など客観的証拠がないかを調べ、その結果、(今回の最高裁判決が指摘するような)被害者の供述に不自然な点などがないか等の問題を考慮してもなお犯行が十分に立証できるのであれば、在宅で起訴すればよいのです。裁判でも、十分な証拠があれば有罪判決を得ることは可能ですし、逆に被告人も十分に言い分を主張する機会が与えられるでしょう。

 このような方法をとることで、一方でえん罪の発生を防ぎ、他方で痴漢を許さないという社会的努力を後退させないことも可能になるのではないでしょうか。警察・検察など関係者には是非、考えていただきたいことです。