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界隈の分断・高輪ゲートウェイ駅周辺

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人に貸してはいけないもの(‥返ってこないもの)は?
それは『お金』『傘』そして 『本』 と なります。
もう誰に貸してしまったかも忘れている 一冊 を 神保町の古本屋さんで見つけました。

『東京漂流』 藤原新也

83年初版。当時まだ学生であった私が、貪り読んだ一冊でした。
いい大人になってしまった今、また読み返してみようと思いたちました。

60年代の高度成長期から80年代初頭、まだバブルという言葉すらなかった日本社会の病理を
鋭く突いています。この後に起きる宮崎勤の事件や、90年代の一連のオウム真理教の事件をも
予見させているようで、いささか驚きました。

ことのほか藤原氏のテーマは、当時の『日本人』と『家(その家族)』との関係の変異です。
『家』から縁側や神棚は排除され、消費の対象と化した『家』とそこから育つ家族間の狂気。
35年以上も経た現代では、高気密高断熱を唱った『家』は益々その工業化・隔離性はすすみ、
それが密室化した家庭内で起きている ひきこもり 幼児虐待 といった社会問題と、どこか
根を同じくするように感じてしまうこと。時代を超え、リンクしているかのようで恐ろしい。

家に『縁側』を復活させよう。などと 短絡的な懐古主義を唱えるつもりはありません。
ただ、ハード・ソフト共、縁側的な『間』は、日本の住居には必要だとは考えています。


『東京漂流』では冒頭、藤原氏の住まいの周辺、芝浦4丁目辺りの情景が描かれています。
今でこそ企業の近代的なビルが建並び想像がつきませんが、確かに80年代の芝浦の様子です。
人の佇まいも文化の匂いもしない 空虚で殺伐とした風景。
その風景のひとつ。
『芝浦浄水場』 と その上部に唐突に存在するという 『芝浦浄水場屋上公園』
いま、どうなっているのだろうか。GoogleMapを頼りに、散策してみることにしました。

浄水場は『芝浦水再生センター』
公園は、一部高層ビルのイベント広場と『港区立芝浦中央公園』として存在していました。
ちょうど新幹線の線路と旧東海道の間。品川・田町間の細長い敷地です。

小さい子連れの家族が遊び、『東京漂流』で描かれた殺伐感から脱皮した公園のようです。
ただ、気がつけば地表から響く低騒音、所々隠蔽仕切れずむき出しになった巨大な排水管、
そして動物としての五感からも、この大地が人工的に作られたものと感じられ、この公園、
あまり居心地よくはありません。

いや、もっとも違和感を感じること。
それは、この公園が、話題の山手線新駅『高輪ゲートウェイ』の真東に位置していながら
その存在感を全く感じない、感じさせない、ということ。
折紙状の印象的なデザインの駅舎など、JR関連の建物と車両基地や新幹線の線路が邪魔で
ほとんど どこからも見えません。 公園内の道先案内板には‥

←品川駅方面出入口
田町駅方面出入口→
( ※つまり、ここから 高輪ゲートウェイ駅 には行けませんよ! )

日本の土地を表す概念に『界隈』という言葉があります。
〇〇坂界隈、〇〇寺界隈 と言うとき、坂やお寺そのものだけでなく、その周辺を含めた
地名となるのです。〇〇駅界隈 というのもそのひとつのはずですが、この公園エリアを
高輪ゲートウェイ駅界隈 とは もはや呼ぶことはできません。
本来、その地に由来する名の駅名にするべきところに、カタカナを入れていることからも
これまで培われたものから隔離させようとする意図が、どこかにあるのでしょうか。

唯一
この地域と、線路を隔てた『高輪ゲートウェイ駅周辺再開発地域』との通路があります。
高輪橋架道下区道 通称『提灯殺しのガード』です。
(タクシーは通るとその車上の提灯が壊れてしまう、と言うことだそうです。)
全長230mにも及ぶJR線路下通路は、身長165センチの私でも圧迫感ではなく恐怖です。
現在、車両は通行止めとなり、数年かけての改良工事がなされています。
果たして、界隈を形成するまでの存在となりうるのでしょうか。

ただ 東京都内の珍名所として、今のうちに体験されてみることは おすすめでしょう。


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