中国特許民事訴訟概説(第6回) - 企業法務全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国特許民事訴訟概説(第6回)

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中国特許民事訴訟概説 ''〜中国で特許は守れるか?〜''(第6回) 
河野特許事務所 2008年9月12日
執筆者:弁理士 河野英仁、中国弁理士 張   嵩


(4)米国イーライリリー事件
 日本において侵害行為を発見した場合,通常警告書の送付,交渉,訴訟提起というプロセスを経る。しかし,中国においては,前半のプロセスを省略して速やかに侵害訴訟を提起することが望ましい。証拠隠滅のおそれがあるということ,そして,侵害者側が差止請求権不存在確認訴訟を,侵害者の地元人民法院にて提起するおそれがあるからである。
 この点が問題となったのが,米国イーライリリー事件である。特許権者である米国イーライリリーと,中国企業との特許訴訟である。中国企業は彼らの地元である江蘇省の人民法院に先に,特許非侵害を主張すべく,差止請求権不存在確認訴訟を提起した。これに対し,特許権者たる米国イーライリリーは,特許権侵害であるとして,山東省の人民法院に提訴した。この場合,どちらが裁判管轄権を有するのであろうか。人民法院は,先に請求のあった人民法院が裁判管轄権を有すると判示した。
 つまり,中国企業の地元人民法院で,特許侵害の有無が争われることとなったのである。このように,どの人民法院を選択するか,またどのタイミングで訴訟を提起するかは訴訟戦略上非常に重要となる。

5.現状の訴訟データ
(1)民事訴訟の現状
 図2に1985 年から2007 年までの各人民法院における知的財産権に関する民事訴訟事件の受理件数の変化を示す。

 図2 知的財産権に関する民事訴訟受理件数の変化

 図2に示すとおりWTO に加盟した2001年以降急激に事件が増加していることが理解できる。
 図3は2007 年度における知的財産権訴訟の内訳を示すグラフである。

 図3 2007 年度の内訳を示すグラフ

 図3に示す如く,著作権に関する事件が最も多く,次いで特許権及び商標権に関する事件が続く。著作権侵害事件が最も多いのは,やはり映画,音楽,及びコンピュータソフトウェアの違法コピーが極めて多いことに起因するものである。特許権侵害事件が大きなウェイトを占める点も注目すべきであるが,もう一つ注目すべき点は,技術契約に関する事件の割合である。以前はこの技術契約に関する争いが長らく上位を占めていたが,近年はその割合が低下している。これは社会経済の発展と共に,契約書の内容も年々洗練されてきたため,技術契約に関する事件数も徐々に低減してきたからである。
(2)外国企業が関与する事件
 日本,米国または欧州等の外国企業が原告または被告となる事件(以下,渉外事件)も2002年以降増加している。2006年においては,渉外事件に係る判決は353なされ,これは対前年比52.16%の伸びである。ただし,全体的な割合で見れば,渉外事件は2.5%にすぎない。現状では中国企業同士が訴訟合戦を繰り広げているのが現状である。
(3)訴訟に要する期間
 裁判提起から判決までの期間は日米と比較すると短い。人民法院は,第1 審においては,原則として6月以内に審理を終結しなければならない(中国民事訴訟法第135条)。また第2審にあっては原則として3月以内に審理を終結しなければならない(同法159条第1項)。このように中国では判決までの期間が立法化されていることから,諸外国に比べ早期に結論を得ることができるという特徴を有する。
 ただし,渉外事件に関しては翻訳期間及び証拠提出等に多くの時間を要するため,例外的に期間の定めはない(同法250条)。

(第7回に続く)