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中国特許判例紹介(36)(第1回)中国における均等論の解釈~方法の順序を変更した場合に均等が成立するか~
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中国における均等論の解釈
~方法の順序を変更した場合に均等が成立するか~
中国特許判例紹介(36)(第1回)
2014年9月2日
執筆者 河野特許事務所
弁理士 河野 英仁
浙江楽雪儿家居用品有限公司
再審申請人(原審被告)
v.
陳順弟
再審被申請人(原審原告)
1.概要
中国では均等論による特許権侵害を認める事例が非常に多く十分注意する必要がある。均等については、司法解釈[2001]第21号第17条第2項に以下のとおり規定されている。
均等な特徴とは、記載された技術的特徴と基本的に同一の手段により、基本的に同一の機能を実現し、基本的に同一の効果をもたらし、且つ当該領域の普通の技術者が創造的な労働を経なくても連想できる特徴を指す。
また、司法解釈[2009]第21号第7条は以下のとおり規定している。
第7条 人民法院は、権利侵害と訴えられた技術方案が特許権の技術的範囲に属するか否かを判断する際、権利者が主張する請求項に記載されている全ての技術的特徴を審査しなければならない。
権利侵害と訴えられた技術方案が、請求項に記載されている全ての技術的特徴と同一または均等の技術的特徴を含んでいる場合、人民法院は権利侵害と訴えられた技術方案は特許権の技術的範囲に属すると認定しなければならない。権利侵害と訴えられた技術方案の技術的特徴が、請求項に記載されている全ての技術的特徴と比較して、請求項に記載されている一以上の技術的特徴を欠いている場合、または一以上の技術的特徴が同一でも均等でもない場合、人民法院は権利侵害と訴えられた技術方案は特許権の技術的範囲に属しないと認定しなければならない。
すなわち、中国では手段、機能、及び効果が実質的に同一であり、かつ、容易に連想することができるものであれば、均等と認定される。
本事件においては、請求項に係る方法発明の順序と、被疑侵害方法の順序とが一部異なっており、順序を変えた被疑侵害方法に対し、均等論上の侵害が成立するか否か問題となった。中級人民法院[1]及び高級人民法院[2]は均等侵害を認める判決をなしたが、最高人民法院は一部の行為について均等侵害が成立しないと判断した[3]。
2.背景
(1)特許の内容
陳順弟(原告)は、「布プラスチック熱水袋の加工方法」と称する発明特許権を所有している。当該特許は2006年2月24日に知識産権局に出願され、2010年2月17日に登録された。特許番号は、200610049700.5(以下、700特許という)である。
700特許は熱水袋の加工方法に関し、方法発明に係る熱水袋は、全部で12のステップを経て製造される。以下は争点となった請求項1のクレーム及び図面である。
1、布プラスチック熱水袋の加工方法において,
布プラスチック熱水袋は、袋体、袋口及び袋栓により組成されており,前記袋体は内層(4)、外層(3)及び保温層(5)を有し,袋体の縁に貼り合わせ辺(6)を有し,前記袋栓はねじ溝栓座(8)及びねじ溝栓蓋(9)であり,ねじ溝栓座(8)の外壁は複合層(8′)を有し,ねじ溝栓蓋(9)は密封スペーサ(10)を有し,袋栓(2)中のねじ溝栓座(8)はポリプロピレン材料であり,複合層(8′)はポリ塩化ビニル材料であり,密封スペーサ(10)はシリカゲル材料により生成され,以下の特徴を有する:
第一ステップ:最初に内層、保温層及び外層材料を取り;
第二ステップ:内層、保温層、外層の順序で重ね合わせ,組合層とし;
第三ステップ:2つの組合層を対応させて重ね合わせ,高周波ヒートシール機を採用して熱水袋の形状に基づき2つの組合層の縁に対し高周波熱貼り合わせを行い;
第四ステップ:高周波熱貼り合わせを行った熱水袋に対し、熱水袋毎に裁断を行い;
第五ステップ:ポリプロピレン材料を取り出し、ねじ溝栓座(8)の型に流し込み,再びねじ溝栓座(8)をインサートとして金型に入れ込み,その他ポリ塩化ビニル材料を取り出し、ねじ溝栓座(8)の外に二次的に複合層(8′)の型に流し込み;
第六ステップ:複合層を有するねじ溝栓座を袋口内に入れ込み,内層と接触させ,高周波ヒートシール機を採用して熱水袋口部に対し、ねじ溝栓座と複合層とを熱貼り合わせし;
第七ステップ:熱水袋の袋体に対し、周辺のトリミングを行い;
第八ステップ:プラスチック材料を取り出し、ねじ溝栓蓋(9)を流し込んで製造し;
第九ステップ:シリカゲル材料を取り出し、密封スペーサ(10)を流し込んで製造し;
第十ステップ:密封スペーサ(10)及びねじ溝栓蓋(9)を相互に取り付けた後、ねじ溝栓座(8)中に回し入れ;
第十一ステップ:空気を満たして圧力試験を行うべく,熱水袋中に圧縮空気を注入し耐圧試験を行い;
第十二ステップ:包装する、ことを特徴とする布プラスチック熱水袋の加工方法。
(2) 原告は、浙江楽雪儿家居用品有限公司(被告)の加工方法(以下、被疑侵害方法)が700特許を侵害するとして、遼寧省瀋陽市中級人民法院に差し止め及び損害賠償を求めて提訴した。
被告は一部の材料を製造するステップを訴外第三者に実施させており、構成要件の一部を欠く、また、一部のステップの順序が特許方法と相違することから侵害は成立しないと主張した。
中級人民法院は、第三者の実施行為は実質的に被告の行為と見なすことができ、また一部のステップの順序が異なるとしても均等侵害が成立すると判断し、侵害行為の差し止め及び30万元(約480万円)の損害賠償を認める判決をなした。高級人民法院は中級人民法院の判決を支持した。被告はこれを不服として最高人民法院へ再審請求を行った。
3.最高人民法院での争点
争点1: 方法の一部のステップを第三者が実施している場合に、侵害が成立するか否か
被告は第5、8及び9ステップの各部品の製造を外部の訴外第三者に委託しており、製造された部品を使用して、最終製品である熱水袋を完成させていた。このように方法の請求項において、一部のステップを第三者に実施させた場合に、特許権侵害が成立するか否かが問題となった。
争点2: 方法の一部のステップの順序が変更された場合に、均等侵害が成立するか否か
被告は方法の一部のステップの順序を入れ替えていた。文言上の侵害は成立しないが、均等論上の侵害が成立するか否かが争点となった。
⇒第2回に続く
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[1] 遼寧省瀋陽市中級人民法院(2010)判決 沈中民四初字第389号
[2] 遼寧省高級人民法院判決 (2011)遼民三終字第27号
[3] 最高人民法院2013年12月25日判決 (2013)民提字第225号
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