Blog201403-5、金融商品取引法(読んだ本など) - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
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Blog201403-5、金融商品取引法(読んだ本など)

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Blog201403-5、金融商品取引法(読んだ本など)

・ジュリスト2012年8月号「特集 金融商品取引法 施行5年の軌跡と展望」
・『金融商品取引法判例百選』有斐閣
・松尾直彦『金融商品取引法』商事法務、2011年刊
・川村正幸『金融商品取引法(第4版)』中央経済社、2012年刊
・松尾直彦『実務論点 金融商品取引法』
・有価証券報告書等の虚偽記載等を理由とする損害賠償請求訴訟の動向
・金融商品取引法の条文
・金融法の内容(金融商品取引法を含む)
・短期売買利益返還請求事件(金融商品取引法164条1項)最高裁判所大法廷判決平成14年2月13日・民集56巻2号331頁、『金融商品取引法判例百選』55事件


ジュリスト2012年8月号「特集 金融商品取引法 施行5年の軌跡と展望」
 改正法や新法ができると解説本が多数出版されるが、金融商品取引法のように毎年改正されている法律について、その後の改正をフォローするのは難しい。法律改正を簡便に知ることができる点で、有益な雑誌である。
上記書籍のうち、以下の部分を読みました。
「近年の金融商品取引法に関する改正の概要」
旧・証券取引法が平成18年に金融商品取引法に改正され、平成19年に全面施行された後の平成20年~23年の改正の概要がまとめられている。


・『金融商品取引法判例百選』有斐閣
 最高裁判例については、民事法の部分は全て読みました。
解説や改正箇所を読んでいて分らない箇所は、金融商品取引法に関する新しいテキストの松尾直彦『金融商品取引法』(商事法務、2011年刊)、川村正幸『金融商品取引法(第4版)』(中央経済社、2012年刊)を調べて読み比べました。


松尾直彦『金融商品取引法』商事法務
2011年刊。本文約600頁。頁数の割に活字が小さいので、情報量は多い。
上記書籍のうち、以下の部分を読みました。
・金融商品取引業者の禁止行為として、無断売買
・信用取引(金融商品取引法)
・金融商品取引法による損失補てん等の禁止
・金融商品取引業者の外務員
・金融商品取引法の委託証拠金
・未公開有価証券の販売、無登録業者と金融商品取引法、不法行為責任
・投資者保護基金
・証券取引所の受託契約準則
・短期売買利益返還請求事件(金融商品取引法164条1項)

川村正幸『金融商品取引法(第4版)』中央経済社
2012年刊。本文約690頁。
詳細で大部な金融商品取引法の本である。ただし、活字が大きいので、読みやすい。
上記書籍のうち、以下の部分を読みました。
・金融商品取引業者の禁止行為として、無断売買
・信用取引(金融商品取引法)
・金融商品取引法による損失補てん等の禁止
・金融商品取引業者の外務員
・金融商品取引法の委託証拠金
・未公開有価証券の販売、無登録業者と金融商品取引法、不法行為責任
・投資者保護基金
・証券取引所の受託契約準則
・短期売買利益返還請求事件(金融商品取引法164条1項)


松尾直彦『実務論点 金融商品取引法』
金融財政事情研究会、平成20年刊、本文241頁。
金融商品取引法のメジャーな論点より、一般的な金融商品取引法の本に書いていないような、やや細かい論点について解説している。「実務論点」というタイトルも、その点を意識したものであろう。他のテキストで一通り勉強した人が、角度を変えて、実務上の細かい論点落ちがないかどうかを確認するのに用いるのが良いと思われる。
刊行時点での金融商品取引法の論点の解説である。発行年が古いため、その後の法改正により、旧・証券取引法から金融商品取引法への改正時点での歴史的背景・パブリックコメントをあまり読む必要はなく、現在の法令を確認する必要がある。
上記書籍のうち、以下の部分を読みました。
Ⅵ 金融商品取引業
・集団投資スキーム持分は第2項有価証券として、金融商品取引法が適用される。
・金融商品取引法の規制対象である有価証券・集団投資スキームから除外される専門的職業(弁護士、会計士など)の組合、会社の従業員持株会・取引先持株会
・金融商品取引法2条にいう第1項有価証券に学校債券、医療法人債券、電子記録債権、第2項有価証券に学校貸付債権を指定。
・金融商品取引業者が(レバレッジド)リースを行う場合は、第2項有価証券として、原則として金融商品取引法が適用されるが、一定の要件をみたせば適用除外される場合がある。
・二層構造不動産投資ファンドについても、親ファンド・子ファンドについて、原則として、金融商品取引法が適用される。
・競争馬ファンドについても、第2項有価証券として、金融商品取引法が適用される。
・外国集団投資スキームについて、金融商品取引法が適用される。
・私募について、金融商品取引法が適用されないことが注目されていたが、金融商品取引法が適用除外されるためには一定の要件が必要である。
・特別目的会社(SPC)、民法組合、投資事業有限責任組合(LPS、投資事業有限責任組合契約に関する法律)、有限責任事業組合(LLP、有限責任事業組合契約に関する法律 )
・信託受益権が第2項有価証券とされているため、原則として、信託受益権の「発行者」であって信託業法が適用されないもの、発行者のための代理・媒介は金融商品取引法が適用される。例外的に、信託業法の適用される発行者の場合には信託業法で金融商品取引法が準用される。
・不動産証券化スキームは第2項有価証券として、金融商品取引法が適用される。
・排出権取引は第2項有価証券として金融商品取引法が適用される。
Ⅷ 金融商品取引業者等の行為規制
1 広告等規制
(広告類似の規制含む)
2 契約締結前交付書面の交付義務
4 行為規制(禁止行為等)
 クーリング・オフが導入されたことの意義は大きい。
 金融商品取引業者の義務が行為規制であるのに対して、銀行法・保険業法による行為規制が制度整備義務であるとの記述には、異論がある。その後の法改正により、銀行法・保険業法は金融商品取引法を準用しており、単なる制度整備義務・監督体制にとどまらず、行為規制と考えられる。
6 弊害防止措置
(1) クレジット・カード決済による累積投資の許容
毎月10万円以内ならば、クレジット・カード決済による投資を許容している。これは消費者保護とともに、金融商品取引業の振興を図るものであろう。
(2) 親法人等・子法人等の間の取引に係る弊害防止措置
非公開情報の授受の例外、弊害防止措置の適用除外の承認範囲、引受けに係る制限の緩和が、実務上重要である。
Ⅳ 特定投資家
 特定投資家の場合、金融商品取引業者の行為規制の一部が適用除外されている。
 金融商品取引法における投資家の4分類は以下のとおりである。ただし、特定投資家から一般投資家への移行は、「契約の種類ごと」である。なお、金融商品取引法と同様に、銀行等の「特定預金等契約」、保険会社の「特定保険契約等」、信託会社等の「特定信託契約」についても、「契約の種類ごと」である。
1 適格機関投資家は、一定規模以上の有価証券残高を有する会社・運用型信託会社などの法人、厚生年金基金・企業年金基金、組合を構成する個人など。
2 特定投資家は、申出により一般投資家へ移行可能であり、地方公共団体、金融商品取引業者、特定目的会社などである。
3 一般投資家であって特定投資家へ移行可能である場合がある。上記1、2以外の法人・個人である。個人も含まれるが、匿名組合・民法組合・有限責任事業組合契約を構成する個人であって、すべての組合員の同意を得ている場合である。
4 一般投資家は、上記1~3以外の個人である。
ⅩⅥ 投資信託・投資法人
 投資信託及び投資法人に関する法律・施行令について、金融商品取引法が適用される範囲について、解説されている。


有価証券報告書等の虚偽記載等を理由とする損害賠償請求訴訟の動向
 (1)西武鉄道事件
 西武鉄道株式会社の株式を取得した投資家が,同社が有価証券報告書に親会社の持株数等について虚偽の記載をして上場廃止事由に該当する事実を隠蔽していたとして,不法行為(民法709条)に基づく損害賠償を求めた事件である。西武鉄道事件判決は,上記の虚偽記載がなければ投資家らが西武鉄道株を取得することはなかったとした上で,このような場合の投資家の損害は,取得価額と処分価額の差額を基礎として,当該虚偽記載に起因しない下落分を上記差額から控除して算定すべきであると判断した。
 (2)ライブドア事件
最高裁判決平成24年3月13日、ライブドア損害賠償請求事件(民集66巻5号1957頁)
 株式会社ライブドアの株式を取得した投資家が,同社が有価証券報告書に実際は経常利益が赤字なのに黒字と偽った虚偽記載をしていたとして,金商法21条の2に基づく損害賠償を求めた事件である。同事件においては,同条2項によって損害額を推定する場合において投資者が請求することのできる賠償額が,いわゆる取得時差額(取得価額と想定価額の差額)に限られるのか,虚偽記載等と相当因果関係のある損害全てを含むのかが争われた(前者の考え方によれば,2項推定損害額のうち取得時差額を超える分は同条4項又は5項によって減額すべきこととなる。)。
 ライブドア事件判決は,金商法21条の2第2項にいう「損害」とは虚偽記載等と相当因果関係のある損害を全て含むものであって,これを取得時差額に限定することはできないとして,同条5項にいう「虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下り」とは,取得時差額に限られず,虚偽記載等と相当因果関係のある値下がりの全てをいうと判断した。
 (3)アーバンコーポレイション事件
最判平成24年12月21日、アーバンコーポレイション再生債権査定異議事件
裁判集民事242号91頁 、判例タイムズ1386号169頁
臨時報告書に虚偽記載等がされている上場株式を取引所市場において取得した投資者が当該虚偽記載等がなければこれを取得することはなかったとみるべき場合,上記投資者に生じた当該虚偽記載等と相当因果関係のある損害の額は,上記投資者が当該虚偽記載等の公表後,上記株式を取引所市場において処分したときは,その取得価額と処分価額との差額を基礎とし,経済情勢,市場動向,当該上場株式を発行する会社の業績(その後、会社が民事再生手続開始)など当該虚偽記載等に起因しない市場価額の下落分を上記差額から控除して,これを算定すべきである。


金融商品取引法
(昭和23年法律第25号)
 第1章 総則(第1条・第2条)
 第2章 企業内容等の開示(第2条の2―第27条)
 第2章の2 公開買付けに関する開示
  第1節 発行者以外の者による株券等の公開買付け(第27条の2―第27条の22)
  第2節 発行者による上場株券等の公開買付け(第27条の22の2―第27条の22の4)
 第2章の3 株券等の大量保有の状況に関する開示(第27条の23―第27条の30)
 第2章の4 開示用電子情報処理組織による手続の特例等(第27条の20の2―第27条の20の11)
 第2章の5 特定証券情報等の提供又は公表(第27条の31―第27条の35)
 第3章 金融商品取引業者等
  第1節 総則
   第1款 通則(第28条)
   第2款 金融商品取引業者(第29条―第31条の5)
   第3款 主要株主(第32条―第32条の4)
   第4款 登録金融機関(第33条―第33条の8)
   第5款 特定投資家(第34条―第34条の5)
  第2節 業務
   第1款 通則(第35条―第40条の5)
   第2款 投資助言業務に関する特則(第41条―第41条の5)
   第3款 投資運用業に関する特則(第42条―第42条の8)
   第4款 有価証券等管理業務に関する特則(第43条―第43条の4)
   第5款 弊害防止措置等(第44条―第44条の4)
   第6款 雑則(第45条)
  第3節 経理
   第1款 第1種金融商品取引業を行う金融商品取引業者(第46条―第46条の6)
   第2款 第1種金融商品取引業を行わない金融商品取引業者(第47条―第47条の3)
   第3款 登録金融機関(第48条―第48条の3)
   第4款 外国法人等に対する特例(第49条―第49条の5)
  第4節 監督(第50条―第57条)
  第4節の2 特別金融商品取引業者等に関する特則
   第1款 特別金融商品取引業者(第57条の2―第57条の11)
   第2款 指定親会社(第57条の12―第57条の25)
   第3款 雑則(第57条の26・第57条の27)
  第5節 外国業者に関する特例
   第1款 外国証券業者(第58条・第58条の2)
   第2款 引受業務の一部の許可(第59条―第59条の6)
   第3款 取引所取引業務の許可(第60条―第60条の13)
   第4款 外国において投資助言業務又は投資運用業を行う者(第61条)
   第5款 情報収集のための施設の設置(第62条)
  第6節 適格機関投資家等特例業務に関する特例(第63条―第63条の4)
  第7節 外務員(第64条―第64条の9)
  第8節 雑則(第65条―第65条の6)
 第3章の2 金融商品仲介業者
  第1節 総則(第66条―第66条の6)
  第2節 業務(第66条の7―第66条の15)
  第3節 経理(第66条の16―第66条の18)
  第4節 監督(第66条の19―第66条の23)
  第5節 雑則(第66条の24―第66条の26)
 第3章の3 信用格付業者
  第1節 総則(第66条の27―第66条の31)
  第2節 業務(第66条の32―第66条の36)
  第3節 経理(第66条の37―第66条の39)
  第4節 監督(第66条の40第66条の45)
  第5節 雑則(第66条の46―第66条の49)
 第4章 金融商品取引業協会
  第1節 認可金融商品取引業協会
   第1款 設立及び業務(第67条―第67条の20)
   第2款 協会員(第68条・第68条の2)
   第3款 管理(第69条―第72条)
   第4款 監督(第73条―第76条)
   第5款 雑則(第77条―第77条の7)
  第2節 認定金融商品取引業協会
   第1款 認定及び業務(第78条―第79条)
   第2款 監督(第79条の2―第79条の6)
  第3節 認定投資者保護団体(第79条の7―第79条の19)
 第4章の2 投資者保護基金
  第1節 総則(第79条の20第79条の25)
  第2節 会員(第79条の26―第79条の28)
  第3節 設立(第79条の29―第79条の33)
  第4節 管理(第79条の34―第79条の48)
  第5節 業務(第79条の49―第79条の62)
  第6節 負担金(第79条の63―第79条の67)
  第7節 財務及び会計(第79条の68―第79条の74)
  第8節 監督(第79条の75―第79条の77)
  第9節 解散(第79条の78―第79条の80)
 第5章 金融商品取引所
  第1節 総則(第80条―第87条の9)
  第2節 金融商品会員制法人及び自主規制法人並びに取引所金融商品市場を開設する株式会社
   第1款 金融商品会員制法人
    第1目 設立(第88条―第88条の22)
    第2目 登記(第89条―第90条)
    第3目 会員(第91条―第96条)
    第4目 管理(第97条―第99条)
    第5目 解散(第100条―第100条の25)
    第6目 組織変更(第101条―第102条)
   第1款の2 自主規制法人
    第1目 設立(第102条の2―第102条の7)
    第2目 登記(第102条の8―第102条の11)
    第3目 会員(第102条の12・第102条の13)
    第4目 自主規制業務(第102条の14―第102条の20)
    第5目 管理(第102条の21―第102条の34)
    第6目 解散(第102条の35―第102条の39)
   第2款 取引所金融商品市場を開設する株式会社
    第1目 総則(第103条―第105条の3)
    第2目 自主規制委員会(第105条の4―第106条の2)
    第3目 主要株主(第106条の3―第106条の9)
    第4目 金融商品取引所持株会社(第106条の10第109条)
  第3節 取引所金融商品市場における有価証券の売買等(第110条―第133条の2)
  第4節 金融商品取引所の解散等
   第1款 解散(第134条・第135条)
   第2款 合併
    第1目 通則(第136条)
    第2目 会員金融商品取引所と会員金融商品取引所との合併(第137条・第138条)
    第3目 会員金融商品取引所と株式会社金融商品取引所との合併(第139条・第139条の2)
    第4目 会員金融商品取引所の合併の手続(第139条の3―第139条の6)
    第5目 株式会社金融商品取引所の合併の手続(第139条の7―第139条の21)
    第6目 合併の効力の発生等(第140条―第147条)
  第5節 監督(第148条―第153条の4)
  第6節 雑則(第154条・第154条の2)
 第5章の2 外国金融商品取引所
  第1節 総則(第155条―第155条の5)
  第2節 監督(第155条の6―第155条の10)
  第3節 雑則(第156条)
 第5章の3 金融商品取引清算機関等
  第1節 金融商品取引清算機関(第156条の2―第156条の20)
  第2節 外国金融商品取引清算機関(第156条の20の2―第156条の20の15)
  第3節 金融商品取引清算機関と他の金融商品取引清算機関等との連携(第156条の20の16―第156条の20の22)
  第4節 雑則(第156条の20の23―第156条の22)
 第5章の4 証券金融会社(第156条の23―第156条の37)
 第5章の5 指定紛争解決機関
  第1節 総則(第156条の38―第156条の41)
  第2節 業務(第156条の42―第156条の54)
  第3節 監督(第156条の55―第156条の61)
 第5章の6 取引情報蓄積機関等
  第1節 清算集中(第156条の62)
  第2節 取引情報の保存及び報告等(第156条の63―第156条の66)
  第3節 取引情報蓄積機関(第156条の67―第156条の84)
 第6章 有価証券の取引等に関する規制(第157条―第171条の2)
 第6章の2 課徴金
  第1節 納付命令(第172条―第177条)
  第2節 審判手続(第178条―第185条の17)
  第3節 訴訟(第185条の18)
  第4節 雑則(第185条の19―第185条の21)
 第7章 雑則(第186条―第196条の2)
 第8章 罰則(第197条―第209条)
 第9章 犯則事件の調査等(第210条―第227条)


金融法の内容(金融商品取引法を含む)
金融法は、司法試験の科目とされていない。
法務省は司法試験の選択科目とするためには、学問として確立していること(受験生から見れば学習範囲が明確であること)、大半の法科大学院で4単位以上であることを目安としている。
司法試験の選択科目の場合、合格に必要な勉強時間としては、法科大学院の授業・ゼミが最低でも合計8単位は必要であろう。
司法試験の選択科目とすべきかどうか議論があった。しかし、
① 行政法や民事法と学習範囲が重複するし、
② 対象となる法律が業種ごとに多岐にわたること、
③ 金融機関に対する公法上の規制法(銀行法など業種ごとに異なる)、
④ 投資関係に関する金融機関に対する民事の損害賠償請求事件、
⑤ 金融機関の融資に関する取締役の善管注意義務に関する損害賠償請求事件など、
⑥ 金融法といっても、教授によって講義内容が異なり、学問的に確立しているとはいえないのではないか
⑦ 金融法は司法試験合格後に、実務家となってから、必要とされる人が勉強すればよい
⑧ 金融法は法科大学院によって開講されていない場合もあるし、開講されている単位数にバラツキがある。
と指摘されて、選択科目とされていない。
金融法といっても、
・金融商品取引法
・金融機関などに対する公法上の規制法(銀行法、貸金業法、出資法など)、
・金融機関などに関係する民事法、
・投資関係に関する金融機関に対する民事の損害賠償請求事件
・金融機関の融資に関する取締役の善管注意義務に関する損害賠償請求事件など、
・民法と金融法の関連(民法債権総論、担保物権法など)
・民事手続法との関連(民事訴訟法、民事執行法、民事調停法など)
・倒産法との関連(破産法、民事再生法、会社更生法、会社法のうち特別清算、特定調停法など)
・社債
・債権譲渡等を活用した資金調達手法(ファクタリング、売掛債権担保融資、シンジケートローンなどの新しい資金調達手法)
・ABL(流動資産一体型担保)、動産譲渡担保と債権譲渡担保を活用した資金調達手法
・資産流動化取引
・債権流動化取引の意義と基本的スキームの理解
・ 不動産流動化取引の意義と基本的スキームの理解
・電子記録債権法
など、法科大学院・教授によって講義内容が異なり、学問的に確立しているとはいえないのではないかと指摘されている。

◎金融商品取引法について
旧・証券取引法については、上場企業・証券会社・株式投資家等の特別法という印象が強かった。
しかし、証券取引法が金融商品取引法と名称が改正され、金融商品取引法の適用される対象が拡大されて、おおむね金融商品一般となった。その意味では、金融商品取引法は金融商品の一般法となったといっても過言ではない。それに伴い、概念定義が抽象度を増し、条文の数も増え、準用条文や政令委任などが増えて複雑となった。
また、例えば、会社法では「募集株式の発行等」という概念とは違い、金融商品取引法では「売出し」などの独自の概念が用いられている。
金融商品取引法の条文、準用条文、政令、内閣府令は、条文の数が多いので、大変である。また、準用条文による読み替えも、
 概念の定義、制度趣旨が丁寧に押さえ、テクニカルタームをまずは覚え、制度趣旨から考えて、金融商品取引法の規制からすると、こうなるはずと考えながら読むと、理解しやすいと思われる。
名称が似ていて類似の別の概念・用語は、定義にさかのぼれば区別できるし、それぞれの要件・効果も確認しておくとよい。
判例として、金融商品取引法や旧・証券取引法に関する最高裁判決等。類似の法律として、商品取引所法に関する裁判例がある。
ただし、金融商品取引法は毎年改正されていることには、留意が必要である。
金融商品取引関係訴訟として、取引損害訴訟、差損金請求訴訟、デリバティブ取引関係訴訟、外国証券取引関係訴訟があるが、金融商品取引法の対象となる以前に別の法律で規制されていた時代の裁判例も多いので、注意が必要である。
金融商品取引法は法科大学院でも開講している学校も少なく、2~4単位が多いとされている。
ただし、金融商品取引法は上場企業にとって必須であり、今後の裁判例の展開も見込まれる。
なお、金融商品取引法は公認会計士試験の必須科目であり、金融商品取引法の一部は不動産鑑定士試験の択一式試験の科目にも含まれている。

◎金融商品取引法
 第1章 総則(第1条・第2条)
定義(2条)
1 金融商品(金融商品取引法の適用対象)
2 第1項有価証券(上場株券その他)
2 第2項有価証券
デリバティブ取引、信託受益権、集団投資スキーム持分(ファンド)、不動産証券化スキーム、不動産投資スキーム、排出権取引、外国証券等については第2項有価証券として金融商品取引法が適用される。
3 金融商品取引業
 投資信託及び投資法人に関する法律に基づく投資信託・投資法人について、金融商品取引法が適用される。
資産の流動化に関する法律に基づく特別目的会社(SPC)、民法組合、投資事業有限責任組合(LPS、投資事業有限責任組合契約に関する法律)、有限責任事業組合(LLP、有限責任事業組合契約に関する法律 )であって信託業法が適用されないもの、発行者のための代理・媒介は、金融商品取引法が適用される。
例外的に、信託業法の適用される発行者の場合には信託業法で金融商品取引法が準用される。
4 開示に関する用語
 募集、売出し、 私募
 第2章 企業内容等の開示(第2条の2―第27条)
・発行市場における開示
1 有価証券届出書
2 目論見書
3 有価証券通知書
4 発行登録制度
・流通市場における開示
1 有価証券報告書
2 内部統制報告書
3 四半期報告書
4 臨時報告書
5 自己株券買付状況報告書
6 親会社等状況報告書
・適時開示
 第2章の2 公開買付けに関する開示(TOB)
  発行者以外の者による株券等の公開買付け、発行者による上場株券等の公開買付け
第2章の3 株券等の大量保有の状況に関する開示、大量保有報告制度(5%ルール)
 第2章の4 開示用電子情報処理組織による手続の特例等
 第2章の5 特定証券情報等の提供又は公表
 第3章 金融商品取引業者等
  第1節 総則
   第2款 金融商品取引業者
   第3款 主要株主
   第4款 登録金融機関
   第5款 特定投資家
 適格機関投資家、特定投資家、一般投資家であって特定投資家へ移行可能である場合がある。それ以外は一般投資家である。
  第2節 業務
・金融商品取引業者等の行為規制
1 広告等規制(広告類似の規制含む)
2 契約締結前交付書面の交付義務
3 行為規制(禁止行為等)
  クーリング・オフが導入されたことの意義は大きい。
金融商品取引業者の行為規制(説明義務、適合性の原則、断定的判断の提供・無断売買・一任売買・損失補てん等の禁止など)について、金融商品取引法の改正により、業者の義務の内容がより厳しくなっている点に注意が必要である。
・信用取引、委託証拠金
・証券取引所の受託契約準則
・未公開有価証券の販売、無登録業者と金融商品取引法、不法行為責任
  第2款 投資助言業務に関する特則
   第3款 投資運用業に関する特則
   第4款 有価証券等管理業務に関する特則(第43条―第43条の4)
   第5款 弊害防止措置等(第44条―第44条の4)
クレジット・カード決済による累積投資の許容、親法人等・子法人等の間の取引に係る弊害防止措置
  第3節 経理
   第1款 第1種金融商品取引業を行う金融商品取引業者(第46条―第46条の6)
   第2款 第1種金融商品取引業を行わない金融商品取引業者
   第3款 登録金融機関(第48条―第48条の3)
   第4款 外国法人等に対する特例(第49条―第49条の5)
  第4節 監督(第50条―第57条)
  第4節の2 特別金融商品取引業者等に関する特則
   第1款 特別金融商品取引業者(第57条の2―第57条の11)
   第2款 指定親会社(第57条の12―第57条の25)
  第5節 外国業者に関する特例
   第1款 外国証券業者(第58条・第58条の2)
   第2款 引受業務の一部の許可(第59条―第59条の6)
   第3款 取引所取引業務の許可(第60条―第60条の13)
   第4款 外国において投資助言業務又は投資運用業を行う者(第61条)
   第5款 情報収集のための施設の設置(第62条)
  第6節 適格機関投資家等特例業務に関する特例(第63条―第63条の4)
  第7節 外務員
 第3章の2 金融商品仲介業者
  業務、経理、監督
 第3章の3 信用格付業者
  業務、経理、監督
 第4章 金融商品取引業協会
  第1節 認可金融商品取引業協会
   設立及び業務、協会員、管理、監督
  第2節 認定金融商品取引業協会、第3節 認定投資者保護団体
    認定及び業務、監督
 第4章の2 投資者保護基金
  会員、設立、管理、業務、負担金、財務及び会計、監督
 第5章 金融商品取引所
  第2節 金融商品会員制法人・自主規制法人・取引所金融商品市場を開設する株式会社
   第1款 金融商品会員制法人
    設立、登記、会員、管理
   第1款の2 自主規制法人
    設立、登記、会員、自主規制業務、管理
   第2款 取引所金融商品市場を開設する株式会社
    第2目 自主規制委員会(第105条の4―第106条の2)
    第3目 主要株主(第106条の3―第106条の9)
    第4目 金融商品取引所持株会社(第106条の10第109条)
  第3節 取引所金融商品市場における有価証券の売買等
  第4節 金融商品取引所の解散、合併
 会員金融商品取引所と会員金融商品取引所との合併、会員金融商品取引所と株式会社金融商品取引所との合併、会員金融商品取引所の合併の手続、株式会社金融商品取引所の合併の手続
  第5節 監督
 第5章の2 外国金融商品取引所
 第5章の3 金融商品取引清算機関等
  金融商品取引清算機関、外国金融商品取引清算機関、金融商品取引清算機関と他の金融商品取引清算機関等との連携
 第5章の4 証券金融会社
 第5章の5 指定紛争解決機関
  業務、監督
 第5章の6 取引情報蓄積機関等
  第1節 清算集中
  第2節 取引情報の保存及び報告等
  第3節 取引情報蓄積機関
 第6章 有価証券の取引等に関する規制(第157条―第171条の2)
インサイダー取引規制、相場操縦・仮装取引・虚偽の風説流布の禁止
 第6章の2 課徴金
  納付命令、審判手続、訴訟
 第8章 罰則
 第9章 犯則事件の調査等

◎金融法
実体法と訴訟法の双方の問題
根拠条文、関係判例およびその理由づけについては、自分で確認する必要がある。
また、当該金融取引の仕組み自体についての説明がほとんど記載されていないため、初学者がいきなり理解するのは難しいであろう。
金融商品販売関係訴訟
預貯金取引関係訴訟
信託取引関係訴訟
商品先物取引関係訴訟(損害賠償請求訴訟)
平成21年に旧・商品取引所法が商品先物取引法に改正され、業者の顧客に対する義務(説明義務、適合性の原則、断定的判断の提供や無断売買・一任売買などの禁止)が法定されている。また、金融先物取引については、金融商品取引法が適用される。なお、いずれの場合にも、金融商品の販売等に関する法律が適用される。
貸金業取引関係訴訟(貸主側の提起する訴訟、借主側の提起する訴訟)
    利息制限法、出資法が問題となる。
信販取引関係訴訟(販売業者等の提起する訴訟、購入者等の提起する訴訟)
    割賦販売法が問題となる。
特定商取引関係訴訟(販売者等の提起する訴訟、購入者等の提起する訴訟)
    特定商取引法の定めるクーリング・オフ、取消権、解除権、中途解約権

金融取引に関する特別法、銀行法などの概説
伝統的銀行取引として、受信取引法(預金等)、与信取引法(貸出し、債権の管理・保全・回収)がある。
現代型金融取引として、シンジケート・ローン、デリバティブ、資産運用、社債、LBO・MBO、証券化がある。

銀行・金融機関の法的責任
貸付、民商法の一般法理、債権回収、詐害行為取消権、否認権行使、投資取引、変額保険、付随業務、銀行等の役員の損害賠償責任


[金融法の主な法律]
銀行法
信用金庫法
労働金庫法
信用協同組合法
中小企業等協同組合法
農業協同組合法
農林中央金庫法
水産業協同組合法
協同組合による金融事業に関する法律
株式会社商工組合中央金庫法

金融商品取引法
金融商品の販売等に関する法律
投資信託及び投資法人に関する法律(投信法)
投資主、協同組織金融機関の優先出資に関する法律
資産の流動化に関する法律
不動産特定共同事業法
資金決済に関する法律
動産債権譲渡特例法
電子記録債権法
担保付社債法
社債、株式等の振替に関する法律
信託法
信託業法
金融機関の信託業務の兼営等に関する法律
商品先物取引法
出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(出資法)
割賦販売法
貸金業法
特定商品等の預託等取引契約に関する法律
商品投資に係る事業の規制に関する法律
金融業者の貸付業務のための社債の発行等に関する法律


短期売買利益返還請求事件(金融商品取引法164条1項)
最高裁判所大法廷判決平成14年2月13日
民集56巻2号331頁、『金融商品取引法判例百選』55事件
【判決要旨】
 証券取引法164条1項は、上場会社等の役員又は主要株主が同項所定の有価証券等の短期売買取引をして利益を得た場合には、当該取引においてその者が秘密を不当に利用したか否か、その取引によって一般投資家の利益が現実に損なわれたか否かを問うことなく、当該上場会社等はその利益を提供すべきことを当該役員又は主要株主に対して請求することができるものとした規定である。
ただし、例外的に、164条8項に規定する内閣府令で定める適用除外される場合に当たるとき、または、類型的にみて取引の態様自体から役員・主要株主がその職務・地位により取得した秘密を不当に利用することが認められないときを除かれる。
【参照条文】 証券取引法164条1項(現・金融商品取引法)
 金融商品取引法164条1項は、「上場会社等の役員又は主要株主がその職務又は地位により取得した秘密を不当に利用することを防止するため、その者が当該上場会社等の特定有価証券等について、自己の計算においてそれに係る買付け等をした後6月以内に売付け等をし、又は売付け等をした後6月以内に買付け等をして利益を得た場合においては、当該上場会社等は、その利益を上場会社等に提供すべきことを請求することができる。」と定めている。
この「上場会社等」とは、株式等が証券取引所に上場され、又は店頭売買有価証券である会社をいう。
「主要株主」とは、自己又は他人の名義をもって発行済株式の総数の10%以上の株式を有している株主をいい、「特定有価証券等」とは、当該上場会社等の株券、新株予約権証券、社債券等をいうものである(金融商品取引法163条1項、2条1項4号、5号の2、6号)。
内部情報の利用、取引の相手方の損害発生の有無を問わないのは、内部情報の利用(インサイダー取引)を未然に防ぐ目的にある。
そして、役員・主要株主が売買した場合には、財務局長等に報告する義務がある(金融商品取引法163条1項)。財務局長は、会社に送付し(163条4項)、公衆縦覧に供する(同条7項)。
短期売買益返還の制度の実例は、会社が、経営陣ではない主要株主に関して提訴した例があるとされる。経営陣ではない主要株主としては、敵対的企業買収側(グリーンメーラー)、元・経営陣などが考えられる。このような企業支配権を巡る対抗策として会社側が用いるのは適切ではないとする見解も一部にはある。
 また、金融商品取引法164条2項は、会社が役員・主要株主に対する提訴を怠る可能性を考慮して、株主代表訴訟事件類似の制度を設けたが、実際には、ほとんど活用されていない。短期売買益を得たかどうか及びその額に関して、会社は知り得るが、株主は通常知り得る立場にないから、または、短期売買益は会社に返還されるので株主には提訴のインセンティブに乏しいからであろう。