第4章 裁判官はなぜ怒ったのか(17) - 刑事事件・犯罪全般 - 専門家プロファイル

羽柴 駿
番町法律事務所 
東京都
弁護士

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対象:刑事事件・犯罪

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閲覧数順 2016年12月07日更新

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第4章 裁判官はなぜ怒ったのか(17)

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 それから1ヶ月ほどして、検察官の論告、求刑が行われました。
検察官はこの論告において、被害者の足跡を衝突地点から逆に辿ってみると、ダンプカーが発進した時、被害者のいた地点は、発進時の運転席から右サイドミラーで見通せ、被害者が衝突地点方向へ駆けだした時、運転席から被害者の顔や腕が肉眼で見えた。又、被告人は母親がいることには気がついていたのだから、近くに幼児がいることも予測できたはずで、従って被告人の過失は明らかであると主張しました。
 そして「被告人を罰金15万円に処するを相当と思料する」と述べたのです。

 この検察官の求刑は極めて異例なものと言えます。軽い人身事故ならともかく、被害者が死亡した事故では一般に検察官は禁固一年とか二年とかの有期の禁固刑を求刑するものであり、罰金を求刑するなどまずあり得ないのが実務の常識です。
私はこの求刑を聞いて、検察官ですらその程度の責任しか被告人には問えないと認めざるを得ないなら、無罪判決をとることも十分可能だと確信しました。
 
 その場で私は検察官に対し、論告の中で後方や側面方向への注意義務違反を主張している部分があるが、訴因は前方への注意義務なのであるから、このような論告はおかしいのではないかと尋ねました。
 これに対して検察官は、その部分は訴因として主張しているのではない、と答えました。これを聞いた裁判官はそれなら訴因とそうでない部分と区別して論告に記載するように、と検察官に要請しました。このように注意義務違反を絞ることにより被告人に有利に運ぶという私の目的は、十分に達せられたと言えます。
                      (次回へ続く)