労働者災害補償保険法の「業務災害」ではないとされた事例 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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労働者災害補償保険法の「業務災害」ではないとされた事例

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相続

労働者災害補償保険法の業務上災害ではないとされた事例


最高裁判決昭和49年10月14日、労働者災害補償費不支給決定取消請求上告事件
訟務月報21巻2号434頁

【判示事項】 潜水服用のスポンジゴムの製造会社の取締役が、得意先の取締役等とともにアクアラング遊びに出かけ、アクアラングを装着して遊泳中死亡したことが、労働者の行為は個人の私的な趣味の追求、余暇利用行為であって、業務上の事由に該当しないとされた事例

【参照条文】 労働者災害補償保険法1条

  

最高裁判決昭和49年9月2日、行政処分取消請求事件
民集28巻6号1135頁 、判例タイムズ313号255頁

【判決要旨】 大工甲が、元同僚の乙と仕事上のことから争い(口論)を起こし、建築現場付近の県道上で頭部を殴打され、それがもとで死亡した場合において、甲が、乙に対してその感情を刺激するような言辞を述べ、乙の呼びかけに応じて仕事場から県道上まで降りてきて嘲笑的態度をとり、乙の暴力を挑発したなど判示のような事情があるときは、甲の死亡は、その業務に起因したものとはいえず、労働基準法79条にいう「業務上死亡した場合」にあたらない。

【参照条文】 労働基準法79条
       労働者災害補償保険法(昭和40年法律第130号による改正前のもの)12条2項

 本件の事案は、大工が、就職の依頼にきた元同僚と争い(口論)を起こし、建築現場付近の路上で頭部を殴打され、それがもとで死亡したので、大工の妻が、労働基準監督署長に対し、労働者災害補償保険法に基づき遺族補償費等の給付を請求したところ、業務上の死亡にあたらないとして保険給付をしない旨決定を受けた。
そこで、右決定の取消しを求めたものである。
 本件災害発生当時の労働者災害補償保険法12条2項(現行の12条の8第2項)によれば、遺族補償費は労働基準法79条に定める災害補償の事由、すなわち「労働者が業務上死亡した場合」に支給されることとなる。
この「業務上死亡した場合」とは、業務遂行中に業務に起因して発生したことを要し、業務に起因するとは、業務と災害との間に相当因果関係があることをいうとするのが、従来の通説、裁判例、行政解釈のほぼ一致してとる見解である。
しかし、具体的事案において業務起因性があるか否かの判定は必ずしも容易ではなく、判例の集積が必要の集積が必要な分野である。
本件の紛争は、仕事上のことに端を発してはいるが、事態の進行につれて私闘的な色彩が濃くなっており、全体としてどのように判定すべきかかなり微妙なケースである。
本判決は、原審(広島高裁岡山支部判昭和45・3・27、労民集21巻2号406頁)の判断を相当とし、業務起因性を否定している。
従来下級審の裁判例もほとんどなく、最高裁の判例も皆無な分野であり、参考となろう。
 なお、原審判決の判例評釈として、保原喜志夫・ジュリスト502号125頁(判旨に疑問ありとする。)がある。