労働者に故意・重過失ある場合の労災保険の支給制限の決定と不服申立て - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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労働者に故意・重過失ある場合の労災保険の支給制限の決定と不服申立て

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相続

労働者に故意・重過失ある場合の労災保険の支給制限の決定と不服申立て

最高裁判決昭和35年11月1日、労働者災害補償認定及裁決取消等請求事件

民集14巻13号2789頁

【判決要旨】 保険加入者に改正前・労働者災害補償保険法第19条(現行12条の2の2)にいう故意または重大な過失があるものとして保険給付の制限を決定することは、労働基準監督署長の専権に属するものではなく、右決定につき不服の申立があるかぎり、上級の審査機関である労働者災害補償保険審査官、労働保険審査会もまた制限するかどうかおよび制限の範囲につき決定することができる。

参照条文

労働者災害補償保険法19条,改正前の35条(現行38条),

改正後の労働者災害補償保険法12条の2の2

労働者災害補償保険法施行規則1

労働者災害補償保険法

第12条の2の2  労働者が、故意に負傷、疾病、障害若しくは死亡又はその直接の原因となった事故を生じさせたときは、政府は、保険給付を行わない。

  労働者が故意の犯罪行為若しくは重大な過失により、又は正当な理由がなくて療養に関する指示に従わないことにより、負傷、疾病、障害若しくは死亡若しくはこれらの原因となった事故を生じさせ、又は負傷、疾病若しくは障害の程度を増進させ、若しくはその回復を妨げたときは、政府は、保険給付の全部又は一部を行わないことができる。

    

第38条  保険給付に関する決定に不服のある者は、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をし、その決定に不服のある者は、労働保険審査会に対して再審査請求をすることができる。

  前項の審査請求をしている者は、審査請求をした日から三箇月を経過しても審査請求についての決定がないときは、当該審査請求に係る処分について、決定を経ないで、労働保険審査会に対して再審査請求をすることができる。

  第一項の審査請求及び前二項の再審査請求は、時効の中断に関しては、これを裁判上の請求とみなす。

[判決文]

上告理由について。

 論旨は、労働者災害補償保険法19条は保険加入者に重過失がある場合の保険給付の制限を政府すなわち基準監督署長の専権に属する自由裁量事項とする趣旨であり、従って保険審査会は制限事由があると認めるかぎり、保険給付の制限をなすべきか否か及び制限の程度の点については審査することなく再審査の請求を棄却すべきものとする趣旨であるのに、原審がこれと異なる見解をとったのは失当である、というのである。

 しかし、仮に右19条の趣旨が所論のとおりであるとしても、審査会が制限の程度につき裁量権を行使し原判決判示のとおり原決定を変更したこと自体により上告人は利益を受けこそすれ、何等不利益を受けたわけではないから、所論のような違法は、取消事由の主張としては、主張自体理由がないものというべきである。

 さらに、右19条をもって、保険加入者に重過失がある場合の保険給付の制限を基準監督署長のみの専権であるとする所論も根拠のないものであることは原審の判示するとおりである。もっとも同条の解釈につき所論のような通達は(当時)存するけれども、右通達の解釈は正当とは解されない。論旨は理由がない。