Blog201401、商標法(その2) - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
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Blog201401、商標法(その2)

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Blog201401、商標法(その2)


「商品」の類似
問題の所在
商標を使用する指定商品について、両者の指定商品は、必ずしもつねにその製造元・発売元を異にするものとはいえず、これに同一または類似の商標を使用すれば同一営業主の製造または販売にかかる商品と誤認混同されるおそれのある場合には、登録を受けることができない(商標法4条1項10号、11号、15号、16号、19号)。
なお、役務についても、同様の問題がある。
また、商標法は先願主義のため、同一・類似の商品・役務について使用をする同一・類似の商標について異なった日に二以上の商標登録出願があったときは、最先の商標登録出願人のみがその商標について商標登録を受けることができる(商標法8条1項)。
そこで、「指定商品・指定役務」の類似が問題となる。
(参照条文)
(商標登録を受けることができない商標)
第4条1項  次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
十  他人の業務に係る商品・役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標・これに類似する商標であって、その商品・役務又はこれらに類似する商品・役務について使用をするもの
十一  当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標・これに類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品・指定役務(第6条第1項(第68条第1項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品・役務をいう。)又はこれらに類似する商品・役務について使用をするもの
十五  他人の業務に係る商品・役務と混同を生ずるおそれがある商標(第1号から前号までに掲げるものを除く。)
十六  商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標
十九  他人の業務に係る商品・役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一・類似の商標であって、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。)をもって使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)
3  第1項第8号、第10号、第15号、第17号又は第19号に該当する商標であっても、商標登録出願の時に当該各号に該当しないものについては、これらの規定は、適用しない。


商品の類似
最高裁昭和41・2・22
味淋、焼酎等の商品により世上一般に知られ著名化している甲商標と類似する乙商標の登録出願は、たとえその指定商品を食料品、加味品としたものであっても、その指定商品が甲商標使用の商品と同一店舗において取り扱われることが多いものと認められる以上、旧商標法(大正10年法律第99号)第2条第1項第11号にいう商品の誤認、混同を生じさせるおそれがあるものとして、許されない。
 旧商標法(大正10年法律99号)2条

最高裁昭和36・6・27、『商標・意匠・不正競争判例百選』18事件、橘正宗事件
 清酒を指定商品とする「橘正宗」(「正宗」は清酒の慣用標章である。)と、焼酎を指定商品とする「橘焼酎」に関する事案である。
 商品自体が取引上互に誤認混同を生ずる虞がないものであっても、それらの商品に同一または類似の商標を使用するとき同一営業主の製造または販売にかかる商品と誤認混同される虞がある場合には、これらの商品は、旧商標法(大正10年法律第99号)第2条第1項第9号にいう類似の商品にあたると解するのが相当である。


最高裁昭和38・10・4、『商標・意匠・不正競争判例百選』39頁、サンヨー事件
類似商標を使用する商品(自転車)が商標の指定商品(タイヤ)と用途において密接な関連を有し同一の店舗で同一の需要者に販売されるのが通常であるからといって、直ちにその商品が指定商品に類似するとはいえない。
判決文によれば以下のとおりである。
 論旨は、原判決が各種タイヤ一切と自転車及びその部分品とが類似商品であるとしたのは、商標法の解釈を誤った違法があるというのである。
 被上告人三洋電機株式会社は、各種タイヤー一切を指定商品として大正8年に登録された「サンヨー」「THE SANYOTYPE」の商標権者であり、もとより各種タイヤーについて右商標について専用権を有する。商標権の効力は、右の専用権に止まらず、他人が類似商品について類似商標を使用することの禁止を求める権利をも包含することはいうまでもないことであって、本件の争点は、上告人山陽自転車株式会社が、右の商標及びこれに類似する商標を自転車及びその部分品について使用することの禁止を求めることができるかどうかである。
 原判決は、この点について、各種タイヤーと自転車及びその部分品は類似商品であるとして被上告人の請求を容認したのであるが、その理由とするところは、自転車用タイヤと自転車及びその部分品とは、その用途において密接な関連を有し、同一の店舗で同一の需要者に販売されるのが通常であるからというのである。
商標権の効力として、商標権者が、指定商品のみならず、類似商品についても、類似商標の使用禁止を求めることができるのは、商品の出所について誤認混同を生ずる虞があるためであることは原判示のとおりである。
しかし、商品の出所について誤認混同を生ずる虞の有無、すなわち、商品の類似するかどうかは、場合場合に応じて判断せられるべき問題であって、類似商品に対する禁止権をあまりに広く認めることは、商標権者を保護するのあまり、他の者の営業に関する自由な活動を不当に制限する虞がないとはいえない。
本件のように、タイヤーを指定商品とする商標と類似する商標を完成品たる自転車に使用したからといって、直ちに、自転車とタイヤ―とその出所について誤認混同を生ずる虞があるとは考えられない。
要するに、二つの商品が用途において密接な関係があり、同一店舗において同一需要者に販売されるということだけで、両者を類似商品として被上告人の請求を全面的に容認した原判示は首肯することができない。
また、自転車の部分品中タイヤーについては、被上告人の商標と類似する商標を上告人が使用することができないのはいうまでもないが、自転車の部品中には、他にもタイヤ―と類似商品とすべきものもあるであろうし、そうでないものもあるであろう。
さらに、自転車そのものをタイヤーの類似商品とするについては、詳細な説明を必要とするのであって、この点に関する原判示は、理由として十分でないものがあるといわざるを得ない。
論旨は理由があることに帰し、原判決は破棄を免れない。
(注)私見として、以下のとおり考える。この事案は、各会社の略称が「サンヨー」または「サンヨウ」である。商標法3条1項4号・2項は、自己の名称で、他の商標と区別できる場合には、商標登録を受けることができると規定している。このような、ありふれた名称を特定人のみに独占させるのは適当ではないであろう(これに対して「SONY」にような造語の商標とは異なると解される。)。したがって、商標登録が認められたと思われる。
また、商標法26条1項1号は、第三者自身の「自己の名称」には登録商標の効力が及ばないと規定している。
(商標登録の要件)
第3条1項  自己の業務に係る商品・役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
三  その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格・生産・使用の方法・時期又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格・提供の方法・時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
四  ありふれた氏・名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
五  極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標
2  前項第3号から第5号までに該当する商標であっても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品・役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。


最高裁昭和39・6・16、『商標・意匠・不正競争判例百選』39頁、Peacock事件
登録出願にかかる商標の指定商品(墨汁以外の文房具)が旧商標法施行規則(大正10年農商務省令第36号)所定の類別のうち引用商標の指定商品(墨汁)を特に除外したものであり、また両商品は互いに品質、形状、用途を異にするものであっても、両商品は文房具店でともに販売されることが通例であるから、それに同一または類似の商標を使用すれば、同一営業主の製造または販売にかかる商品と誤認混同されるおそれがある場合には、これらの商品は、旧商標法(大正10年法律第99号)第2条第1項第9号にいう類似の商品にあたると解するのが相当である。
(参照条文)
 旧商標法(大正10年法律99号)1条2項,旧商標法2条1項9号


商品の類似
最高裁昭和43・11・15、『商標・意匠・不正競争判例百選』39頁、三国一事件
 登録出願にかかる商標の指定商品(餅以外の菓子及び麺麹類)が、旧商標法施行規則(大正10年農商務省令第36号)所定の類別のうち、引用商標の指定商品(餅)をとくに除外したものであり、また、前者の指定商品が後者の指定商品とは品質・形状・用途等を異にする商品を含むものであるとしても、両者の指定商品は、必ずしもつねにその製造元・発売元を異にするものとはいえず、これに同一または類似の商標を使用すれば同一営業主の製造または販売にかかる商品と誤認混同されるおそれのある場合には、右両者の指定商品は、旧商標法(大正10年法律第99号)第2条第1項第10号にいう「類似ノ商品」にあたる。


商標法26条1項1号の「自己の名称」
 最判平成9・3・11、『商標・意匠・不正競争判例百選』17事件、37事件、小僧寿し事件
 一 フランチャイズ契約により結合し全体として組織化された企業グループ(フランチャイズチェーン)の名称は、登録商標の効力のおよばない旨を定めた商標法26条1項1号にいう「自己の名称」に当たる。
二 「小僧寿し」が著名なフランチャイズチェーンの略称として需要者の間で広く認識されている場合において、右フランチャイズチェーンにより使用されている「小僧寿し」、「KOZO ZUSHI」等の文字標章は、標章全体としてのみ称呼、観念を生じ、「小僧」又は「KOZO」の部分から出所の識別表示としての称呼、観念を生じないものであって、「小僧」なる登録商標と類似しない。
三 著名なフランチャイズチェーンによりその名称又は略称である「小僧寿しチェーン」又は「小僧寿し」と共に継続して使用されている「(図形標章は判決文末尾添付)」等の図形標章は、「コゾウズシ」又は「コゾウスシ」の称呼を生ずる余地があるとしても、「小僧」なる登録商標との間で商品の出所混同を生ずるおそれがなく、右登録商標と類似しない。
四 商標権者からの旧商標法38条2項(注、現行商標法38条3項)に基づく損害賠償請求に対して、侵害者は、損害の発生があり得ないことを抗弁として主張立証して、損害賠償責任を免れることができる。
(参照条文)
商標法26条1項1号,商標法(平成3年改正前)37条,商標法38条2項
(商標権の効力が及ばない範囲)
商標法第26条1項  商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となっているものを含む。)には、及ばない。
一  自己の肖像・自己の氏名・名称・著名な雅号、芸名・筆名・これらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標
2  前項第1号の規定は、商標権の設定の登録があった後、不正競争の目的で、自己の肖像又は自己の氏名・名称・著名な雅号、芸名・筆名・これらの著名な略称を用いた場合は、適用しない。
(損害の額の推定等)
商標法第38条  商標権者・専用使用権者が故意・過失により自己の商標権・専用使用権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した商品を譲渡したときは、その譲渡した商品の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、商標権者・専用使用権者がその侵害の行為がなければ販売することができた商品の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、商標権者・専用使用権者の使用の能力に応じた額を超えない限度において、商標権者・専用使用権者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を商標権者・専用使用権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。
2  商標権者・専用使用権者が故意・過失により自己の商標権・専用使用権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、侵害者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、商標権者・専用使用権者が受けた損害の額と推定する。
3  商標権者・専用使用権者は、故意・過失により自己の商標権・専用使用権を侵害した者に対し、その登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。
4  前項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、商標権・専用使用権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかったときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。


商標権の権利濫用の抗弁
 最判平成2・7・20、『商標・意匠・不正競争判例百選』33事件、ポパイ・マフラー事件
 漫画の主人公の観念、称呼を生じさせる登録商標の商標登録出願当時、既にその主人公の名称が漫画から想起される人物像と不可分一体のものとして世人に親しまれていた場合において、右主人公の名称の文字のみから成る標章が右漫画の著作権者の許諾に基づいて商品に付されているなど判示の事情の下においては、右登録商標の商標権者(注)が右標章につき登録商標の商標権の侵害を主張することは、権利の濫用として許されない。
(注)漫画ポパイの著作権者ではない第三者が無断で我が国で商標登録した事案である。
(参照条文)
 商標法25条,商標法37条,民法1条3項


手続の補正ができない時期においてなされた指定商品の一部放棄の効力
最高裁昭和59・10・23、『商標・意匠・不正競争判例百選』App4事件、theUnion事件
二以上の商品を指定商品とする商標登録の出願者が、手続の補正をすることができない時期に至って、出願時に遡って一部の商品を除外し残余の商品を指定商品とする商標登録出願にするためにいわゆる指定商品の一部放棄をしても、その効力を生じない。
判決文によれば以下のとおりである。
上告人の主張する指定商品の一部放棄は、指定商品の一部を除外して残余の商品に指定商品を減縮し、その効果を商標登録出願の時点に遡及させ、減縮した商品を指定商品とする商標登録出願にすることを目的とするものであるところ、右目的を達成する手続としては、商標法は同法77条2項(昭和45年改正前)によって準用される特許法17条1項(右改正前)所定の手続の補正の制度を設けているにとどまるから、商標登録出願人が右目的を達成するためには手続の補正をする必要があるものといわなければならない。
しかし、手続の補正には、これによって商標登録出願人が受ける利益、第三者が受ける不利益及び手続の円滑な進行などが比較考量されて、事件が審査、審判又は再審に係属している場合に限りすることができる旨の時期的制限が設けられているから(右商標法77条2項によって準用される特許法17条1項本文)、審決がされて事件が審判の係属を離れ手続の補正をすることができない時期に至って指定商品の一部放棄をしても、商標登録出願人はもはや前記目的を達成することはできないものというべきである。
 所論は、上告人のした本件指定商品の一部放棄に遡及効がないとした原判決には商標法8条3項の解釈適用を誤った違法がある旨主張する。
ところで、商標法8条1項及び2項は、先後願又は同日出願の関係にある二以上の商標登録出願があったときは、最先の商標登録出願人又は商標登録出願人の協議によって定めた一の商標登録出願人のみがその商標について商標登録を受けることができる旨定めている。
そして、商標法8条3項は、右各規定の適用については、商標登録出願の放棄等によってその出願は初めからなかったものとみなす旨定めるところ、その趣旨は、放棄等がされた商標登録出願について、そのほかの競合している商標登録出願との関係において先願又は同日出願としての地位を失わせるためには、放棄等によってその出願を初めからなかったものとみなす必要があることによるものと解される。これに対し、同法4条1項11号は、商標登録出願に係る商標が、その出願の日前の出願に係る他人の登録商標に類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品に類似する商品について使用をするものは、商標登録を受けることができない旨規定するところ、右規定の適用の有無が問題となる場合においては、当該商標登録出願は、右登録商標との関係では、必然的に後願であって先願又は同日出願の地位にはないのであるから、右商標登録出願について、先願又は同日出願としての地位を失わせるために設けられた同法8条3項の規定を適用ないし類推適用する余地はないものといわなければならない。
したがって、同法4条1項11号の規定によって商標登録を受けることができないものとされた商標登録出願についてする指定商品の一部放棄が、同法8条3項所定の商標登録出願の放棄にあたるものと解することはできない。
(参照条文)
 商標法4条1項11号,商標法8条,商標法(昭和45年改正前)77条2項,特許法(昭和45年改正前)17条1項


商標登録出願拒絶審決取消訴訟係属中の出願分割と原出願の補正は遡及しない
 最判平成17・7・14、eAccess事件、『商標・意匠・不正競争判例百選』21事件
商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に,分割出願がされ,もとの商標登録出願について指定商品等を削除する補正がされたときには,その補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることはない。
判決文によれば以下のとおりである。
①  商標法10条1項は,「商標登録出願人は,商標登録出願が審査,審判若しくは再審に係属している場合又は商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に限り,2以上の商品又は役務を指定商品又は指定役務とする商標登録出願の一部を1又は2以上の新たな商標登録出願とすることができる。」と規定し,同条2項は,「前項の場合は,新たな商標登録出願は,もとの商標登録出願の時にしたものとみなす。」と規定している。また,商標法施行規則22条4項は,特許法施行規則30条の規定を商標登録出願に準用し,商標法10条1項の規定により新たな商標登録出願をしようとする場合において,もとの商標登録出願の願書を補正する必要があるときは,その補正は,新たな商標登録出願と同時にしなければならない旨を規定している。
②  以上のとおり,商標法10条は,「商標登録出願の分割」について,新たな商標登録出願をすることができることやその商標登録出願がもとの商標登録出願の時にしたものとみなされることを規定しているが,新たな商標登録出願がされた後におけるもとの商標登録出願については何ら規定していないこと,商標法施行規則22条4項は,商標法10条1項の規定により新たな商標登録出願をしようとする場合においては,新たな商標登録出願と同時に,もとの商標登録出願の願書を補正しなければならない旨を規定していることからすると,もとの商標登録出願については,その願書を補正することによって,新たな商標登録出願がされた指定商品等が削除される効果が生ずると解するのが相当である。
③  商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決(以下「拒絶審決」という。)に対する訴えが裁判所に係属している場合に,商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願がされ,もとの商標登録出願について補正がされたときには,その補正は,商標法68条の40第1項が規定する補正ではないから,同項によってその効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることはなく,商標法には,そのほかに補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずる旨の規定はない。
④ そして,拒絶審決に対する訴えが裁判所に係属している場合にも,補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずるとすると,商標法68条の40第1項が,事件が審査,登録異議の申立てについての審理,審判又は再審に係属している場合以外には補正を認めず,補正ができる時期を制限している趣旨に反することになる(最高裁昭和59年10月23日判決・民集38巻10号1145頁参照)。
⑤  拒絶審決を受けた商標登録出願人は,審決において拒絶理由があるとされた指定商品等以外の指定商品等について,商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願をすれば,その商標登録出願は,もとの商標登録出願の時にしたものとみなされることになり,出願した指定商品等の一部について拒絶理由があるために全体が拒絶されるという不利益を免れることができる。
⑥ したがって,拒絶審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に,商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願がされ,もとの商標登録出願について願書から指定商品等を削除する補正がされたときに,その補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることを認めなくとも,商標登録出願人の利益が害されることはなく,商標法10条の規定の趣旨に反することはない。
 以上によれば,拒絶審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に,商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願がされ,もとの商標登録出願について願書から指定商品等を削除する補正がされたときには,その補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることはなく,審決が結果的に指定商品等に関する判断を誤ったことにはならないものというべきである。
(参照条文)
商標法10条1項,商標法10条2項,商標法68条の40第1項,商標法施行規則22条4項,特許法施行規則30条
(商標登録出願の分割)
第10条  商標登録出願人は、商標登録出願が審査、審判若しくは再審に係属している場合又は商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に限り、二以上の商品・役務を指定商品又は指定役務とする商標登録出願の一部を一又は二以上の新たな商標登録出願とすることができる。
2  前項の場合は、新たな商標登録出願は、もとの商標登録出願の時にしたものとみなす。ただし、第9条第2項並びに第13条第1項において準用する特許法 第43条第1項 及び第2項(パリ条約による優先権主張の手続)(第13条第1項において準用する同法第43条の2第3項 において準用する場合を含む。)の規定の適用については、この限りでない。
3  第1項に規定する新たな商標登録出願をする場合には、もとの商標登録出願について提出された書面又は書類であって、新たな商標登録出願について第9条第2項又は第13条第1項において準用する特許法第43条第1項 及び第2項 (第13条第1項において準用する同法第43条の2第3項 において準用する場合を含む。)の規定により提出しなければならないものは、当該新たな商標登録出願と同時に特許庁長官に提出されたものとみなす。
(手続の補正)
商標法第68条の40  商標登録出願、防護標章登録出願、請求その他商標登録又は防護標章登録に関する手続をした者は、事件が審査、登録異議の申立てについての審理、審判又は再審に係属している場合に限り、その補正をすることができる。
2  商標登録出願をした者は、前項の規定にかかわらず、第40条第1項又は第41条の2第1項の規定による登録料の納付と同時に、商標登録出願に係る区分の数を減ずる補正をすることができる。
特許法施行規則
(特許出願の分割をする場合の補正)
第30条  特許法第44条第1項第1号 の規定により新たな特許出願をしようとする場合において、もとの特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面を補正する必要があるときは、もとの特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の補正は、新たな特許出願と同時にしなければならない。


最高裁昭和56.6・19
 一 商標登録出願につき登録査定がされたのちにおいては、右出願に関する商標登録異議手続受継申立不受理処分の取消を求める訴えの利益はない。
二 商標登録異議申立人である会社が合併によって消滅したときは、右異議申立は失効し、異議申立人としての地位は合併後存続する会社に承継されない。
(参照条文)
 商標法17条,商標法77条2項,特許法24条,特許法55条,旧民訴法209条1項,行政事件訴訟法9条,旧商法103条,旧商法416条1項


商標権者が登録商標に類似する標章を使用する行為
最高裁昭和56・10・13、『商標・意匠・不正競争判例百選』108事件、マクドナルド事件
商標権者が登録商標に類似する標章を使用する行為は、旧不正競争防止法6条にいう「商標法ニ依リ権利ノ行使ト認メラルル行為」に該当しない。
判決文によれば以下のとおりである。
商標権は、指定商品について当該登録商標を独占的に使用することができることをその内容とするものであり、指定商品について当該登録商標に類似する標章を排他的に使用する権能までを含むものではなく、ただ、商標権者には右のような類似する標章を使用する者に対し商標権を侵害するものとしてその使用の禁止を求めること等が認められるにすぎないから(商標法25条、36条、37条参照)、本件登録商標と類似する本件標章を上告人らが使用することは旧不正競争防止法6条にいう「商標法ニ依リ権利ノ行使ト認メラルル行為」には該当しないものと解すべきである。
(注)商標権の専用権は登録商標と指定商品・役務について同一商標を使用する場合である(商標法25条)。
商標権者が第三者の登録商標と指定商品・役務について、同一・類似の商標を用いることは禁止でき(商標法37条)、差止請求できる(商標法36条)が、積極的に商標権者が使用できるものではない。
仮に商標権者が登録商標と類似商標を使用した場合には、不正使用取消審判の対象となり得る(商標法51条)。
(参照条文)
旧不正競争防止法1条1項1号,旧不正競争防止法6条,
商標法25条,商標法36条,商標法37条
(商標権の効力)
第25条  商標権者は、指定商品・指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。ただし、その商標権について専用使用権を設定したときは、専用使用権者がその登録商標の使用をする権利を専有する範囲については、この限りでない。
(差止請求権)
第36条  商標権者・専用使用権者は、自己の商標権・専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2  商標権者・専用使用権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。
(侵害とみなす行為)
第37条  次に掲げる行為は、当該商標権・専用使用権を侵害するものとみなす。
一  指定商品・指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品・指定役務に類似する商品・役務についての登録商標・これに類似する商標の使用
二  指定商品又は指定商品・指定役務に類似する商品であって、その商品・その商品の包装に登録商標・これに類似する商標を付したものを譲渡・引渡し・輸出のために所持する行為
三  指定役務又は指定役務・指定商品に類似する役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録商標・これに類似する商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供するために所持し、又は輸入する行為
四  指定役務又は指定役務・指定商品に類似する役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録商標・これに類似する商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供させるために譲渡し、引き渡し、又は譲渡・引渡しのために所持し、輸入する行為
五  指定商品・指定役務又はこれらに類似する商品・役務について登録商標・これに類似する商標の使用をするために登録商標・これに類似する商標を表示する物を所持する行為
六  指定商品・指定役務又はこれらに類似する商品・役務について登録商標・これに類似する商標の使用をさせるために登録商標・これに類似する商標を表示する物を譲渡し、引き渡し、又は譲渡・引渡しのために所持する行為
七  指定商品・指定役務又はこれらに類似する商品・役務について登録商標・これに類似する商標の使用をし、又は使用をさせるために登録商標・これに類似する商標を表示する物を製造し、輸入する行為
八  登録商標・これに類似する商標を表示する物を製造するためにのみ用いる物を業として製造し、譲渡し、引き渡し、輸入する行為


真正商品の詰め替え・再包装
最高裁昭和46・7・20、『商標・意匠・不正競争判例百選』29事件、ハイ・ミー事件
一 正当な権限がないのに指定商品の包装に登録商標を付したものを販売する目的で処理する場合、その中身が商標権者自身の製品でしかも新品であることは、商標法37条(侵害とみなされる行為)2号、78条の罪の成立になんら影響を及ぼさない。
(注)商標権者以外の第三者による詰め替えによって、商標の品質保証機能が害される。また、指定商品の包装に商標権を用いるのは商標権者だけであり、商標権者以外が無断でできることではないからである。
二 特段の美観要素がなく、もっぱら運搬用商品保護用であるとしても、商品を収容している容器としての段ボール箱は、商標法37条2号にいう「商品の包装」にあたる。
三 商標法37条2号の行為は、必ずしも業としてなされることを必要としない。
(参照条文) 
商標法37条2号,商標法78条
(侵害とみなす行為)
第37条  次に掲げる行為は、当該商標権・専用使用権を侵害するものとみなす。
二  指定商品又は指定商品・指定役務に類似する商品であって、その商品・その商品の包装に登録商標・これに類似する商標を付したものを譲渡・引渡し・輸出のために所持する行為


商標権に関する並行輸入
 最判平成15・2・27、『商標・意匠・不正競争判例百選』35事件、フレッドペリー事件
 商標権者以外の者が,我が国における商標権の指定商品と同一の商品につき,その登録商標と同一の商標を付されたものを輸入する行為は,
(1) 当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり,
(2) 当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより,当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって,
(3) 我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから,当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される場合
には,いわゆる真正商品の並行輸入として,商標権侵害としての実質的違法性を欠く。
なぜなら、商標法は,「商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,もって産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」ものであるところ(同法1条),上記各要件を満たすいわゆる真正商品の並行輸入は,商標の機能である出所表示機能及び品質保証機能を害することがなく,商標の使用をする者の業務上の信用及び需要者の利益を損なわず,実質的に違法性がないということができるからである。
2 外国における商標権者から商標の使用許諾を受けた者により我が国における登録商標と同一の商標を付された商品を輸入することは,被許諾者が,製造等を許諾する国を制限し商標権者の同意のない下請製造を制限する旨の使用許諾契約に定められた条項に違反して,商標権者の同意なく,許諾されていない国にある工場に下請製造させ商標を付したなど判示の事情の下においては,いわゆる真正商品の並行輸入として商標権侵害としての違法性を欠く場合に当たらない。
(参照条文)
 商標法1条,商標法25条,商標法第4章第2節 権利侵害
(商標登録の要件)
第3条  自己の業務に係る商品・役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
一  その商品・役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
二  その商品・役務について慣用されている商標
三  その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格・生産・使用の方法・時期又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格・提供の方法・時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
四  ありふれた氏・名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
五  極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標
六  前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品・役務であることを認識することができない商標
2  前項第3号から第5号までに該当する商標であっても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品・役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。


(商標登録を受けることができない商標)
第4条  次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
一  国旗、菊花紋章、勲章、褒章又は外国の国旗と同一・類似の商標
二  パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国の国の紋章その他の記章(パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国の国旗を除く。)であって、経済産業大臣が指定するものと同一・類似の商標
三  国際連合その他の国際機関を表示する標章であって経済産業大臣が指定するものと同一・類似の商標
四  赤十字の標章及び名称等の使用の制限に関する法律 第1条 の標章若しくは名称又は武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律 第158条第1項 の特殊標章と同一・類似の商標
五  日本国又はパリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締約国の政府又は地方公共団体の監督用又は証明用の印章又は記号のうち経済産業大臣が指定するものと同一・類似の標章を有する商標であって、その印章又は記号が用いられている商品・役務と同一・類似の商品・役務について使用をするもの
六  国・地方公共団体・これらの機関、公益に関する団体であって営利を目的としないもの又は公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なものと同一・類似の商標
七  公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標
八  他人の肖像又は他人の氏名・名称・著名な雅号、芸名・筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)
九  政府・地方公共団体(以下「政府等」という。)が開設する博覧会・政府等以外の者が開設する博覧会であって特許庁長官の定める基準に適合するもの又は外国でその政府等若しくはその許可を受けた者が開設する国際的な博覧会の賞と同一・類似の標章を有する商標(その賞を受けた者が商標の一部としてその標章の使用をするものを除く。)
十  他人の業務に係る商品・役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標・これに類似する商標であって、その商品・役務又はこれらに類似する商品・役務について使用をするもの
十一  当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標・これに類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品・指定役務(第6条第1項(第68条第1項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品・役務をいう。)又はこれらに類似する商品・役務について使用をするもの
十二  他人の登録防護標章(防護標章登録を受けている標章をいう。)と同一の商標であって、その防護標章登録に係る指定商品・指定役務について使用をするもの
十三  削除
十四  種苗法 第18条第1項 の規定による品種登録を受けた品種の名称と同一・類似の商標であって、その品種の種苗又はこれに類似する商品・役務について使用をするもの
十五  他人の業務に係る商品・役務と混同を生ずるおそれがある商標(第1号から前号までに掲げるものを除く。)
十六  商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標
十七  日本国のぶどう酒・蒸留酒の産地のうち特許庁長官が指定するものを表示する標章又は世界貿易機関の加盟国のぶどう酒・蒸留酒の産地を表示する標章のうち当該加盟国において当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒・蒸留酒について使用をすることが禁止されているものを有する商標であって、当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒・蒸留酒について使用をするもの
十八  商品・商品の包装の形状であって、その商品・商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標
十九  他人の業務に係る商品・役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一・類似の商標であって、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。)をもって使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)
2  国・地方公共団体・これらの機関、公益に関する団体であって営利を目的としないもの又は公益に関する事業であって営利を目的としないものを行っている者が前項第6号の商標について商標登録出願をするときは、同号の規定は、適用しない。
3  第1項第8号、第10号、第15号、第17号又は第19号に該当する商標であっても、商標登録出願の時に当該各号に該当しないものについては、これらの規定は、適用しない。