北京市高級人民法院特許権侵害判定指南の解説(第3回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
河野特許事務所 弁理士
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対象:特許・商標・著作権

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北京市高級人民法院特許権侵害判定指南の解説(第3回)

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北京市高級人民法院特許権侵害判定指南の解説(第3回)

 

2013年12月24日

執筆者 河野特許事務所

弁理士 河野英仁

 

6.外観設計特許の類否判断

(1)物品の同一・類似判断

 外観設計(以下、意匠という)が類似するか否かの判断は、最初に物品が類似するか否かの判断を行う(指南第73条)。物品の類否は、意匠物品の用途(使用目的、使用状態)に基づき判断する。具体的には、意匠の簡単な説明、国際意匠分類、物品の機能及び物品の販売、実際の使用状況等を考慮する(指南第74条)。

 

73.意匠の権利侵害の判定に当たっては、まず権利侵害で訴えられた物品が意匠物品と同一又は類似する種類の物品に属するか否かを審査しなければならない。

74.意匠物品の用途(使用目的、使用状態)に基づき、物品の種類が同一又は類似するか否かを認定するものとする。 物品の用途を確定する際は、以下の順序に従い、関連要素を参考にして総合的に確定することができる:意匠の簡単な説明、国際意匠分類、物品の機能及び物品の販売、実際の使用状況などの要素。 意匠物品と権利侵害で訴えられた意匠物品の用途(使用目的、使用状態)に共通性がない場合、意匠物品は権利侵害で訴えられた物品と同一又は類似する種類の物品には属さない。

 

(2) 類否の判断原則

 意匠の類否判断は、「一般消費者が誤認混同を生じるか否か」を基準としない旨明確化している(指南第75条)。

 

75.意匠特許権を侵害しているか否かの判定に当たっては、同一か否か、又は類似するか否かを基準としなければならず、一般消費者による混同誤認を構成するか否かを基準としない。

 

(3) 類否の判断主体

 意匠の類否判断の主体は一般消費者であり、当業者、創作者を基準とすべきでは無い旨規定されている(指南第76条~78条)。ここで、一般消費者の認知能力とは、通常、意匠物品の間における形状、図案及び色彩上の区別について一定の識別力を有することをいい、物品の形状、図案及び色彩のごくわずかな変化に注意を払う可能性はないとされている(指南第77条)。

 

 また、一般消費者の知識水準と認知能力については、具体的な意匠物品に焦点を合わせるとともに、出願日前の該意匠物品の意匠の発展過程を考慮しなければならない旨規定されている(指南第77条)。

 

 このように侵害の判断に当たっては、当業者及び創作者の観点ではなく、一般消費者を基準とするため、一般的に類似範囲は広く解釈されると考えられる。

 

76.意匠特許物品に対する一般消費者の知識水準と認知能力によって、意匠が同一か否か、又は類似するか否かを判断しなければならず、該意匠特許に対する当業者の観察能力を基準とすべきではない。

77.一般消費者は一種の仮定の「人」であり、それについては、知識水準と認知能力の二つの面から境界を定めなければならない。

 一般消費者の知識水準とは、その者が通常、意匠特許出願日の前に、同一又は類似する種類の物品の意匠及びその常用のデザイン手法に対して常識的な理解を有することを指す。

 一般消費者の認知能力とは、その者が通常、意匠物品の間における形状、図案及び色彩上の区別について一定の識別力を有することを指すが、物品の形状、図案及び色彩のごくわずかな変化に注意を払う可能性はない。 意匠物品に対する一般消費者の知識水準と認知能力について具体的に境界を引く際には、具体的な意匠物品に焦点を合わせるとともに、出願日前の該意匠物品の意匠の発展過程を考慮しなければならない。

78.意匠が同一であるか否か、若しくは類似するか否かを判断する際に、意匠の創作者の主観的な見方を基準とすべきではなく、一般消費者の視覚効果を基準とする。

 

(4)類否判断

 意匠の類否判断に当たっては、全体観察、総合判断の原則が採用される。具体的には、意匠の可視部分のすべての意匠の特徴に対して観察を行い、物品の意匠の全体的な視覚効果に影響を及ぼし得るすべての要素を総合的に考慮して判断を行う(指南79条)。

 

 侵害の判定に当たっては原則として視覚を通じて判断するため、拡大鏡、顕微鏡等は用いることができないが、特許出願時の図面または写真に拡大されたものが存在する場合、権利侵害に係る比較の際も権利侵害で訴えられた物品を相応に拡大し、比較を行う(指南72条)。

 

 また、機能または技術的効果により定まる意匠については、類否判断において考慮されない[1]

 

79.意匠が同一若しくは類似を構成するか否かを判断する際には、全体的な観察、総合的な判断を原則とする。すなわち、授権意匠、権利侵害で訴えられた意匠の可視部分のすべての意匠の特徴に対して観察を行い、物品の意匠の全体的な視覚効果に影響を及ぼし得るすべての要素を総合的に考慮した後に判断を下さなければならない。

 以下の状況では通常、意匠の全体的な視覚効果に対して、よりいっそうの影響が生じる。

 (1)物品の正常な使用時において、その他の部位に比べて、容易に直接観察される部位。

 (2)外観デザインのその他の意匠の特徴に比べて、外観デザインが公知意匠の特徴と異なる場合。

72.意匠の権利侵害の判定に当たっては、一般消費者の視覚を通じて、直接観察による比較を行わなければならず、拡大鏡、顕微鏡などのその他のツールによる比較を行うべきではない。但し、図面又は写真に示された物品意匠について、特許出願時に拡大されたものである場合は、権利侵害に係る比較の際も権利侵害で訴えられた物品を相応に拡大し、比較を行うものとする。

81.同一である若しくは類似すると判断する際には、物品の機能、技術的効果によって決まる意匠の特徴は考慮しない。 物品の機能、技術的効果によって決まる意匠の特徴とは、物品の機能、技術的効果を実現する上での有限の、又は唯一の意匠を指す。

 

 


[1]最高人民法院2012年6月29日判決 (2012)行提字第14号では機能的部分についての意匠は評価されず類否判断が行われた。



→第4回へ続く


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