中国特許判例紹介(38):引用式並列独立請求項の技術的範囲解釈(第2回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国特許判例紹介(38):引用式並列独立請求項の技術的範囲解釈(第2回)

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引用式並列独立請求項の技術的範囲解釈

~最高人民法院による並列独立請求項の解釈~

中国特許判例紹介(38)(第2回)

2015年1月23日

執筆者 河野特許事務所

弁理士 河野 英仁

ハルピン工業大学星河実業有限公司

                   再審申請人(一審原告、二審被上訴人)

v.

江蘇潤徳管業有限公司

                           再審被申請人(一審被告、二審上訴人)

 

4.最高人民法院の判断

争点:引用独立請求項が並列独立請求項の技術方案に対し、実質的な影響を及ぼす場合、引用独立請求項の記載内容をも考慮して、並列独立請求項の権利範囲を解釈する

 

(1) 請求項の主題名称が、特許権保護範囲に対し、限定作用を有するか否か。

 請求項2の主題名称は「請求項1に記載のスチール帯増強プラスチック排水パイプラインの製造方法」であり、請求項6の主題名称は「請求項2に記載の方法を実施するスチール帯増強プラスチック排水管を製造する装置」である。

 

 最高人民法院は、「請求項の主題名称が、特許権保護範囲に対し、限定作用を有するか否か」の争点を分析するに当たり、関連する専利法及び実施細則の規定を列挙した。

 

専利法第59条

 発明又は実用新型特許権の技術的範囲は、その請求項の内容を基準とし、明細書及び図面は請求項の内容の解釈に用いることができる。

 

実施条例第21条

発明又は実用新案の独立請求項は前言の部分と特徴の部分が含み、以下の規定に基づいて記載しなければならない。

(1)前言の部分:保護を求める発明又は実用新案の技術の主題の名称及び発明又は実用新案の主題と最も近い先行技術が共有する必要な技術的特徴を明記すること。

(2)特徴の部分:「その特徴は・・・」又はこれに類似する用語を使用し、発明又は実用新案と最も近い先行技術と異なる技術的特徴を明記すること。これらの特徴と前言部分に明記した特徴を併せて、発明又は実用新案の保護を求める範囲を限定すること。

 

 最高人民法院は以上の規定に基づき、通常の状況下では、請求項の保護範囲を確定する場合、請求項に記載した主題名称は考慮すべきであり、実際の限定作用は、該主題名称が請求項が保護を必要とする主題そのものに対してどのような影響をもたらすかにより決定すべきであると判示した。

 

 そして本案において、請求項2及び6の保護範囲を確定する際、共にその主題名称が、保護を求める主題そのものに対し、実際上もたらす限定作用を考慮すべきであるとした。

 

(2) 並列独立請求項が、前の独立請求項を引用する場合に、前の独立請求項におけるその保護範囲の限定作用に対し、どのように確定すべきか。

  本事件では並列独立請求項2は独立請求項1に従属しており、並列独立請求項6は独立請求項2に従属している。このような場合に従属元の独立請求項の限定作用をどのように解釈するかが問題となる。

 

 最高人民法院は、当該争点を分析するに当たり、関連する専利法、実施細則及び審査指南の規定を列挙した。

 

専利法第31条第1項

 一件の発明又は実用新型の特許出願は、一つの発明又は実用新型に限らなければならない。一つの全体的発明構想に属する二つ以上の発明又は実用新型は、一件の出願とすることができる。

 

実施条例第20条

 特許請求の範囲には独立請求項がなければならないが、従属請求項を記載してもよい。

 独立請求項は、発明又は実用新案の技術を全体から表現し、技術的課題を解決するために必要な技術的特徴を記載しなければならない。

 従属請求項は付加的な技術的特徴を用い、引用する請求項を更に特定するものでなければならない。

 

実施細則第34条第1項

 専利法第31 条第1 項の規定に基づいて、一件の特許として出願できる、一つの全体的発明構想に属する2つ以上の発明又は実用新案は、技術的に相互に関連し、一つ又は複数の同一の又は対応する特別な技術的特徴を含んでいなければならない。ここにいう「特定の技術的特徴」とは、各発明又は実用新案を全体として、先行技術に対して貢献した技術的特徴をいう。

 

審査指南第二部分第六章2.2.1(2)(単一性)では、独立請求項の記載方式として以下の6つを認めている。

(ⅰ)1つの請求項の中に含めることができない2つ以上の製品又は方法の同一カテゴリーの独立請求項;

(ⅱ)製品とその製品専用の製造方法の独立請求項;

(ⅲ)製品とその製品の用途の独立請求項;

(ⅳ)製品、その製品専用の製造方法とその製品の用途の独立請求項;

(ⅴ)製品、その製品専用の製造方法とその方法を実施するために専ら設計された装置の独立請求項;

(ⅵ)方法とその方法を実施するために専ら設計された装置の独立請求項。

 

 以上の規定に基づけば、一件の特許出願の請求項においては、少なくとも一つの独立請求項を含まなくてはならない。また2つ以上の独立請求項が存在する場合、最前に記載された請求項が第1独立請求項であり、その他の独立請求項は並列独立請求項である。独立請求項は、全体の技術方案を反映していなければならず、かつ、各自の内容に基づき、特許権の保護範囲を確定しなければならない。

 

 独立請求項は、引用関係が存在しなくても良く、また引用関係が存在していても良い。並列独立請求項が、前の独立請求項を引用する場合、当該並列独立請求項は依然として独立請求項であり、従属請求項ではない。最高人民法院は並列独立請求項の保護範囲を確定する場合、被引用の独立請求項の特徴を考慮すべきではあるが、被引用独立請求項は、当該並列独立請求項に対して、必ずしも必然的に限定作用を有するものではなく、その実際の限定作用は、被引用独立請求項が当該並列独立請求項の技術方案または保護主体に対し、実質的に影響を与えるか否かに基づき確定しなければならないと判示した。

 

 本案において、二審法院は、被告の被疑侵害製品と、対象特許請求項1とを比較すれば、以下の2つの技術特徴が欠けていると認定した。この点に関し、双方当事者間で異議はない。

「スチール帯上に略矩形または円形の通り穴を有し、或いは、スチール帯両側プレスに溝を有し」、

「2つのリブの間のプラスチック形状は中間凸部を有し」

 

 対象特許の独立請求項2は、請求項1のスチール帯増強プラスチック排水パイプラインの製造方法を記載しており、ステップAは以下のとおり記載している。

 A、押出機と一体成形型とを直角位置に配置し,スチール帯は一端から一体成形型に引き入れられ,かつ一体成形型内でプラスチックと複合し,冷却、定型、牽引を経た後、スチール帯増強プラスチック複合異型带材スチール帯を成形する。

 

 独立請求項6は、請求項2の方法を実施するスチール帯増強プラスチック排水管を製造する装置を記載しており、

 A、スチール帯とプラスチックとを複合形成するスチール帯リブを有する異型带材複合装置を備える。

 

 特許請求項及び明細書に記載の複合方式から見れば、スチール帯は、請求項6に記載の複合装置において、請求項2に記載のステップAを経て、複合異形帯材を形成する。またスチール帯は、矩形または円形の通り穴または溝を有し、プラスチックを溶かした後2つの増強リブ間に中間凸部を形成する。

 

 請求項及び明細書は、通り穴または溝、及び、凸部を形成する装置部品に対し、具体的な構造を記載していないが、請求項1に記載の製品技術特徴に基づけば、請求項6に記載の複合装置は必然的に、上述の区別技術特徴部品を具備すると推定できる。

 

 このことからすれば、請求項1に記載の技術特徴は、請求項2及び6に対して実質的な影響をもたらし、限定作用を有する事になる。被疑侵害製品は、通り孔または溝及び凸部を有さず、原告は被疑侵害装置が上述した特徴を生成する部品を具備することを挙証証明していない。

 

 以上の理由により最高人民法院は、被告の被疑侵害方法及び被疑侵害製造装置は請求項2及び6の技術的範囲に属さないと判断した。

 

 

5.結論

 最高人民法院は、技術的範囲に属さないとした高級人民法院[1]の判決を維持した。

 

 

6.コメント

 本事件では、先の独立請求項を引用する並列独立請求項は、従属請求項ではなく独立請求項であり、必ずしも必然的に先の独立請求項により限定されるものではないと述べた上で、請求項及び明細書の記載に基づき、実際に先の独立請求項が並列独立請求項にどのような限定作用をもたらすかを考慮して、技術的範囲の属否を判断しなければならないとした。

 

 本事件では請求項及び明細書の記載からすれば、請求項2及び6に係る発明は、請求項1に記載された特徴(通り孔、溝、中間凸部)を有するスチール帯の製造方法及び製造装置に関するものであることから、引用元の請求項1の構成要件に基づき、限定解釈されることとなった。

 

 請求項に記載する発明主題が、部品と完成品に係る発明、または、受信装置と送信装置等のコンビネーション発明の場合は、先の独立請求項を引用する並列独立請求項を作成せざるを得ない場合がある。例えば部品に主要な特徴があり、完成品に進歩性を主張し得るような技術的特徴が無い場合等である。

 

 しかしながら、本事件のように製品発明に対して、当該製品を製造する方法、当該方法に使用する製造装置等の関係を有し、また別個の技術特徴が存在する場合は、引用形式を採用するのではなく、完全な独立請求項を作成すべきである。製品、方法及び製造装置はそれぞれ異なった技術的特徴を有する事が多く、限定解釈を避けるためにも、差別化した上で請求項を記載しておくことが必要である。

 

 特別な場合を除き、先の独立請求項を引用する並列独立請求項の使用は避けるべきである。

以上




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[1] 2012年5月8日江蘇省高級人民法院判決 (2012)苏知民终字第0021号

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