MSCB(行使価額修正条項付取得請求権付新株予約権付社債) - 企業法務全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
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閲覧数順 2024年04月27日更新

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MSCB(行使価額修正条項付取得請求権付新株予約権付社債)

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MSCB(下方修正条項付転換社債、現在の「行使価額修正条項付取得請求権付新株予約権付社債」)

 

MSCB(Moving Strike Convertible Bond)とは、上方または下方修正条項付きの転換社債(CB)のことをいいます(なお、ここでは便宜上、下方修正条項付きのものに限定してご説明いたします)。

1. CBとは

(1) 意義

  CB(Convertible Bond)は、いままで「転換社債」と呼ばれてきましたが、平成14年の商法改正により「転換社債型新株予約権付社債」と呼ばれるようになりました。

転換社債型新株予約権付社債とは、社債に新株予約権が付されたものであり、その新株予約権の行使により必ず社債全額の償還に代えて新株予約権の行使のための払い込みがあったとみなされるものです。

 会社法では、転換請求権付きの場合は、取得請求権付新株予約権(会社法2条18号)として整理されています。したがって、取得請求権付新株予約権付き社債に当たることになります。

 現在では「行使価額修正条項付新株予約権付社債」などと呼ばれています。

(2) メリット

  CBは、会社の経営成績のいかんにかかわらず確定した利息の支払いを受けられるという社債の安全性と、会社の業績が上がって株価が上昇した場合に新株予約権を行使して株式を取得できるという投機性の両方を兼ね備えた、買い手に有利な社債といえます。

さらに、この有利な条件の引き換えとして、普通社債に比べ利率が低く設定されるのが通常です。

したがって、発行会社にとっても資金調達コストを下げることができるというメリットがあります。

(3) デメリット

  しかし、CBを発行できるのは、株価の上昇が期待でき、かつ仮に株価が上昇しなくとも満期に社債を確実に償還できる可能性の高い優良企業に限られてしまうというデメリットがあります。

なぜなら、株価が上昇する可能性がなかったり、倒産の危険のある企業のCBには、誰も買い手がつかないからです。

 

2. MSCBとは

(1) 意義

  そこで、MSCB(下方修正条項付き転換社債)が登場しました。

MSCBとは、引受者に、常に市場価格より安い価格で株式に転換できる権利が与えられたCBのことです。

(2) メリット

  後述するように、MSCBの買い主はほぼ確実に儲けを得ることができます。

そのため、発行会社にとっても、通常のCBに比べて買い手が付き易いというメリットがあります。

しかも、そのような有利な条件の引き換えとして、社債の金利は0%に設定されるのが通常ですので、発行会社にとって、通常のCB以上に資金調達コストを下げることができるというメリットもあります。

(3) デメリット

  しかし、MSCBには、発行企業を破滅に追い込みかねないというデメリットがあります。

すなわち、MSCBの引受先は、通常は株主から株式を借り受け、これを先に売ってしまいます(空売り)。その後、MSCBを株式に転換して、これを株主に返還します。

その際、株価が下がれば下がるほど、得られる株式の数は多くなります。 そこで、引受先は、株を積極的に空売りすることにより、株価を急激に下げるよう働きかけることがあります。

それにより、空売りした時点での株価よりもはるかに低い株価で株式に転換することができるため、その差額分が引受け先の儲けになるのです。

このように、MSCBは発行企業の株価が暴落すると引受先が儲かる仕組みとなっているため、引受先の行動次第では、発行企業に大損害を与える可能性があるというデメリットがあります。

さらに、株価の下落により、既存の株主に損害を与える可能性もあります。

 

3. MSCBの現状と問題点

  MSCBは、以前はそのデメリット面から、経営の行き詰った企業による最後の資金調達手段として用いられることが多かったのですが、最近では、フジテレビやライブドアに代表されるように、企業の有効な資金調達手段として用いられる機会が増えつつありました。

もっとも、その場合には、発行者と引受先との間で下方修正幅を制限する旨の特約が設けられることが多いようです。これにより、株価の急激な暴落を避けることができるからです。

したがって、発行企業に与えるデメリットについては、多少改善されたといってよいでしょう。

もっとも、既存株主に与える影響については未だ未解決なままですので、MSCB発行の際には株主総会の特別決議を要求するよう法改正を行うなど、立法による解決が期待されていました。

 

4.会社法

会社法では、有利な価格での株式や新株予約権の発行(有利発行)などについて、株主総会での特別決議が必要です。

 

5.金融商品取引法での法規制

 前記のような弊害にかんがみて、上場企業に関しては、当初、日本証券業協会や東京証券取引所などの自主規制がされるようになりました。

さらに、その後、2010年の「企業内容等の開示に関する内閣府令」(開示府令)の改正により、

「取得請求権付株式」(会社法2条18号)

前記と同じ性質を有する金融商品取引法上の有価証券

新株予約権

新株予約権付社債

について、金融商品取引法に基づく法定開示がされることなっています。

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