書類に印鑑を押す法的意味 - 民事事件 - 専門家プロファイル

鈴木 祥平
弁護士
東京都
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書類に印鑑を押す法的意味

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 日本社会において、契約書や申込書などの大事な書類には皆さん印鑑を押すと思います。どうして、日本は印鑑を押すのでしょうか。海外ではサイン(署名)だけ済んでしまいます。その理由は何なのでしょうか。以下の事例を考えてみることにしましょう。

 【事例①-1】Xさんは、自分が乗っている自動車が古くなってきたことから、新車を買うことにしました。新車の購入資金に充てるために現在乗っている自動車をYさんに30万円で売却するという契約(=売買契約)を締結しました。ところが、Xさんは、いつまで経ってもYさんに車を引き渡してくれません。業を煮やしたYさんは、車の引渡しを求めて車の引渡請求訴訟を提起しました。訴訟の中でYさんは、自動車の売買契約が有効に成立したという証拠として「売買契約書」を裁判所に提出しましたが、Xさんは「それは、Xが勝手に偽造した契約書だから、契約が成立していない!」と主張してきました。Yさんは、裁判の中でどのような主張をすればいいのでしょうか。 

まず、売買契約は、「売買契約書」を締結しないと有効に成立しないのかというと、契約は、意思表示の合致によって成立しますので、本来、「契約書面」は必要ありません。買主が「売ってください」と売買の「申込み」の意思表示をして、売主が「売りましょう」と売買の申込みに対して「承諾」をすれば、有効に契約は成立します。

 それでは、何のために「売買契約書」を作成するのかというと、「申込み」と「承諾」が合致したことを後々、立証するためです。これを立証しなければならない場面といえば、裁判が最たるものでしょう。

 「売買契約書」のような権利(=自動車の所有権)の移転などを証する文書のことを「処分証書」といいます。裁判手続きにおいて、「処分証書」は、とても重要なものです。

特段の事情がない限り、その「処分証書」に記載されている通りの契約がなされたものと裁判所は判断(=事実認定)をすることになるからです。

 ただ、偽造(=本人の意思に基づかずに勝手に作られた)された書面の場合に、そのような判断がされてはたまったものではありません。

 そこで、裁判の手続ルールを定めている民事訴訟法には、「文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない」(民事訴訟法228条1項)と定められています。

「成立が真正であること」というのは、「文書が名義人の意思に基づいて作成されたものであること」(すなわち、偽造されたものではないこと)を言います。これを証明しなければ、「売買契約書」は、売買契約が成立したことを証明する証拠として認めてもらえません。

(実務上は、文書の真正が特に争われる場合以外は、「文書の真正を証明する」ということはありません。)

 今回のケースでは、Yさんが「それは、Xが勝手に偽造した契約書だ」といっているわけですから、「文書の真正」(=名義人の意思に基づいて作成されたものであること)を争っているわけです。Xさんとしては、どのようにして「文書が真正なものであること」(=偽造されたものではなく、Yさんの意思に基づいて作成されたものであること)を立証するのでしょうか。

  これについては、民事訴訟法228条4項は、「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは真正に成立したものと推定する」と定めています。署名の場合は、ここでは検討の対象から外すとして、つまりは、「本人の押印があるとき」には、「真正に成立した」ものと「推定」するということです。

 では「本人の押印がある」とはいかなる場合のことをいうのでしょうか。それは、「本人の意思に基づいて契約書に印鑑を押した場合」のことを言います。でも、本人の意思に基づいて契約書に印鑑を押したのかどうかは、契約書から客観的に判断をすることはできません。

 そこで、最高裁判所(S39.5.12)は、「私文書の作成名義人の印影が当該名義人の印章によって顕出された事実が確定された場合には、反証のない限り、当該印影は本人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定する」と判断をしました。

 まず、「印影」というのは、「ハンコを押したときのハンコのインクの跡」のことを言います。「印章」というのは、いわゆる「ハンコそのもの」のことです。

 つまりは、本人が持っているハンコ(=印章)と契約書に押してあるハンコの跡(=印影)が一致する場合には、「本人の意思に基づいて契約書に印鑑を押した」と事実上推定するということです。

 簡単にいうと、「契約書面に本人のハンコが押してある」と「本人の意思でハンコを押したのだろう」と推定(=事実上の推定)し、「本人の意思でハンコを押した」のであれば、「文書が本人の意思で作成されたのだろう」と推定(=224条4項の推定)するということです。これを二段階で推定することから、法曹関係者の間では「二段の推定」と言います。

 ですから、【事例1】において、Yさんとしてはどうすればいいかというと、「契約書に本人のハンコが押してある」ことを証明するために、「印鑑証明書」を証拠として提出します(印鑑証明書を取引の際に要求するのは、この「本人のハンコが押してある」ことを証明するためです。重要な取引をする際には、「印鑑証明書」を必ず要求するようにしましょう。不動産取引においては必ず印鑑証明書を要求します。)。

そうすると、「契約書に本人のハンコが押してある」ことが証明されたので、「本人の意思でハンコを押したのだろう」という推定(第1段目の推定)が働きます。そして、「本人の意思でハンコを押した」のであれば、民事訴訟法224条4項によって「文書が本人の意思で作成されたのだろう」と推定されるので、「文書の真正な成立」が立証されたことになります。Xさんとして、この推定を覆すためには、「反証」をする必要があります。

例えば、【事例①-2】「確かに、売買契約書に押されている印鑑は、自分(Y)の印鑑であるが、それは、Xが私の家から持ち出して勝手に押したものだ」と主張する場合

 この場合には、「契約書に本人のハンコが押してある」ことが証明されたので、「本人の意思でハンコを押したのだろう」という推定(第1段目の推定)を覆す主張をしているということになるので、これをひっくり返すために「反証」をする必要があります。ただ、「XがYの家から持ち出して勝手に押した」ことを立証するのは、著しく困難であるといえるでしょう。

【事例①-3】 「確かに、売買契約書には、自分(Y)の意思で印鑑を押した。だけど、自分が印鑑を押した際には、代金の金額の記載が30万円ではなく15万円と記載されていた。あとで、Xが30万円と書き換えたのだ。」(=文書内容が自分の意思で作成されたものではない)と主張する場合

この場合には、「本人の意思でハンコを押した」のであれば、民事訴訟法224条4項によって「文書が本人の意思で作成されたのだろう」と推定を覆す主張をしていることになるので、これをひっくり返すために「反証」をする必要があります。ただ、「Xが15万円という記載を30万円に書き換えた」ことを立証するのは、著しく困難であるといえるでしょう。

このように、書類にハンコ(印鑑)を押すということは法的にも重要な意味がありますので、安易にハンコを押すことはせずに、書類の中身を確認して、内容を十分に理解をした上でハンコを押すようにしましょう。

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