大園 エリカ
オオソノ エリカ「芸術」と「ビジネス」①
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今回のテーマは、私が今まで一番書きたいと思っていたテーマでもあり、けれどちょっと気が重たくてなかなか書く気にならなかったというテーマでもあり、でもいつか書かねばと思っていたテーマでもあります。
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私のバレエ歴でもある45年もの歴史を持ち、高校生の頃からバレエ教師として35年以上働き続けた自分のバレエスタジオを、この度この6月で閉鎖したという経緯も私に有りましたので、
今回やっと(!?)思い切って、「このテーマをぶちまけてみよう!」と思った次第です。(笑)
(※ちなみに今回のコラムを読む前に、先日のコラム「自宅の一室がバレエの衣裳部屋に!?【続編②】」の中で書かせて頂いた「芸術家」と「ビジネス」に付いてお伝えしたものを基礎知識として読んで頂くと幸いです)
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私自身は元バレエ・ダンサーであり、そして教師及び振付家という、本来はビジネスとは領域の違う「芸術」に携わる者なのですが、
その芸術家として本来果たすべき役割りと、"バレエ教室を経営する" という、芸術とは相反する領域の「ビジネス」というものを、日本の様な資本主義の国の中では両立させざるを得ない事から生まれるジレンマに長年苦しみ続けて来たという、
そういう私という一人の芸術家が本音を語る、とてもシビアなコラムになると思います。
(※日本は国の援助が無い為、バレエなどの芸術に携わる者は「自分が表現したい(踊る)事を続ける為には教えをしなければならない」という様な現状が有ります)
そして又今回のコラムでは、特にこの日本の中で "プロフェッショナル" としてクラシック・バレエ芸術に携わり、貢献されておられる多くのダンサーや教師の方達の持たれている悩みと葛藤に付いて、
それを私が代弁する様な、今の日本のクラシック・バレエ界の現状に付いて語るコラムにもなるのではないかとも思っております。
(※この日本で私と同じ様にジレンマを抱えて悩んでいらっしゃる素晴らしい芸術家の方達を、私は沢山存じております)
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ちなみに、私が今回自分のバレエスタジオを閉鎖の決断をしたのは、
時代が変わり、人間の質も、人々が求めているものも変化し、
私が愛した「本格的なクラシック・バレエ」という、本来は妥協の無い高尚な芸術を追及して行く道を歩んで来た自分自身が学んで来たもの、そこから伝えたいもの、伝えられるもの、そして伝えるべきものが、今の時代にマッチしなくなった事が一番の理由です。
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単なる「ビジネス」で考える人達は、只安易にこう思うでしょう。
「それなら時代に合わせる努力を経営者がするべきだ」と。
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これは「芸術」というものへの理解が浅い方達にはきっとお解りにならない事だと思いますが、
芸術であってもなくても "本物に触れた人間" というものは、報酬の為に自らの志しの "質" を下げる事になる「嘘」や「媚び」を選択しなくなるので、自分自身に対しても、他者に対しても「偽善」という行為ができなくなるのです。
「経営者」というのはお金の為に、自分のやりたい事の為に「お客様を集める」プロフェッショナルですね?
ビジネスというのは、表面をどんなにお化粧して見せていても、見返りと報酬の世界であり、「お客様=お金」の世界になりますからね。
そこにはどんなに言葉で綺麗事を並べて自分自身を飾っていても、"自分の報酬" の為に「相手に気持ち良くなってもらう為の努力や妥協」、時には「自分を下げてお客様に媚びなくてはならない」という面が必ず出て来るのが「ビジネス」です。
「ビジネス」という "お金という報酬の為に努力する世界" では、それが生き残る術にもなりますからね。
でもそれは、本来「芸術」の果たす役割りとは、相反する世界なのです。
私はどうしても「生徒達=お金」という経営者の持つべき資質には馴染めず、そしてそれを絶えずオブラートに包む "偽善" という感覚にはどうしても最後まで抵抗がありましたし、
結局良き経営者には成れませんでしたし、そして今でも成りたいとは思いません。
つまり元から私の個性(資質)は、「バレエを教える事」は好きであっても、「バレエを教える事で経営者になる」というビジネスには向いていないのです。
(※私の場合は自分がバレエに興味を持つ前に、母をバレエ教師として父親が建てたバレエ教室という環境が先にあり、そのスタジオの教師になるというのは私に取っては当時とても自然な成り行きでした)
私に取って「バレエを教える」意義とは、本来ビジネスの様に売り買いできる様なものではなく、それを生活の為にビジネスにしなくてはならなかった部分に関しては、私には正直まるで生き地獄の様に苦しいものしか感じられない世界でもありました。
私は根っからの踊り手であり、教師であって、
それと同時に、この資本主義の世界でバレエスタジオの「経営者」を同時にしなくてはならないジレンマを負わされる事が、どれほど私に取っては苦しい事であったか…。
でも実は私がこれを明確に感じられたのは、つい最近の事でした。(笑)
これは私がここでいつもお伝えしている、自分で気付いていない「マインド(頭で考える建前)」と「心(本音)」のギャップというヤツですね~?(笑)
勿論未熟な私の中にも「自分の本音に気付いていなかった自分」というものがおりました!(笑)
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つまり私という人間がバレエを教える意義は「ビジネス」では無いという事なのです。(芸術家とはそういうものです)
この目の見えないジレンマに、私は自分の人生のどれだけの時間を苦しんで生きて来た事でしょう!
勿論それだけではなく、私の人生では恩恵に与かった部分も数え切れないくらい沢山ありましたが、その部分に関しては私の心は "幸せを感じられなかった" というのは、紛れもない私の正直な心であり真実なのです。
(※そして私同様のジレンマに苦しむプロのバレエ・ダンサーや、心底バレエを愛しているからこそ葛藤するスタジオ経営者でもあるバレエ教師達が、この日本には沢山いらっしゃるという事実は否めません)
ですので多分皆様の想像とは裏腹に(!? 笑)、今回私は自分のバレエスタジオを閉鎖できた事に、長年の重たい荷物を降ろさせて頂けた様な感覚が有り、正直今はとても安堵感を覚えているのです。
(私に取ってこれは、生まれて初めて味わう安らぎなのかもしれません)
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振り返れば気の遠くなる様な長い年月を、その様なジレンマに苦しみながら、それでも恵まれた環境に感謝しつつ、それを自分に言い聞かせながら、
いつでも自分は前向きに自分なりのベストを尽くして生きて参りましたので、「自分にやれるだけの事はやり尽した結果」という、私に取っては全く悔いの無い今回のスタジオ閉鎖なのです。
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今、私の心がこんなにも穏やかにいられるのは、
閉鎖に至る何年も前から、それまでは「自分がしなければならない事」として疑いも無く続けて来た自分の仕事=お金に関わるビジネスに対して、
私自身がハッキリと自分が本当に「したい事」と「やりたくない事」というものが、より明確に自覚できる様になっていた為だと思います。
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ですので私の中では、今回のバレエスタジオ閉鎖という事に関しては、全く迷う事無く、執着する事無く、自分で納得しスタジオ閉鎖の決断をさせて頂く事ができたのです。
これは別の視点で観てみると「やっと苦しいバレエ・ビジネスから足を洗える (!?笑)」という事であり、
そして「バレエの教えをビジネスにする」という事を通しての魂の学びは "卒業" する事ができたという実感だとお伝えすれば、皆様にはご理解頂けますでしょうか?
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そしてここに至るに当たっては、今の日本のバレエ界も以前とは違い、
私の求める「芸術=質を大事にする」という事からどんどん離れ、「ビジネス(お金)」に余念の無い世界になってしまっているという現状が背景に有るのも事実です。
そしてそこにも、日本のバレエ界が抱えるジレンマというものがあり、それは私個人が感じているものと何ら変わらない構図が有ります。
つまり「良いものを育てたい・良い舞台を作りたい」が、「お金が無いと自分達のやりたい公演や発表会ができない」「バレエ団やスタジオを維持できない」というジレンマです。
その証拠の一つに、今の「バレエ・コンクール」狂想曲(!? 笑)というものが日本に有ります。
誰かが始めた「バレエ・コンクール」というビジネスが、誰でも主催すれば儲かるビッグ・ビジネスであるという事に気付き、そこに安易に乗っかる組織グループが主催するコンクールが、猫も杓子も全国中で開催される様になり、
その結果、時代に沿った "ビジネス" として生徒を確保する為には、どうしてもコンクールの様なものに参加せざるを得なくなって来るバレエスタジオ経営者の教師の方達の現状と葛藤。
コンクールに限らず、数が増え過ぎるとその権威や価値が下がって行くのと同時に、
誰でもコンクールに参加できる様になった事で、生徒達はどうしてもコンクールというものの性格上、ほんの数分の課題曲を踊る自分を点数というもので計られる事から、
たった一回、或いはほんの数回参加しただけで「自分には才能が無い」と生徒が傷付き、まだまだこれからが伸び盛りという時に、バレエに見切りを着ける子供や親達が増える弊害。
本格的なバレエは基礎的な事だけでも習得するには最低10年はかかりますし、子供の才能の芽が出て来る時期もそれぞれ異なるというのに…。
それでなくても今の人達は、親からしてインスタントにすぐ結果を得られる様な目先の事しか見なくなり、
本来は時間をかけてじっくり育てるものだという本物志向が、バレエを習わせる親や習う生徒達から失われてしまい、その為に必要な情熱や努力や忍耐力にも乏しくなる等々の弊害も、沢山生み出しているのです。
又"自称"「子供に夢を与える」として(※これはビジネスの為の常套句でもあります)、
子供の時からプロのダンサーが踊る大人の演目であるバリエーションを課題曲&振付けとしてして小学生から与える事により、
結局子供達は "大人の物真似" で演じる事が当たり前になり、たった数分の中で勝負をする事がバレエだと勘違いする様になるなど、情緒的な面や芸術的な面を駄目にしてしまう側面が大いに有る、この様なこの日本の (私からするとキチガイ沙汰の) コンクールシステムは、
ロシアを始めとするバレエ先進国のバレエ教師からは昔から非常に疑問視され、その子供達に与える影響に付いても問題視され続けているにも関わらず、
皆、美味しい "ビジネス" の為に止めるに止められなくなっている、これが私の眼から観える今の日本のバレエ界の現状の一つです。
そしてもっと更に奥を見てみると、そこには日本の教育制度が生み出した「受験の為の学習塾というものの乱立と洗脳」というのが又、バレエ教師達の悩みの種になっているという背景も在ります。
塾の世界も競争率が激しく、"ビジネス" として成功する為に「習い事は全て止めないと受験には受かりません」という様な事を親子に洗脳する事が流行っているというのは、多くのバレエ教師達が実際見聞きしている事実であり、
その事も、本来時間をかけて生徒を育てるバレエというものを生業にしているバレエ教師達がスタジオを経営する環境に、大変大きく影響しています。
又バレエを習う方も深く考えず、ただ「世間がそうだから何か子供に習い事をさせる」という事で、親が軽いファッション感覚的に、まるでアクセサリーの様にクラシック・バレエを習わせるという様な風潮や、
酷いケースになると親が「内申書に子供がバレエを習っていると書かれていると、受験の時に有利だから 。(バレエをしている子供は、努力・忍耐力・お行儀などが培われていると思われるらしい!?)」という理由だけで習わせているというケースもあるそうです。
…と、少し話が逸れてしまいましたが、
つまりこの様な本物が育ち辛い環境を、バレエに携わる大人達自身が自ら作っているという事実が、この日本のバレエ環境には沢山在るのだという事なのです。
「芸術」と「ビジネス」は本来相反するものであるという理解に乏しい「"自称" 芸術家」の大人達や、
或いは完全にビジネス化された「ビジネスの為の偽バレエ」になってしまっているものが広められてしまったという事は、コンクール以外にも日本のクラシック・バレエ環境には沢山有るという事なのです。
その中の一つには、日本ではバレエ教師になる為に資格を取るという制度が無い為に、
殆どがプロとして舞台に立つという経験の無いアマチュア・ダンサー出身の教師であったり、或いは趣味程度のものしか舞台経験が無いという、全くど素人なお方でも、
日本と言う芸術性の低い資本主義の国では「資金さえあれば簡単にバレエスタジを設立でき、バレエ教師を名乗れてしまう」という弊害というものも以前から問題視されているのです。
そしてその様なお教室が乱立されてバレエ教室の数が増え過ぎたという事と少子化という事が重なり、結局 "お客様" の奪い合いになり共倒れという現象も起こっているのです。
時代のニーズという事で言えば、本物を求めなくなった今のインスタント時代では、このコンクールブームと相まって「皆がプリマバレリーナ♫」という様な、一見美味しくて安易なスタイルのものが流行ります。
今回挙げさせて頂いたものは、ほんの一例に過ぎませんが、やはりバレエ後進国でもある資本主義国の日本では、どうしても質よりも量の「ビジネス優先」になる傾向は否めず、
それプラス現代は人間が皆我儘になり、身勝手な考えや行動をする人達も増えて、
全てに本物が育つに必要な「情熱」とか「地道に努力する事の大切さ」や「継続して行く忍耐力」などの大事なものが昨今の日本の教育制度では育まれずにいます。
その様な中で高い質を維持する事の難しさという悩みは、芸術を愛し本物を知る、心有る真のプロフェッショナルなクラシックバレエ教師にしか分からない悩みであり、そして苦しみでもあるのです。
真の芸術家というものは純粋な魂の持ち主である故に、今回述べて来た様な "ビジネス" になると必ず絡んで来る「生徒=お金」として捉えなければならない重たい波動の世界を、とても息苦しく感じる事の方が多いのですね。
現に私の周りを見渡して見ても、伝統を守る質の良い本物志向のお教室の方が生徒が減っているという事実があります。
今のインスタント時代では、昔の人が持っていた様な資質 = 情熱から生まれる集中力や忍耐力=クラシック・バレエに不可欠な資質というものが、多くの子供達から失われており、
そして人の言う事にオウム返しをする事で、あたかも自分で考えた気になっている "優等生" に育てられた創造性と想像力の欠如した子供達。
彼等は一見普通に見えますが、親と日本の教育システムの中でマインド(頭)=左脳ばかりが育てられ、心の眼は閉じられたまま=右脳が未発達=感受性に乏しくなっていて、
教えても教えても何度も同じ事を繰り返す様な、正に教師を悩ませる様な不毛な現象を生み出します。
私がそれをハッキリと解明理解できる様になるまでは、「どう教えたら生徒達の中に自立心が芽生え、教えたものが彼等の中に入って行く様になるのか?」と試行錯誤しながら、教師として大変苦しんだ時期も長くありました。
ちなみに、今の多くの子供達の集中力が続かない・忍耐力や洞察力に欠けるという現象は、生まれた時から農薬や添加物だらけの不自然・不健康な食品・食材を摂取している事から生まれる脳障害であると指摘する医師もおります。
時代と共に、今はバレエを習うには当たり前に身に付けなくてはならない事でも、「厳し過ぎる。そこまで求めていない」と敬遠される傾向にあり、
良質なお教室であるにも関わらず生徒が減り、そしてスタジオ閉鎖を余儀なくされる名教師達が増えて来ているという事も、現在の日本のバレエ界に起きている事の一つです。
…と、気付けば随分な長文に…!
(^^;
やはり今回のテーマは簡単に短く語る事はできない、私に取っては相当ヘビ~~~なテーマでございます。
(こりゃ~、気が重たくなる訳だ!(笑) )
(^^;;
これ以上書くのは長くなり過ぎますので、
それでは次回は少し視野を変え、改めて今度は違う角度からの私なりの「芸術」と「ビジネス」というものをお話しして参ります♫
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これは「白鳥の湖」Act 1より、有名なパ・ド・トロアを踊る20歳の頃の私です♫
16歳でバレエ団に入団して、初めて大役を頂いたソリスト・デビューの時の思い出の写真でございます~ ♡
きゃぁ♫ 久々に見るこの写真は何か自分でも懐かしい~~~♫
若い私、やはり初々しいものですねぇ…!(笑)
今は昔♫を、シミジミと幸せに感じます♫
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ちなみに最近は、コンクール狂想曲が始まった当初から私の感じていた通り、
増え過ぎたコンクールのお陰で参加者がどこも分散してしまい、参加人数が年々減少し、コンクール開催が赤字になる主催者も増えて来ているとか?( これは当たり前のお話しですね?)
これから更に日本は少子化になって行きますし、日本独特の「コンクールという名のビジネス」ブームは、そろそろ終焉に向かい始めるのでしょうか???
何事もそれを始める根が大事ですからねぇ!
子供達に夢を与えると称し、「自分達のお金儲けジネス」を目的にした質の低いコンクールが生み出す弊害で、結局自分達の首を自分達で絞めている結果でもあります。
一見時代のニーズに合ったビッグビジネスではありますが、数が増え過ぎればその価値も下がり、又自分達が生み出したその弊害により、長く継続できない結果に行くのは自然の摂理でありましょう。
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