鉄道駅員に対する暴力犯罪と証拠保全のための防犯ビデオ録画 - 労災認定 - 専門家プロファイル

今林 浩一郎
今林国際法務行政書士事務所 代表者
東京都
行政書士
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鉄道駅員に対する暴力犯罪と証拠保全のための防犯ビデオ録画

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「全国の鉄道会社は7日、2009年度に駅員や乗務員が乗客から受けた暴行が869件だったと発表した。3年連続で過去最悪を更新した。前年度よりも117件も増えた。鉄道各社は『相手はお客様だから』と厳しい対応をしてこなかったが、JR東日本が原則的に警察に被害届を出したり、東京メトロが防犯カメラを本格活用したりするなど、姿勢を強めている」(7月8日付朝日新聞39面)。

 

今は昔、三波春夫が「お客様は神様です」という流行語を生み出したが、乱暴する神様は有り難くないでしょう。これらはいずれも犯罪であり、傷害罪(刑法204条)、暴行罪(刑法208条)、脅迫罪(刑法222条)又は威力業務妨害罪(刑法233条)等に該当します。現行犯罪ですから、駅員や乗務員が現行犯逮捕もできるはずです(刑事訴訟法213条)。

 

駅員や乗務員がろくに弁解も聞かずに警察に通報した等の電車内での痴漢に対する冤罪がしばしば問題になります。痴漢に関しては、厳しく警察に通報するのに暴力犯罪に関しては通報しないというのは、客体が駅員や乗務員であろうとお客様であろうと犯罪には変わりないのですから、矛盾しているようにも思えます。これは日本の企業体質であるかもしれません。

 

ところで、公共の場所に防犯カメラを設置し、無差別に人の映像をビデオ録画するのは、プライバシー権や肖像権との関係で問題はないのでしょうか?

 

まず、プライバシー権に関しては、東京地判昭39年9月28日(下民集一五-九-二三一七)は、プライバシー権を「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」と意義付け、それを公表することが違法となる要件として、(1)私生活上の事実又は事実らしく受け取られるおそれのある事柄であること、(2)一般人の感受性を基準として当該私人の立場に立った場合公開を欲しない事柄であること、(3)一般の人々にいまだ知られていない事柄であること、等の基準を示しました。また、現在では、判例上、プライバシー権に「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」という消極的側面のみではなく、自己決定権の1つとして、自己情報コントロール権(どの程度自己に関する情報を開示するかを自分で決める権利)という積極的側面も認めるようになってきています(東京地判昭59年10月30日、東京高判昭63年3月24日)。

 

問題は、防犯カメラにビデオ録画されたすべての映像が開示されるのではないという点です。すなわち、犯罪が発生した場合に、犯罪捜査に必要かつ相当な範囲でのみ録画映像が開示されるのであれば、「私生活をみだりに公開」するとは言えず、公共の福祉との均衡で必要最小限度のみプライバシー権を制限するということです(憲法12条13条)。

 

次に、肖像権に関しては、京都府学連事件判決(最大判昭44年12月24日)が参考になります。同判決は正面から肖像権を認めた訳ではありませんが、「個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有する・・・警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されないものと言わなければならない・・・現に犯罪が行われもしくは行われたのち間がないと認められる場合であって、しかも証拠保全の必要性及び緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度を超えない相当な方法を持って行われるとき(には)・・・撮影される本人の同意がなく、また裁判官の令状がなくても、警察官による個人の容ぼう等の撮影が許容される」と判示しました。本判決は、捜査として写真撮影が行われる際の(1)現行犯的状況、(2)証拠保全の必要性・緊急性、(3)相当性という3つの適法要件に言及しています。

 

問題は、公共の場所における防犯カメラによるビデオ録画は、(1)現行犯的状況の要件を充たさないということです。この点に関し、後に、最高裁は、「警察官による人の容ぼう等の撮影が、現に犯罪が行われ又は行われた後間がないと認められる場合のほかは許されないという趣旨まで判示したものではない」(最決平20年4月15日)と判示して、(1)現行犯的状況の要件の要件を緩和しています。したがって、以上の厳格な要件を充たす限り、公共の場所に防犯カメラを設置し、無差別に人の映像をビデオ録画するのも、プライバシー権や肖像権との関係で問題ないと解されます。

 

 

 

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