特許の常識/非常識(第28回) - 企業法務全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
河野特許事務所 弁理士
弁理士

注目の専門家コラムランキングRSS

対象:企業法務

村田 英幸
(弁護士)
村田 英幸
(弁護士)

閲覧数順 2016年12月05日更新

専門家の皆様へ 専門家プロファイルでは、さまざまなジャンルの専門家を募集しています。
出展をご検討の方はお気軽にご請求ください。

特許の常識/非常識(第28回)

- good

  1. 法人・ビジネス
  2. 企業法務
  3. 企業法務全般
特許の常識/非常識(第28回) 河野特許事務所 2008年7月29日
執筆者:弁理士 河野登夫、弁理士 河野英仁


 パラメータ特許
 パラメータ特許(特許されていないものは「パラメータ発明」)とは広義には、特許請求の範囲に中に数値限定を含むものを言うようであるが、一般には、特許請求の範囲の中に新規なパラメータを持ち込んで、このパラメータの数値限定をしたもの、または、複数のパラメータの関係を規定したものなどを指すようである。鉄鋼関係の例ではないが、知的財産高等裁判所で特許性が判断された(平成17年行(ケ)10042号)発明を例示する。

 ポリビニルアルコール系原反フィルムを一軸延伸して偏光フィルムを製造するに当たり,原反フィルムとして厚みが30〜100μmであり,かつ,熱水中での完溶温度(X)と平衡膨潤度(Y)との関係が下式で示される範囲であるポリビニルアルコール系フィルムを用い,かつ染色処理工程で1.2〜2倍に,さらにホウ素化合物処理工程で2〜6倍にそれぞれ一軸延伸することを特徴とする偏光フィルムの製造法。
Y>−0.0667X+6.73 ・・・・(I)
X≧65 ・・・・(II)
但し,
X:2cm×2cmのフィルム片の熱水中での完溶温度(℃)
Y:20℃の恒温水槽中に,10cm×10cmのフィルム片を15分間浸
漬し膨潤させた後,105℃で2時間乾燥を行った時に下式
浸漬後のフィルムの重量/乾燥後のフィルムの重量
より算出される平衡膨潤度(重量分率)

フィルムの厚み、および延伸の倍率はそれ自体よく知られた物理的数値である。これに対して完溶温度Xおよび平衡膨潤度Yは、これらの定義から推測されるように、発明者が独自に創案した評価指標→パラメータである。
 従前知られていない評価指標および評価指標に関する条件(この例の(I)(II)などを考え出して、これらによって限定した物、方法の特許を取得することができれば、同種の「物」、「方法」のうちの一部が独占できるように考えられる。しかし、パラメータで規定された特許の物、方法が、特許に係るパラメータで評価されはしなかったが、特許出願以前から既に存在した「物」、「方法」に包含される場合は不合理が生じる。すなわち、それ自体公知の物、方法に特許を与えてしまうことになるからである。また、特許発明の効果がそのパラメータに依存していることの合理性も問題となりうる。
上記の発明は一旦特許されたが、異議申し立てによって取り消されたので、出願人はこれを不服として知的財産高等裁判所へ提訴したものである。裁判所は特許庁による取消決定を支持した。判決では、本件の明細書で2つの実施例(発明の要件をすべて満たす例)と比較例(発明の用件の一部だけを満たす例)が各2例、示されていたにすぎないことに関し、
「四つの具体例のみをもって,上記斜めの実線(注:(I)式)が,所望の効果(性能)が得られる範囲を画する境界線であることを的確に裏付けているとは到底いうことができない。」
などと認定して、特許法が要求するサポート要件(特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること)を満たしていない、と判断した。この判決が教えることの一つは、パラメータ発明は、明細書の中で、課題を解決できるとするに足る理論またはデータを開示しておくこと、と言う点にある。パラメータ発明が特許されるか否かはまさにこの点に依存する。特許取得の戦略としてパラメータ発明の利用は興味深く、発展的に考えて頂きたい。  (第29回へ続く)

                      
 |  コラム一覧 |