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村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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blog201403、会社法


弥永真生『演習会社法』有斐閣 (法学教室ライブラリィ)
笹山幸嗣『MBO 経営陣による上場企業の戦略的非公開化』


弥永真生『演習会社法』有斐閣 (法学教室ライブラリィ)
初版は2006年刊行。第2版が2010年刊行。
法学教室連載の単行本化。会社法の制定にいち早く対応した学者による演習書
旧商法での判例・学説との違いを重点的に論じている。これは司法試験での出題可能性が高いことによるものであろう。ただし、旧商法を勉強した実務家にとっても有意義である。 そして、会社法での解釈は未だ定まっているとはいえない。会社法の立法担当者とは違う説が学説上の多数説になったり、最高裁判例になっているからである。
今日までに、上記書籍(初版)のうち、以下の部分を読みました。
設問2 株主代表訴訟
設問3 財産引受、開業準備行為
設問4 見せ金、出資の有効・無効
立法担当者は見せ金は出資として有効と考えていたようだが、最高裁は無効と解している。それが、その後の会社法改正につながった。
設問17 競業取引に対する会社の介入権の規定が廃止されたことの意義・効果
設問18 取締役の報酬等(取締役会設置会社、委員会設置会社)
設問26 子会社と親会社との取引、子会社株主の救済手段
設問27 債務超過会社との合併などの可否
弥永教授は実質債務超過会社の株式の価値は通常プラスであると解しているが、その理由付けは不明である。実質債務超過会社の株式であれば、株式の時価はゼロ以下のはずである。そして、実質評価がプラスの会社と実質評価がマイナスの会社が合併すれば、実質評価がプラスの会社から見れば、資産が減少するはずである。
設問28 会社分割の分割比率が不公正な場合の株主の救済方法

笹山幸嗣『MBO 経営陣による上場企業の戦略的非公開化』
日本経済新聞出版社、2011年、約198頁。
銀行出身のMBA保有者、弁護士による共著である。
なお、資料として、経済産業省のMBO指針(インターネットでも無料でダウンロードできる)がついているので、こちらは精読する価値がある。MBO指針は、実務的には非常に重要だからである。
今日は、上記書籍を読み終えました。
MBOは経営陣による企業買収である。買収の主体が従業員の場合には、EBOという。
上場廃止するため「非公開化(ゴーイング・プライベート)」の類型に含まれる。
PE(プライベート・エクィティ)ファンド・投資ファンドにより買収資金を調達せずに、自己資金で行う場合を「純粋MBO」という。
投資ファンドからの買収資金の調達の比率が高いと、議決権の過半数以上を保有されてしまい、MBOというより、投資ファンドへの売却というほうが実態に近い。
第1章 MBOとは何か
MBOを実施する企業は成熟段階にあることが多い。成熟段階にあることは、会社の業歴が長く、上場企業として十分な信用・実績もあり、手元に資産もある。
経営陣に大株主であるオーナー一族が含まれていることが多い。議決権が集中していることが多い。TOBで9割を握りやすい。
なお、本書で議決権の100%が上場廃止基準としているのは、誤りである。現在では、特定少数株主に株式が集中していること自体が上場廃止基準である。議決権の9割を支配している場合には、産活法により少数株主に現金対価を与えて排除すること(スクィーズアウト)ができる。なお、会社法改正により、同様の規定が設けられる予定である。ただし、税務面では、株式以外の現金等を対価とする場合は、非適格組織再編として課税されるので、株式併合・減資などにより、少数株主の株式を1株未満とする手法、全部取得条項付種類株式を活用する手法により、適格組織再編として課税されないようにするのが通常である。
PER(当該企業の市場での株価の総額である時価総額を会社の純資産総額で割った指標)が1倍を下回る企業が多い。PERが1倍以下ということは、会社や事業を買うより、株式を取得したほうが、買収資金が安上がりということを意味する。
自己株式の取得を実施して金庫株(議決権がない)のある企業が多い。自己株式は議決権がないため、MBOを決定する株主総会で、相対的に特別決議をしやすい。
MBO実施前の株価に比べてMBO実施後の株価の下落率が、TOPIX平均下落率よりも、大きい企業が多いのは、意外に感じた(ここで下落率を比較したのは、一般的な株価が下落しているため)。本稿では指摘されていないが、理論的には、MBOの前後で同一の資産・負債の構成であれば、経営が効率化した分、株価が上昇すべきことになる。しかし、MBOの買収資金による負債が増加したり、借入金利子によってキャッシュが社外に流出した場合には、株価が下落する。もっとも、資産を時価で処分しただけで現金等に形を変えただけならば、株価が下落することはないはずである。そうすると、経営効率化・リストラ目的にせよ、MBOは、MBOを行う経営陣よりも、MBOに投資する投資ファンド・買収者側にとって、メリットがより大きいのではなかろうか。
逆に、MBO後に再上場して、MBO前より株価が高くなる場合には、効率化等に成功したことを意味する。
会社の業歴が長く、低成長であるにせよ、業績が安定していて、資産があり、かつ借入金が少なく、それ以上の経営資源を特に必要としないということは、逆に、投資ファンドから資金調達しやすいことを意味する。本稿では指摘されていないが、そのような企業であれば、金利の安い銀行などの金融機関からの借り入れを選択しやすいのではないであろうか。
もっとも、本稿では指摘されていないが、そういう属性の企業であれば、オーナーが自己資金で純粋MBOするであろうし、または、創業家が保有株式を他へ処分してハッピー・リタイヤメントする場合以外には、あえて投資ファンドから資金調達までしてMBOをする必要がないのではないかという疑問を感じた。

第2章 経営者はMBOをどのように進めるか
本稿ではMBOを考える契機として、
(1) 事業や企業組織の改革を目指す
(2) 親会社からの売却
(3) 事業承継
(4) 上場維持の負担感、
があると指摘されている。
上記(1)の事業・企業改革だけでMBOを考えるかについては、MBOのコスト的に見て疑問がある。むしろ、経営の自由度を高め、上場維持費用を節約する場合のほうが多いのではないかと推測される。逆にいうと、上場のメリット・デメリットを比較して、経済合理性の観点から、上場しているメリットが少ないと感じる場合であろう。
上記(2)のオーナーが親会社の場合には、MBOの対象企業が子会社という地位を脱して、独立した会社になる。親会社が競業他社への売却を避けたい、MBOを選択するメリットがあると本稿では指摘されているが、私見では疑問がある。現在のような不況・国際化(競業会社が国外の会社である場合)では、単独の小規模の会社での生き残りよりも、同業他社との事業統合(合併など)により、市場でのシェアをある程度握り、スケールメリットを生かしたほうが得策であるし、現に上場企業でも実例が多い。スケールメリットにこだわらない会社としては、特殊な技術・知的財産、得意先などがある場合であろう。
上記(3)について。事業承継の場合、後継者が創業家にいない場合が考えられる。MBOのうち、オーナー(創業家)一族以外の取締役が会社を買収したい場合、雇われサラリーマンの取締役では頬有株式が少なく買収資金がないので、投資ファンドに資金調達を頼ることになる。オーナー一族から取締役が株式を買い取り、親族以外への事業承継ということになる。サラリーマン重役から見れば、会社の買取りということになるが、投資ファンドから資金調達しているため、支配株主が創業家から投資ファンドに変わっただけということになりかねない。
 また、支配株主が金融投資家などの場合、エグジット(出口)として、MBOが選択される場合がある。他社へ売却されるくらいなら、MBOをして経営を続けていきたいと考える場合である。もっとも、投資ファンドのデグジットの場合、MBOではなく、他の投資ファンドへの売却、競業他社へのM&Aという選択肢もある。
 MBOを検討する場合、税務面で公認会計士・税理士、法律面で弁護士が必要である。財務面では、財務アドバイザーが必要である。
本稿では指摘されていないが、実は一番難しいのは、財務アドバイザーであろう。金融機関・投資ファンドから資金調達しつつ、それでいて、MBOする側の立場に立って助言してくれるというのは難しい。一番無難なのは、中立的な税理士・公認会計士に助言してもらいながら、金融機関と交渉する方法であろうか。金融機関といっても、大規模企業の場合には政府系の公庫や銀行でもよいであろうが、中小企業であれば、地方銀行・信用金庫・信用組合(業種により、農協など)のほうが親身になってくれることが多い。
過去の実例でも、M&Aの財務アドバイザーの巨額の報酬が問題となったことがある。
また、上場株式、集団投資スキームなど金融商品取引法が適用される場合には、助言・媒介などのアドバイザーには金融商品取引法上の免許が必要である。
 また、本書では、経営者がMBOのメリットをよく理解することが大切であるとの記載があるが、私見では前記の疑問点があるとおり、本書を読んだだけでは、MBOのメリットとデメリットの比較、MBOの目的、M&Aの他の手段と比較した場合の特徴がよく理解できるようにならないのではないかと感じた。
第3章 MBOの実務
MBOのファイナンスを説明している。
しかし、専門用語を多用しているため、かえって説明になっていない部分も多い。
第4章 MBOにおけるM&A法務
主に会社法と金融商品取引法について書かれているが、法律の根拠条文を掲げていない部分が多く、ハウツー本という性格を免れない。
実務的に問題となる細かい論点についても触れているが、金融庁などの見解が公になっていなかったり、裁判例がない場合には、結論について明言を避けている。なお、裁判例についても、明確な引用を避けているようである。
第5章 MBOにおけるファイナンスの法務
投資ファンドが経営者をコントロールする融資条件やコベナンツ(財務制限条項)などが説明されている。
優先・無議決権株式を普通株式にできるように取得請求権付株式の条項は、投資ファンドに有利である。
また、金銭を対価とする取得請求権付株式は、株式を最終的に貸付にすることである。または、社債を対価とする取得請求権付株式は、株式を社債とする手法である。
いずれも、投資が順調にいかなかったり、投資の出口(エグジット)として、投資ファンドに有利になるように用意されるものである。
投資を受ける側としては、返済義務のない株式出資をしてもらったつもりが、借入金になってしまう危険性があり、MBO、投資ファンドを用いたベンチャービジネスなどについて、経営者としては、あらかじめ注意が必要である。