借地人の越境建築の解除の可否 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
弁護士

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対象:民事家事・生活トラブル

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借地人の越境建築の解除の可否

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相続

越境事例

最高裁昭和38年11月14日判決

建物収去土地明渡請求事件

【判示事項】 土地賃借人が借地に隣接する賃貸人所有地に越境建築をしたことが借地自体の用方違反になるとされた事例

【判決要旨】 建物所有を目的とする土地賃借人が借地に隣接する賃貸人所有地にまで越境して建物を建築した場合、右越境建築が当該隣地における賃貸人の店舗経営上非常な支障をきたすなど判示のような事実関係のもとでは、右越境建築により、借地自体の用方違反があり、地主は、借地人に対して、催告したうえで、解除できる。

【参照条文】 民法541条、 民法616条、 民法594条1項

【掲載誌】  最高裁判所民事判例集17巻11号1346頁

【評釈論文】 法曹時報16巻1号118頁

 

        理   由

第1 賃貸借契約の催告解除

 Yは、建物所有を目的とする土地賃貸借の借地上に借地人の所有する建物が、隣接の賃貸人の所有地に越境して建てられている場合には、賃貸人は土地所有権に基づき、賃借人に対してその越境部分の土地明渡を求めて権利妨害を排除すれば足り、賃貸借の目的土地に直接関係なき右の理由を以って賃貸借契約の解除理由とすることはできないのに、原判決が単に右越境建築の理由を以って賃貸借の目的たる土地の用方違反であるから、賃貸借契約の解除理由たるを妨げないと判断したことは、理由不備の違法があると主張する。

 しかし、原判決は、

訴外Aが昭和26年以来Xらの先代Bより同人所有の本件土地15坪を賃借し、その借地上に本件建物を所有していたこと、右賃借範囲には、係争の越境部分2坪余の土地が含まれていなかったこと、訴外Aの本件土地賃借当初における右地上建物の坪数は10坪5合であって、同建物は係争の2坪余の土地の部分にはかかっていなかったこと、

Bは昭和30年5月頃右貸地に隣接する自己所有の宅地内に家業のそば店舗を建築するため、その敷地を測量したところ、賃借人A所有の本件建物がその借地15坪の賃借範囲を越えB方敷地に原判示の如く2坪余越境して建てられていることを発見したので、Bは直ちに右Aに対し越境の建物部分の収去を申入れたこと、

右越境の部分がB方店舗二階客座敷への昇降口建設のため絶対必要な場所であったので、その後も再三右2坪余の越境部分収去の申入れがBからAに対してなされたこと、

特に昭和31年6月25日A側に立つ訴外C立会の上測量した結果、Cも越境の事実を認め、その旨がCからAに通告されたこと、

Bは翌6月26日付、同月27日到達の内容証明郵便による書面を以って、Aに対し同年7月20日までに本件建物の右越境部分を収去すべく、もし右期間内にその履行なきときは、本件15坪の土地の賃貸借契約を解除する旨の催告及び条件付契約解除の意思表示をしたが、Aはこれに応ぜず、右期間を徒過したこと、

Yは同年7月23日頃Aより本件建物を買受け、同年9月19日その所有権移転登記を経由したことを確定したのであって、

以上の事実関係の下において考えるに、借地人Aの本件所有建物と地主Bの所有店舗とが右の如く極めて近接しており、本件借地上の借地人所有の建物の越境が地主Bの店舗経営上、非常な支障を及ぼすべきことの明白なこと、

右越境を目して結局本件借地15坪それ自体の用方違反、すなわち賃借人としての債務不履行ありというに妨げないとした原判決の判断は是認できる。

 そして、相当期間をもってする右用方違反の是正の催告、すなわち、越境建物部分の除去の催告とともにその除去を条件とする原判示賃貸借契約解除の意思表示は有効であり、従ってBとAとの間の本件土地賃貸借契約は右催告期間の徒過とともに解除されたのであるから、Yは既に消滅した賃借権の譲受をAと契約したにすぎないとした原審判断は、首肯できる。

第2 賃貸借契約解除後の建物買取請求権

 Yは、原審が右契約解除を是認したのは民法541条の解釈を誤まり、またYの本件建物買取請求権の主張を否定したのは借地法10条の解釈を誤った違法があると主張するけれども、右賃貸借契約解除が有効であることは第1点について説示したとおりであり、既に本件借地権消滅後に本件建物を買受けたYには、本件建物の買取請求権はない。

(注)ただし、類似の事案で解除を否定した下級審裁判例もある。

大阪地方裁判所昭和49年5月10日判決・判例時報774号107頁

建物收去土地明渡請求事件

【判示事項】 借地人が賃借地に隣接する賃貸人の土地に跨って建物を築造したとしても、両者の信頼関係を破壊するものではないとして、右契約解除の主張を排斥した事例。ただし、越境している部分については賃料が払われていないから、越境部分の賃料相当損害金の請求のみ認めた。

【参照条文】 民法541条、民法594条

(注)当職も、借地人が隣の地主の土地に越境している事例を扱った経験がある。しかし、裁判所の見解は、解除に否定的であった。

越境事案の解除のポイントは、以下のとおりと考えられる。

・越境が地主の知らない間に無断でされたこと、

・借地人は越境していることを知っていたこと、

・借地人が越境したことについて、やむを得ない理由がないこと、

・越境部分が借地部分の面積と比較して大きいこと(割合、面積の広さ)、

・越境部分について、地代が払われていないこと、

・越境されている隣接地の地主に具体的かつ多大な迷惑が生じていること、

・地主が黙認せずに、すみやかに是正を求め、是正されていない場合に催告解除していること