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映画のはなし(9) ルンタ
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この映画の中でのあるシーン。色とりどりの無数の小旗が碧空の下、強い風に流されています。
一人の男性が空に向かって小さな紙を何枚も撒いています。
その紙に描かれているのは馬の絵。神の使いの馬の絵。
「ルンタ」とはチベット語で「風の馬」を意味し、人々の願いや思いを風に託し仏や神々のもとに届けるというふうに信じられています。
強い風にあおられた旗はバタバタと音を立て、その音はまるで馬が駆けているかのよう。
さてこのドキュメンタリー映画「ルンタ」は中国当局によるチベットへの弾圧によって拷問を受けたり故郷を失ったチベット人を支援する、一人の日本人に同行する形で撮影されています。
インド北部の町ダラムサラに住む建築家、中原一博さん。空に向かってルンタを撒いていた方です。
亡命したチベットの人々の支援をしていて、ブログでは焼身抗議をした人の人となりを綴っています。
メディアを通じて日本に伝わってくる報道では「チベット僧が焼身自殺」というような断片的な情報として伝わってくるのみです。
この映画の中では「焼身自殺」と呼ぶのではなく「焼身抗議」と呼んでいます。
中原さんは焼身抗議をした場所に出向いたり、その人に近い人に取材をし人となりを聞いています。
そこでわかったことは中国当局の弾圧に対して抗議をするのは僧だけではなく一般人も、むしろ一般人のほうが、男性だけではなく女性も、抗議をする年代で一番多いのは20代と10代。
焼身抗議をした人々は過激な思想を持っていたわけではなく、このような抗議をするのは自分が最後でありたい、ふるさとの言葉や文化や人々が弾圧によって破壊させることのない未来であってほしいと願う若者達でした。
解決をさせるためには暴力や武器を使うのではなく非暴力で。
しかし非暴力を貫くがゆえに誰かに報復するというのではなく自己犠牲になってしまっています。
またこの映画は焼身抗議だけではなく遊牧民の定住化政策、天然資源の採掘に伴う環境汚染、強制的な言語規制、敬虔に仏教の教えを守る人々、などが中原さんの目線から描かれています。
この映画のことを私が知ったのはJ-WAVE「JAM THE WORLD」に池谷薫監督が出演をしたのを聴いていたのがきっかけでした。
世の中いろいろなことがあり、知らないこともたくさんあります。
メディアからの報道ということだけではなく、身の回りに起こったことについても知らなかったということもあることでしょう。
まずは「知る」ということが大事だと思っています。知らなければ「考える」ということができないのですから。
チベットの人々が峠でルンタを撒きながら願うのは旅人の安全であったり、世界中の人々の幸せ、自然への感謝、自分と同じの苦しみを他の人が受けないことであったり。
自分のためだけに願うという考えはかれらにはありませんから。