成澤 利幸(音楽家、打楽器奏者)- コラム「オーケストラの楽譜、パート譜の考察」 - 専門家プロファイル

成澤 利幸
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成澤 利幸

ナルサワ トシユキ
( 長野県 / 音楽家、打楽器奏者 )
成澤打楽器音楽教室 
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オーケストラの楽譜、パート譜の考察

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2013-04-07 15:37

 オーケストラは弦楽器・管楽器・打楽器・ときどき鍵盤楽器で演奏されます。

 

楽器の種類はハイドンの古典派からロマン派では10~12種類。

 

打楽器はティンパニだけ使用される楽曲が多く、それ以外はバスドラムやシンバルなどが使われます。

 

ロマン派以降では管楽器や打楽器の種類も増加しオーケストラ全体では20種類以上にもなります。

 

ただロマン派の中でもベルリオーズは打楽器を多く用いていますが、その時代では異例の作曲家。

 

なんせ「レクイエム」では8人のティンパニ奏者を用いたくらいですから。

 

 

 オーケストラでは楽器ごとパート譜といわれる各楽器専用の楽譜があり、その譜面を見ながら演奏します。

 

実はそのパート譜、「1つの曲につき1つの種類の楽譜がある」というわけではないのです。

 

 ではどこが違うか、なぜ違うか。大きな理由としては

 

  ・校正者や研究者

 

  ・出版社

 

によって変わってきます。

 

 

 ロッシーニが作曲した「歌劇『セビリアの理髪師』序曲」を例に取り、更に打楽器に特化して話しを進めましょう。

 

ここでは2種類の楽譜を取り上げますが、この2つの楽譜は打楽器の記譜が異なります。

 

  [出版社]ブライトコプフ社(ドイツ)、 リコルディ社(イタリア)

 

  [使用される楽器]ブライトコプフ社はティンパニ、バスドラム(大太鼓)

 

     リコルディ社はティンパニ、バスドラム、シンバル

 

  [参考音源]クラウディオ・アバド指揮 ロンドン交響楽団(1971年録音)

 

     シャルル・デュトワ指揮 モントリオール交響楽団(1990年録音)

 

     サー・ロジャー・ノリントン指揮 ロンドン・クラシカル・プレイヤーズ(1990年録音)

 

     クラウディオ・アバド指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1996年録音)

 

 

 楽譜を見る限り出版社の2社とも校正者の記載は」ないため出版社で校正したと思われます。

出版社の国に注目してみるとドイツとイタリアの2国になっています。

 

ブライトコプフ社は多くのオーケストラ譜を出版しており、全世界でのネットワークと信頼度が高い。

 

リコルディ社はイタリア、ロッシーニもイタリアの作曲家なのでイタリア人作曲家の多くの楽譜を出版しています。

 

 

 使用されている打楽器は2社ともほぼ同じ種類なのですが、書かれている小節やリズムが異なっています。

 

モントリオール響とロンドン・クラシカルの演奏をCDで聴く限りリコルディ社の楽譜を使用していると思われます。

 

ロッシーニはイタリアの作曲家であるから作曲者の意を汲むのはイタリアの出版社の楽譜であろう、ということなのでしょう。

 

 ですがここで別の理由が出てきます。

 

それは「ロッシーニが作曲した時、序曲にはバスドラムしか書かれなかったのではないか?」という見解を示す専門家もいるのです。

 

 

 ロッシーニが「セビリアの理髪師」を作曲した時は多忙で、序曲だけが初日の幕開けにどうしても間に合わなかったため前年に初演された別のオペラの序曲をそのままここに使ってしまった、という逸話が残っています。

 

偶然にもこの序曲が「セビリアの理髪師」の序曲としてはふさわしい性格のものであり、聴衆のうけもよかったためそのまま定番となったのです。

 

 

 閑話休題。ロッシーニはこの序曲にバスドラムしか使われていないという学説を基に演奏されたのはロンドン響とベルリンフィルの演奏です。

 

演奏されたオーケストラの国よりも指揮者のアバドはイタリア出身の指揮者だということがここでは重要なポイントになるのでしょう。

 

 

 それ以外の違いでは単に出版社が書き間違えて印刷してしまったと思われる部分もあります。

 

これは歴史の流れとも曲の解釈とも違う、別の理由があるのです。

 

編集者が間違えたまま版を作り印刷をしてしまうと、その後に版を修正し印刷しなおす手間が掛かる上、莫大な費用が掛かってしまうという内部の事情も理由なのですが。

 

 

 ロッシーニの他の楽曲の特徴や作風、時代背景から考えるとリコルディ社のほうがロッシーニらしさが感じ取れると私は思います。

 

同時期の作曲家はドイツで育ったベートーヴェン、オーストリアにはシューベルト、フランスにはベルリオーズがいます。

 

演奏する上でどの楽譜を選択するかということも演奏に直結しています。

 

パート譜ひとつをとっても(裏側も含めて)いろいろなことがあるということが「クラッシック音楽を演奏する」醍醐味のひとつなのです。

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