橘凛保の創作浄瑠璃「広島に咲いた希望の花カンナ」

橘凛保の創作浄瑠璃
「広島に咲いた希望の花カンナ」

（朗読）

カンナの花が咲きました
まっ黒こげの大地に
真っ赤なカンナが咲きました

カンナの花言葉は「堅実な未来」



ひと月半前のことでした
その朝　
私は夏の暑い日差しを浴びて
生まれた小さなカンナでした

子どもたちが元気に学校へ行くのを見ていました
子どもたちは私に声をかけてくれます

私も緑の葉っぱを一杯にゆらしてこたえました

あとからお母さんが忘れ物を持って追いかけてきます

さっき私にたくさん水をくれたとなりのおばさんが
洗濯物を干しています

向いの若い奥さんがお弁当を持って出てきました


（浄瑠璃語り）

頃は　１９４５年８月６日
時計は8時１５分を指したまま黒こげに


大根混ぜたご飯を炊いて　弁当作るいつもの朝
洗濯ごしごしジャブジャブ　パンパンと
干場に出れば手を合わせ
今日の無事をぞ祈りける



もんぺにてぬぐい割烹着
しわを伸ばして　パンパンと
叩けば隣も　パンパンと

向いの旦那も「おはよう」と
かばんを持ちて出かけるところ

「あなた　お弁当」
あとから奥さん弁当箱持ちて主人を送りける



戦争の世とは申せど日常の　暑い夏の朝でした


間もなくサイレン空襲の　
知らせに人々集まりて
不安に見交わす顔と顔
サイレン止みて　戻りきて
もんぺを手にした瞬間に

真横に走る閃光が　銀ともなんとつかない色でした


その一瞬にして　暗闇と土ぼこり
家は跡形もなく失せにけり


目を開ければ　夏の太陽眩しくて
遮る物のなにもなく
ただただ広がる瓦礫の焦土

中略


（朗読）

花も　人も　鳥も　草も　犬も　蝶も　家も・・・・
みんな　みんな　なくなりました


私も爆風に飛ばされて小学校にきました

やけどをおった親子の上に落ちました

さっき私に声をかけてくれた　あの女の子でした
忘れ物を届けたお母さんでした
覆い被さるようにして倒れていました


（浄瑠璃語り）

語るに惨い夏でした



ひと月半が過ぎました


この絶望の地に真っ赤なカンナが咲きました
たくさんの人々の
たくさんの命の
尊い赤い血潮をすって・・・・・・咲きにけり


中略

（浄瑠璃語り）

親の願いはただひとつ
国やことばは違えども
子のすくすくと幸せに
育ちしことにぞ　ありにける
その幸せを　奪うもの
二度とあってはならないと
語り伝えていくことが・・・・・


（朗読）

あの日の尊い命を受け継いだ
カンナの大事な役目です


ほら見て下さい
私は今日も咲いています
あの日のたくさんの命を頂いて

しおれてなんかいられません
メソメソしてなんかいられません

未来はあるのです

ほら私をみてください
命は生きています

命をつないでいきましょう
堅実な未来のために

そして伝えていきましょう
大切な　未来のために・・・・