吉野 真人(医師)- コラム「アルバイト医師の急増と医療環境の変質(2)」 - 専門家プロファイル

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ヨシノ マサト
( 東京都 / 医師 )
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アルバイト医師の急増と医療環境の変質(2)

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2009-06-01 07:00
(続き)・・最近、週刊誌やテレビなどを賑わせているテーマの一つが、病院勤務医の過重労働や医師不足、医療崩壊などです。医師のうつ病や過労死、過労自殺も増えているそうです。うつ病や過労死などは、社会全体がそのような傾向になっているので、医療界だけの話ではありませんが、たいへん由々しき事態だといえます。

 勤務医の過重労働については、近年の「研修医制度」が拍車をかけているといわれています。つまり大学医学部を卒業し、医師国家試験に合格した「医師の卵」は、初期研修のための病院を自由に選び、就職することが出来ます。その結果、伝統的な就職先だった大学病院への就職者が急減し、大学病院が深刻な人出不足に陥ってしまったのです。

 人員が足りない大学病院は、地域の中核病院から中堅医師を次々と引き上げ、今度は中核病院が手薄になってしまいました。そのような病院では教育が行き届かないため、研修医からはどうしても嫌われます。その結果、中核病院に勤務する医師は極端な過重労働となり、次々と退職する医師が増えてしまっているのです。それが医師不足を引き起こす悪循環の原因の一つです。

 病院を退職した医師は、いったいどこへ行くのか?・・一つの選択肢は「開業」です。近年は開業ラッシュといわれ、開業する医師が後を絶ちません。開業を支援するコンサルティング業者もたくさん存在し、各業界から進出してきています。その結果、都市部を中心に開業医の過当競争の状況になりつつあります。経営不振で廃業してしまう医院も少なくありません。

 ところが上記のように、病院勤務の過酷さに嫌気がさして、消去法的に開業した医師が、経営上うまくいく可能性は高くはないでしょう。ちょうど会社勤めに嫌気がさして脱サラしたサラリーマンが、ラーメン屋をやっても上手くいく可能性が低いのと同じです。どうせ独立開業するならば、明確なポリシーとビジョンをもち、困難を克服する気概を持たなければなりません。

 もう一つの選択肢が、冒頭より述べている「非常勤医」です。これならば、起業の上でのリスクやコストもかかりません。病院勤務よりは基本的には楽だし、実入りも意外と良い。身分上の保障は弱いのですが、病院経営が軒並み苦しくなっているご時勢では、相対的な不利さは目立たなくなっています。

 病院・医院側にしても、このような非常勤医に頼らざるを得ない事情があります。一昔前には、多くの医師の人事は「大学医局」が握っていました。他の業界の方々が本当にビックリすることの一つに、この独特の医師人事があります。大学を卒業して10年、20年経ったベテラン医師でさえ、大学の指令で病院を転勤するという古式ゆかしい慣例が、今でも踏襲されているのです。

 病院は優秀な医師を確保するために、大学の医局(内科や外科、耳鼻科などの科目別の職能集団)には本当に気を遣います。お歳暮を欠かさないのはもちろん、定期的に「大学詣で」をして、医師を派遣してもらえるように働きかけます。これは病院にとって、死活問題なのです。何があっても大学には逆らえない、という圧力を感じていました。

 ところが既に述べたように、大学病院も人出不足に陥っています。各病院にしてみると、もはや大学だけには頼っていられません。従って、大学以外の人事を模索することになります。しかしそのような自前の医師のプールを持っている組織は、徳洲会など一部の例外を除いては殆んどありません。

 そこで、民間の医師派遣業者に頼ることになります。ここには非常勤医師のほか、常勤医師の募集も出します。「年収○○○万円以上」とか、「年休○○日以上」とか、いろんな宣伝文句で勧誘しています。年末年始などは余計に人出不足になることが予想されるので、早めに当直要員の確保に動き出します。

 そのような医師側、病院側の事情を背景とした利害が一致し、こういう医師派遣業がにわかに隆盛となっていますが、これは患者側にとってはどのような意味があるのでしょうか?医師個人の特質や病院の姿勢によるのでしょうが、手放しでは喜べない一面もあると感じます。

 医師が不足もしくは欠員し、医療そのものがストップしてしまう事態に比べれば、非常勤といえども病院に来て診療してくれた方が、患者には福音になると言えます。しかしながら、その医師がひっきりなしに代わったり、無責任な医師だったとしたら、患者にとっても病院にとっても不幸なことです。

 患者にとって大切なことは、医師が責任をもって診てくれることです。理想的には、長年にわたり同じ医師が、昼夜を問わず診てくれるのが一番良い。しかし今の時代にそれは難しい話ですし、それを補う組織的な取り組みがあれば良いでしょう。常勤、非常勤を問わず、プロとしての意識が問われているのではないでしょうか。
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