乾 喜一郎
イヌイ キイチロウ『ヘルプマン』は「震災編」。ケアをする側も、頑張りすぎない…
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『ヘルプマン』は、介護の現場を舞台としたマンガ。
連載開始は10年ほど前、
まさに介護保険制度が実地で運用され、さまざまな問題が浮き彫りになった時期、
それ以来、現場の奮闘と歩みをそろえて連載を続けてきた、
大げさでなく、日本の介護の歴史、ケアの歴史を体現した作品だと思います。
しばらくぶりに購入した最新刊は6月発行の21巻。
主人公の一人、社会福祉士の「仁」が出張に出かけた先で震災に出会います。
現場での綿密な取材をもとに書かれたというエピソード。
仁は何度も何度も自分の無力さに落ち込むことになりますが、
そのたびに同時に被災したみんなや、支援しようとしたお年寄りに助けられ、
また、頭の中の百太郎に「こんな時お前ならどうする?」と問いかけて
前を向いていくことができるようになります。
ヒーローを描くのでも、解決を描くのでもない。
仁は自分が前を向けたことを確かめ、
今動いているに違いない各地のヘルプマンの存在を確信して、
自分の地元へと戻っていきます。
この、自分の無力さを受け入れたうえで、
見えない各地の仲間たちとの連帯を確信して自分の現場に戻る、という戦い方には、
シンプルな物語の「スッキリ」はありませんが、
でもそのぶん、本当に胸が熱くなります。
現実と共に、作品も、
「とりあえずのところでふみとどまるタフさ」を
読み手に与えてくれるようになったということでしょうか。
この感覚、連載当初とは全く異なる感じです。
ヘルプマン!(21) (イブニングKC)/講談社
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第一巻
ヘルプマン!(1) (イブニングKC (70))/講談社
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始めの頃のヘルプマンと、この本と絡めたお話を、次回にできればと思います。働きすぎる若者たち―「自分探し」の果てに (生活人新書)/日本放送出版協会
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