あるところで、40代後半の男性が、妻の愚痴をこぼす。
「冷蔵庫、開けたら閉めろと言っているのに、どうして閉めないんだ!」
この夫婦の結婚歴は不明だが、
子供がいなくて、夫婦二人きりなのだという。
恋愛感情もとっくに終わってしまった二人にあるのは、
「冷蔵庫、開けたら閉める」を巡っての静かな対立だ。
妻のほうは、全く直そうともせずに、
夫の小言を無視して、ひたすら開けっぱなしにする。
まるで、夫に対するささやかな抵抗のように。
夫はひょっとして、他に別の女がいるかもしれない。
妻がそのことを知り、冷蔵庫を閉めないという行為を繰り返しながら、
夫に抗議をしているのかもしれない。
あるいは、
妻がまるで妹のような存在で、常に我がままを放ち、夫がそれを許すという夫婦関係。
それにしても
恋もエロスの香りも皆無で、しかも子供というかすがいもないこの夫婦をつなぐ唯一のことが、
「冷蔵庫、開けたら閉める」を巡る両者の対立というのも、夫婦関係を考察する上で、とても参考になる。
結婚生活は、育ちも環境も全く異なる他人同士が一緒に暮らすことだから、
「こんなはずではない」の連続なのだろう。
だから「こんなことするなんて」と、つい相手を責めたりすることもあるだろう。
素直に直せばいいのに、いろんな感情のもつれで、
ついつい野放しにしてしまって、
相手が不愉快なことも、直す気もしない。努力もしない。
こういう夫婦関係って、きっと甘えが日常的にあるのだなあと、シングルの私は羨ましいとさえ思う。
結婚に適齢期などないが、
20代、30代、40代と年代ごとに、結婚そのものが変わってくるのは当たり前なことだろう。
例えば、20代で結婚したとすると、ついつい相手に甘えてしまって
「許してくれるだろう」とタカをくくってしまうことも頻繁にあるのではないか。
でも年齢を重ねると、
注意されたことを意識して直そうとして、直ることと、
どうしても直らないこともある
という人間の本質めいたことを知ってくると
直せるものなら、さっさと直そうと思うのだ。
長い間一緒にいると、求めても、叶わないことが多いことを思い知らされる。
それが夫婦だと思う。
だから
注意されたら、直そうと努力したい。
どこかで必ず、直せないことがあるのだから、
その前に相手に対する思いやり貯金として。
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